Fateセカンドクラス   作:佐藤夜空

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第30話

 ……いや、信用しても良いのだろうか。

 舌先の渇きが一瞬の疑念を生み、咲き乱れた、上ずった感情が枯れ始め――

「ランサーの言う通りデース! 私達、ケイヤクヲ交わしたデースよ? なので、安心して護られてクダサーイ!」

 小鳥のような純粋さが耳奥をノックすれば、斜めに注ぐ太陽の光が視界をオレンジに染め、全身に鳥肌が立つ。

「それじゃあ、本当に……」

「うむ。マスターを独りにはさせない……杏のサーヴァントとして」

 ――団子のように柔らかで、甘い世界が地中に埋もれていた。

「おじいちゃん……」

 黒髪のなびきが悶々とした感情を流し、熱くせり上った喉元が静かに震える。

「ありがとう……エマさんも、私の個人的な事情を汲んでくれて助かるわ。今回は、アナタの言葉に甘えさせて欲しいです……お願いします」

 目の前のおじいちゃんに頭を下げ、電話越しのエマへ再び重ねていく。

 空を切る柔らかな風が瞼を抜け、ジワリと溜まった熱量が零れ、胸元の熱が優しく広がる。

「オーケーです! 杏サーン!」

 甲高い了承が耳奥を震わせ、目の前でそっと頷くおじいちゃんが滲んだ視界に入った。

「おじいちゃんが信用する相手だし……私も、エマさんを信じてみようと思います。これからよろしくお願いします! 二日間は迷惑を掛けるというか、半分お荷物状態ですが……」

「大丈夫デース! チョーカッコイイ、伊達男も居るので心配ないデースよ!」

 一瞬、ノイズが耳奥を締め付ける。

「お嬢チャン! 俺様に掛かれば、キレイに、豪快に、派手な花火を打ち上げられるからよぉー安心して、背中を任せなー!」

 迫り来るような男の声が心臓を唸らせ、思わずスマホから耳を遠ざけた。

「う、うるさっ……」

 耳がキーンとざわついている。

 片耳を手で抑えながらスピーカー機能を指で選択し、日本語が部屋に響く。

「ゴ、ゴメイワクを……申し訳アリマセーン。コレの声は、私のサーヴァント、最高の相棒で理解者のセイバー、伊達政宗デース!」

「へ、へぇー。随分と。こ、個性的なサーヴァントねぇー」

 納豆のように癖が強くて、耳に纏わり付くような、しつこい感じだけど。

 ……それに普通、一時的な協力関係にある人間に重要な真名とクラスを言うかしら?

「私のサーヴァントは、最強デース!」

 自信満々に腰へ手を回すエマの姿がスマホ越しでも想像できる。

「そうね、確かに……最初にエマさんが敵陣に割って入った時も。今、考えてみても勇気があるなって思うわ……」

 考えも無しに行動へ移す度胸がない私には、羨ましくて、私に足りない要素なのかもしれない。

 スマホを握り締めた指先と緊張が緩み、根に深く染み込んだ疑問が蒸発していく。

「イイエー。街のヒト達が、うるさくて眠れないとオモッタからデース。ユウキなんてアリマセーン、よ?」

 損得勘定でも無く感情論で動いているのか、彼女は。

「どうして。そんな、心優しいエマさんが……聖杯戦争に参加を?」

 溢れ出た疑問が渇いた口先を潤し、真っ直ぐ捉えた視界が青で満たされ、沈黙が走った。

 他人を想う優しさがあれば、真逆の立ち位置である魔術師同士の殺し合いに参加するなんて現実的じゃないし。

 ……その行動原理が、彼女の参加条件にあると踏んでいるわ。

 コーヒーの香ばしさが鼻先を掠め、心臓の高鳴りが全身の毛を逆撫でていく。

「その願望が、悪い事に使われる可能性があるから……デース」

 静かに、鋭く放った一言が私の核心を射抜き、喉元が震えた。

「そう……」

 呟いた、既読する為に発した言葉すらも恥ずかしい。

 ……私は魔術師として聖杯戦争は勝利の為に動き、長宗我部家の初代当主、長宗我部元親に子孫が生きている事を、栄えている事を、知らせたかっただけで。

 ヒーローみたいに他人の命を守る、他者的動機付けで動いていなかった。

 私は――

「たぶん……エマさんが思っている以上に杏という人間は、自分本位なのよ」

 吐き出した言葉が耳奥で弾け、俯いた視界に灰色の影が映り込み、キュッと心臓を締め付ける。

「でも……杏サーンは」

 ――主人公になれない。

「アサシンの問題の時に、神父サーンのところへ居たデース。大勢を救いたいと思わなくても、身近な誰か一人を救いたいとオモッタだけで、充分デース」

 差し伸べられた手が塞ぎかけた耳元をこじ開け、太陽の光が再び差し込む。

 ……照らし出され、正義に見出されたのであれば。

 ゆっくりと前に動かした視界が青く揺らめき、微笑むおじいちゃんが立っていた。

「そうね、エマさんみたいな主人公になれなくても、贋作くらいにはなれる、かもね」

 努力をしなければ、この運命に失礼だと心から思う。

「私、かっこいいヒーローデスカ?」

 なれない事を理由にして、現実に向き合わないのは思考を放棄したのと同義だから。

「ええ、そうですよ。ありがとうございました、私の中で溜まっていたことが、今までの出来事が、腑に落ちた気がします……」

 他人の為に動く理由が出来た、喉元に固まった冷気をゆっくりと吐き出し、立ち上がる。

 

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