前置きした言葉と表情が脳内で重なり、フワリとした疑問が唾と一緒に呑み込まれていく。
……マンガみたいに見た目だけは一級品って可能性もあるのか。
凝視する食材の色合いに異常は見当たらないし、鼻孔を流れていく匂いも新鮮さそのものだ。
「ど、毒味と思って食べてみたら。案外……」
胸騒ぎを抑えつつ、比較的失敗が少ないであろうバタートーストを持ち上げる。
ざらつきが指先に引っ掛かり、喉元を熱く唸らせ、歯を食いしばって一口。
「どうだ? 美味いか?」
差し出された沈黙が咀嚼音と共に広がり――
口に含んだカリふわ食感が意識を鮮明にさせ、後から押し寄せた甘しょっぱい油が食欲に火をつける。
「イケる! 当たり前に、美味しい!」
――頬がとろける程の旨味が口の中を占めた。
食べ進める度に隠れていた小麦の甘みが全身に鳥肌を立たせ、巡る熱量が固まった意識を溶かし、理性が働き始める。
……食べられるけれど、この成功が偶然の産物、なんてこともあり得るわよね。
他料理を一瞥し、サラダをフォークでつまむ。
「ええい! 食べる事でしか、分からない訳だし……なるように、なれ!」
心に塗った疑心を思考放棄で重ね、パクっと咀嚼。
嫌な予感は――
「この和風サラダ、お店のメニューに追加できるくらい完成度が高いわ!」
香り高いゴマの風味が鼻孔を香ばしく抜け、シャキリとした生野菜の食感が口の中で踊り、海苔の旨味が喉元を唸らせると、感動が溢れ出てくる。
「凄く美味しいわよ!」
「それは良かった、ひと安心だ、マスター」
――胃に美味しく収まった。
ホロっと笑顔が零れたおじいちゃんが、前触れもなく立ち上がり、直後に苦い顔を見せた。
「褒めているところ申し訳ない、マスター……明日から数日間は朝食を用意できそうにない」
「え……」
「先のアーチャー戦で……我は動き過ぎた、被弾し過ぎた。致命傷では無いが、修復には大量の魔力が必要。そして時間が掛かる。それ故に、我はマスターを信用して……」
飲み込んだ緊張が、とても苦い。
「今から二日後まで。霊体化状態で過ごそうと思っている。危険だと判断した場合、令呪で行使して欲しい」
鋭い眼光が理性を射抜き、堂々とした立ち振る舞いと言葉が表情筋を強張らせた。
「え?」
芯が抜けた震えが口元から出ていく。
夢の中に居るようなフワフワとした思考が視界をぼやけさせ、思わず手が止まる。
「それって、つまり……私一人で二日間、過ごせってこと?」
「つまり……そうなる、な……」
苦し紛れに絞り出された最悪が胸を叩き、バツの悪そうな表情が鼻孔を苦く満たし、巡った血が全身を震わせた。