「うぅ……うるさい……わ、ねぇ……」
スマホのアラームが鼓膜を破るような勢いで甲高く鳴り、逃げるような形で布団を被りながら温もりを感じる。
この生温さが瞼を重くさせ、意識が羽を広げて天国へ向かう準備をさせてくれる。
……雲の入り口だわ。
感想を残った意識に咀嚼させるが、綿菓子のように柔らかく掴めず――自分でも何を言っているのか分からなかった。
布団の中で背中を丸めながら。
……細かい事は、もういいわよ、とにかく今は。
二度寝に徹しよう、眠い。
あくび交じりに含んだ涙が頬を伝い、吸い込んだ生温かさが視界を暗く招き入れれば、ゆっくりと思考が落ち。
「マスター。勉学に励む時間が近い……遅刻するが、良いのだろうか?」
かけて、眩い光と優しい声音が浮いた意識を抑えていた。
「無理! 私を止めないで……眠い、寝たい!」
差し込んだ光をガバっと塞ぎ、ミノムシのように転がり、睡眠用の巣を形成。
防御陣形が私の気持ちだ、空腹状態で食べるなと言われて誰が食欲を我慢できようか、おじいちゃんが言っている事は、それくらい矛盾だらけ。
……眠いから放っておいて欲しいわ。
羽毛布団の柔らかい肌触りが覚醒した意識を優しく包み込めば、喉元を熱く震わせていた怒りが縮小する視界と共に鎮火し――
「ふんぬ! おはよう、マスター!」
「いやぁぁぁぁ! ふざけんなぁぁぁぁ!」
窓に差し込む太陽が双眸を焼き、素肌を鋭く抜ける冷風が鳥肌を立たせると、相棒が居なくなったことを即座に理解した。
――怒りがふらつく足に火をつける。
燃え滾った感情の煤が鼻孔を香ばしく抜け、踏み込む足元は正面を向く。
「おじいちゃんっっっっ!」
青着物に身を包むおじいちゃんの懐へ加速し、右足を一閃。
「ふむ……マスターまで奇襲とは。我もまた、教育とやらを……武士道を今一度、教えるべきだろうか?」
「コレは奇襲目的でやった事じゃない、私の怒りがそうさせたの!」
片手で受け止められた一撃。
全体重と怒りを乗せた必殺技、火種を掴まれ、燃え移る居場所を失った勢いが縮小し、風に流れた燃えカスが地面に広がっていく。
「少しは落ち着けそうか、マスター?」
「ええ……ごめんなさい」
赤黒さを失った灰色の気持ちが口元を湿らせ、腰を折って謝罪した。
雨漏りのように湧き出る自責が顔を熱くさせ、鼻孔を強く抜ける木々の青臭さが、己の幼さを示されているようで、恥ずかしい。
「顔を上げてくれ、マスター。わざとでは無いのだろう?」
理性が赤い視界を青く染め、右手に映った空が白雲を運び、優しさを想起させる。
「おじいちゃんのお陰だわ。私って、本当に……睡眠の事になると我を忘れちゃって、他人に迷惑を掛けてしまうのよ……本当に、すみませんでした」
再び頭を下げる――自責で赤面しきった顔を隠す為に。
「褒められた事では無いが、取り敢えず理解は出来た……そうだな。マスターが学校へ向かうなら、それが我に対する謝罪。その条件となり得るが……」
「うえっ⁉」
引き攣った顔を上げ、見えた目の前の景色は灰色の雷雲が立ち込めている。
ニタリと含み笑いを作るおじいちゃんが腰に手を当て、首筋を鋭く通った冷たい風が心を濡らした。
……昨日と同じで今日も睡眠不足か、辛すぎるわよ。
大欠伸を挟みながら、凝り固まった思考を動かしていく。
私を理解してくれるサーヴァントって、基本的に扱いやすいけれど、日常的な面で苦労が多いのかもしれないわね。
「取り敢えず、腹が減っては戦が出来ぬ……マスター、朝食を……」
「いや……登校時間ギリギリまで眠って……」
言葉の端へ辿り着く前に、おじいちゃんに背を向けながら寝床へ向かう。
……学校は行くとして、なおさら今は睡眠時間を確保したいところ。
自然と口が開いて。
バターとパンの香ばしさが口いっぱいに広がる。
「あ……」
ギュルギュルと鶏の鳴き声が腹を唸らせ、響いた生理現象が耳奥に流れると、顔が沸騰していく。
「……マスター」
力ない掛け声が胸を打ち付け、固まった全身が恥ずかしさで熱く燃える。