「ハアハア……」
息を切らしながら教室のドアを開ける。
時間にして、八時五十分――大幅な遅刻のはずだった。
「なあー、最近さ、ココの治安やばくねーか?」
「マジそれ。てか、今日の神吉市の事件って、規模的にテロじゃねぇーの?」
歩くたび耳元のざわつきが舌先を乾かし、視界が曇っていく。
「あーそれな。百人だって? ネットじゃあさぁ、集団自殺って書いてあるけれど、国家レベルの人体実験かもしれないってさー」
「それって陰謀論だろ? ナイナイ。信じる奴って基本的にバカだけだぜ。信用ならないって」
胸騒ぎが心臓を叩き、緊張が背中を冷たく伝う。
……また事件、なの?
スマホを走らせ、SNSを物色し、発見する。
「高知県神吉市……百名越え大規模自殺……って……隣町じゃない」
呼吸が止まりかける。
血の匂いが鼻孔内に充満し、錆び鉄の味が賑やかな空気を殺伐としたモノに変えた。
……また、サーヴァントなの?
黒々とした予測が這いまわり、光が狭まる。
「午前四時半頃……騒音で起こされた住人の通報で事件が明らかになった、話によれば……現場では、叫び声や絶叫が数時間に渡り起こっていた、と……」
舌先に残った紅茶の渋みが忘れかけていた死を連想させ、心臓の唸りが耳奥に纏わり付く。
……自殺を指揮した犯人は、腰まである長髪黒に中肉中背の女性。
鳥肌が指先まで伝う、上手くスクロールできない。
エマさんが遭遇した謎サーヴァントの見た目と一致している部分――
「未だに逃亡を続けている。情報をお持ちの方は高地警察署まで連絡を……」
写真は無いようだけど、被害に遭った住人の証言や恐怖で潰れそうな女性の顔が、唇を噛み締めさせ、コーヒーの香ばしさが鼻先を柔らかく通った。
……同じ女として見過ごせないし、正義の味方になれるように努力するって。
今さっき決意した訳だし。
――起こった時間帯と大規模被害から、サーヴァントの仕業だと頷けてしまう。
時計の秒針が胸をざわつかせる。
「どうして……立て続けに……」
机に突っ伏して見えた闇が唇を震わせ、安易な予測に赤信号を提示した。
……いや、変態サーヴァントが犯人だって可能性もあるわ。
神父と手を組んで、私達に嫌がらせ――
鼻孔を滑らかに抜ける果実の匂いが喉元を熱くさせ、黒い体躯が顔を出す。
十字架が揺れる金属音と冷静沈着な声音が耳奥を叩く。
……クソ神父じゃないかも、しれない。
――散らばった思考を止める。
握った右手が形を確かに伝え、飛び起きる。
「そもそも、被害の規模で言えば、対峙した変態サーヴァントの言動には無理があるかもしれないわ」
スクロールする指が上下していく。
……エマさんが出会った例のサーヴァント、ソイツが掛けていたピンクハートのネックレスの証言があれば、ビンゴよ。