静電気のように痺れた感覚が認識を焦がし、喉元を苦く震わせ、心臓の速い唸りが耳奥を塞ぐ。
「ま……さ、か……」
息が思うように吸えない。
視界右に映る黒外套が光を奪い、最悪の可能性が意識を凍てつかせる。
「アンタ……アサシンとマスターに……聖杯戦争の証拠隠滅を、頼み込んだの?」
大きく開いた瞳孔がクソ神父の不気味な微笑みで埋まり、頬を伝う冷や汗の軌跡が疑問を溶かし――
「答えなさい!」
愉快そうに、目の前で瞳を閉じた神父を怒鳴りつける。
語気を弾丸のように放ち、蝋燭の白い煙が鼻孔を熱く抜け、全身の熱が両腕を震わせた。
「……ふん」
クソ神父の一言が耳奥を鋭く掠め、鳥肌が立つ。
発火した怒りが黒煙を撒き、足元を飲み込む影が冷たく広がり、狼煙が上がる。
――指先が神父の胸倉を掴んでいた。
「アンタ、コレでも神父の端くれでしょ?」
表情一つ変えない神父に語りかけるように、目線を合わせて対等に話す。
サーヴァント、マスター、監督役。
……そんなのは関係ない。
「だから……何だと?」
「いい加減にしろ! 一般人を巻き込むなんて、理由が理由でも……やるべきじゃなかった!」
倫理観を燃料に、熱を吐いていく。
掌と喉が震え、噛み締めながら紡いだ一言が余計な鉄錆を溶かし、本音が鋭く神父の発言を切り、心臓の鳴りが小さくなる。
……何度もサーヴァントに狙われたから分かる、アレは人間兵器だ。
一般人に向けて水爆を放つようなモノ、決して振りかざしてはいけない力。
「ふん……正しさなど……己を肯定する免罪符に過ぎない……」
掴んだ腕を徐に振り払い、煙を立てるクソ神父。
当然白旗を掲げない姿勢が地中の怒り――地雷を起爆させ、喉元が熱くせり上がり、歯の食いしばりが耳奥でプツリと音を立てた。
「違う! 私は、公平じゃない力の有り様に文句を言っているだけよ! 幾らなんでも戦力差があり過ぎるのよ!」
怒りから染み出た悲しみが鉄のような神父の言葉を錆びさせ、唇に残った血の味を無理やり押し込み、吸った空気が鼻先を凍てつかせる。
神父と私の幼少期のような力関係と同じだ、一方的に組み伏せられ、弄ばれ、抗う事すら出来ずに血を流す。
……訳も分からないまま、殺られていく。
振り払われた圧力を感じながら両拳を作り、クソ神父を睨み付ける。
「では、どうする? 正義のミカタに……でも成るかつもりか……貴様が……」
立ち上がり、ニタリと口角を動かすクソ神父は、獲物を得た肉食獣のように鋭く私を見据えていた。
押し込むような沈黙が呼吸を奪い、心臓の唸りが早まっていく。
……私は、もう。
顔を必死に振り、ドス黒い圧力の前で。
「ええ……成るわよ、アンタの望み通り……正義の味方って奴を!」
高らかに宣言する。
教会全体に反響した声音が、この道が遠くにある事を示しているようで、雲のように霞んだ理想が唇を湿らせ、真っ赤な理想が感情を熱く照らす。
……無秩序なまま進む聖杯戦争が嫌なのよ。
夜に寝て朝に起きるように、人間としての指標が、ルールが無ければ未来は無いと思う。
頭上に注ぐ蛍光灯の人工的な光は――
「……勝手にしろ……貴様の行為など……魔術師から見れば……」
「偽善でしょ? 理解しているわよ、そのくらい」
――目の前の影を大きくしていく。
太陽が昇るように。
当たり前すぎる感想を右から左へ流し、冷たい風に揺れる理想が胸を温かく満たすと、熱量が喉元から勢いよく出る。
「納得できたからこそ、私は行動しているのよ。それと道中のアーチャーはアナタの差し金? 中々の腕前で、面倒臭かったわよ」
「ふん……」
クソ神父の鋭い目つきと空気が軽くなる。
近づいた黒外套が後退し、上下に揺れた十字架が蛍光灯の光で白く輝き――
「管轄外だ……恐らくアーチャーのマスターが指示したのだろう」
――腕を後方に組み直し、真剣な表情で私を凝視していた。
たった今、私とクソ神父は明確な対立関係が成立した。