「そうデースか! 私も、杏サーンに負けないように、頑張りマースヨ!」
目指すべき指標が跳ねるような声で耳元を叩く。
「はい……それと……」
短く言葉を返しながら窓ガラスを触り、外側の話題に切り替える。
「エマさんが知り得るアサシンの情報と他サーヴァントの情報が欲しいです」
「ホウホウ」
「もちろん、私も情報を提示します。開示が終わり次第、作戦と決行日を立てましょう」
差し込んだオレンジが闇に溶ける暗殺者を照らしているようで――
「いいデースよ? アイボウも、同意デースか?」
「ふん、実に! 燃える展開じゃないか! 死闘を繰り返していた敵同士が和解し、認め合い巨悪に立ち向かう……最高だ!」
「すばらしいデース! さすが、サイコーの相棒デース!」
――私もテンションが上がっていた。
絵本の赤白囚人服を探せ、みたいな雰囲気が速くなる心臓の鼓動を宥め、鼻先を掠めたコーヒーの香ばしさが、朝の和やかさを思い出させる。
……暫くは一人で聖杯戦争を、殺し合いを抱え込まなくてもいいのか。
誰かと会話をしながら過ごす朝は久しぶりだ、死がチラつく期間を長く笑いながら過ごせた事は無かった。
ふと。窓越しに映ったおじいちゃんの緩んだ表情が、私の心臓に刺さる。
……親戚だからこそ、見せたくない弱さがあったのかもしれないわ。
結局、大切な人を傷つけてしまうのなら秘匿性を優先する――私との関係性を開示しない理由が正しくソレだった。
ほのかに広がる苦味が舌先を締め付け、沈黙が冷たく首筋に絡みつく。
「モシモーシ? デンパ、悪いデースか?」
「あ、ああ……な、何ですか?」
甲高い現実が思考を戻し、自然と聞き返した。
「もう一度、話した方がいいデースか?」
「お願いします……すみません」
「気にしてないデース。私がアサシンを見た事は残念ながら。デスガ、他のサーヴァントは見ましたデース。金髪のオトコノコと戦っていたオンナのヒト……そして……そして」
珍しく口籠るエマの声質は、ハッキリせず、迷っているように聞こえた。
……どうしたのだろう、口に出せないとサーヴァントとか?
一通り渋った声色がリビングへ響き渡り、静寂が反響する。
「異様にクライ女性? デシタネ……遠目なので、ワカリマセンが……多分、デスネ」
咀嚼して確かめるような言葉が吐き出されていた。
「そ、そう……私は見た事が無いわね……え……」
フックのような引っ掛かりが舌先をキュッと引き締め、トーストのざらつきが停滞していた思考を捲らせる。
「女?」
「はい、そうデース」
指で追った文字が想像を否定し、歪みが鼻先を冷たく駆け抜ければ、視界が止まる。
「見間違えたとかじゃなくて、本当にアサシンとは別物ですか? エマさんは、ソレは女性だと言っていましたが予想に至った要素は、どこですか?」
アサシンと対峙した際、私に向かって放った一言が変態男そのものであったように。
……確信的なモノが有れば、証明できるのだけど。
飲み込んだ緊張が耳奥を埋め――
「ハイ、ソーデスネ……ピンクのハートの首飾りが見えてイマシタ! そして、何よりも女のカンというヤツが働いた感じデース!」
「ああ……わ、かりました」
――空返事をするしか無かった。
また面倒な敵が増えたと思えば、吐いた息が視界を半透明に染めていく。
……同盟関係成立後に、アサシンのような会話不可能な敵が現れるのね。
少し前後しただけで、現状は変わっていないような気もする訳で。
「ちなみに、ソレと遭遇した場所って覚えていますか?」
「確か……隣町のカンラクガイ……だったと思いマースヨ? 相棒!」
一瞬、賑やかな声音が離れ。
「それは土佐市で見たな! ふん。そう言えば、俺の美しく派手な一刀と伊達男な一面に、奴は尻尾を巻いて逃げて行ったな!」
豪快な笑いが場を盛り上げた。