言葉が上手くまとまらない、陰りが目の前の崖に私を突き落そうと後ろで待機している。
……最悪を通り越して、もはや恐怖しかないわ。
冷や汗が滝のように背中を流れ、不快感が広がっていく、徐々に意識が薄らいでいく。
「じゃ……私は、どうしたら……」
この感情に向き合い、ケリをつけ、納得できる方法は。
……外出は出来ないだろうし、神父や変態サーヴァントに位置情報が渡っている分、室内も安全じゃないわけで。
真っ暗な思考の中で解決案を探すが、不安が喉元を冷たく乾かすだけで、結論は出ないまま。
時が流れ――
「携帯が鳴っているぞ、マスター。出た方が良いだろう……」
「え? ええ……」
――突然の着信が耳奥と意識を震わせた。
「はい。もしもし、杏です」
「杏サーン? 私デース、桐枝エマです!」
聞き間違いだろうか、甲高い声がスピーカーから聞こえ、条件反射でスマホの画面を確認する。
……桐枝エマ。
「夢かしら。もう一度、確認しようかな……」
再び耳元のスマホを宛がい。
「モシモーシ! シモシモ! 桐枝デース、エマです! 杏サーン!」
日葵が一月の冬場に咲いた。
「うえっ」
凍結した意識が強制解凍され、無防備な心が露になる。
「ど、どうしたデースか? 気持ち悪いデースか?」
「い、いいえ。き、気にしないで……」
ドリアンが臭いだけで味自体は美味いように、一瞬の拒絶反応が起こっただけ。
「それよりも。どうして、私の携帯電話の番号が分かったの? 教えていないはずだけど……」
疑問符が脳ミソに引っ掛かり、頭上をクルクルと回転する。
口内を満たしていく探究を飲み込み、青着物の微かな揺らめきが、舌先に残ったコーヒーの苦味をじんわりと広げていく。
……もしかして。
「おじいっ……いや、私のサーヴァントに……」
「ランサーさんデース!」
予想通りの回答に若干の爽快さを感じ、睨み付ける。
……自分のファーストクラスを相談もなしに暴露、なんて事をすればタダじゃ済ませないわよ。
「許せ、マスター。彼らと協力関係を維持するには、同じ土俵に立つ必要があった。平等で無ければ、武士道が泣くと……」
深々と頭を下げるおじいちゃんの脳天は、ゲームのように切り込み線が入って見えた。
疑問形の表記すら生温い、私の怒りは文字よりも言葉、理性よりも本音を沸き立たせている。
「そう、ランサーが教えてくれたの。ありがとうね、エマ……たっぷりと最後の話し合いが出来そうで、嬉しいわねぇー」
表情筋の可動域と声のトーンが下がり、ぼやけた視界が薄暗く鮮明に、握り締めた拳がメキメキと音を立てた。
「マスター冷静になって聞いてくれ。まず独断で行動した事はコチラ側の配慮に欠けた内容だった……謝ろう。すまなかった」
青着物が上下に揺れ、頭が上がり。
「だが、大きな収穫もあった。我が不在の間、アサシンを倒すまでの協力関係にある彼女達が責任を持って、マスターを守護してくれる」
「え、いや……本当なら……」
生身で戦場を駆け抜ける危険が無くなるし、もしかすればエマ達の拠点に身を置くことも現実的な話になってくる。
ニタリと上がる口角が陰りを舐め取り、鼻孔を抜けていく春風が脳内を明るく照らす。