「ところで、杏サーン!」
「え、な、何ですか?」
右肩に柔らかな感触と薔薇の香りが鼻孔を甘く抜け、緊張が駆け巡る。
「もしかして……キンチョウしてマースカ? もしかして、ソレはメールの内容に関係してマースカ?」
「ち、違う!」
左肩を掴まれ、逃げ場が無くなる。
「嘘デースよ? 顔、赤くなってイマス!」
メール画面が視界を赤く染め、熱が喉元を燃やしていく。
「最悪だわ……もう、言えばいいのでしょう?」
途端に妖艶さが消え、満面の笑みで頷くエマ。
人通りが多くお昼過ぎというのもあって、四方八方に注がれる視線が通るたびに心拍数を上げ、恥ずかしさが全身に熱を通わせる。
「そ、その……なんて言うか、百名規模の自殺って人間一人で管理するモノじゃないし。ピンクハートのネックレスを着用したサーヴァント見たって情報も上がっている訳で……」
詰まりかけた言葉を呑み込み、熱を吐き出す。
「なので、三桁規模の人災を引き起こすサーヴァントは危険だと判断し、エマさんと調査協力をできないかと思いまして……連絡しました」
「つまりは……私と一緒にセイギノミカタをやりたいと!」
俯いた視界の暗さが恥ずかしい感情を薄めていく。
「そ、そうなりますね……」
「いいデースよ、モチロン! その代わり……」
沈黙が耳奥を冷たく満たし、舌先が乾く。
「ワタシを呼ぶときの名前の最後……エマさんのサーンをヤメテくれればいいデースよ?」
「つ、つまりはさんづけをやめれば良いって事ですか?」
「ハイ! その通りデース!」
恐る恐る上げた視線がエマさんで満たされる。
……それも屈託のない笑みで。
「わ、分かりましたよ。エマ……」
視線を左に外し、震えながら単語を絞る。
どうせ言わされるなら予め腹を括るしかないと思う、恥ずかしいけれど。
「ふーん、杏サーン。セイチョーしましたネー」
ニヤリと上がった唇と足元に染み付くタイルのざらつきが、眉根を歪ませた。
「私だって人間なのよ? この面倒臭いエマの扱いも分かってきたし!」
前方へ軽く飛び――
「そっちこそ。片言の敬語、いつになったら終わるのかしら?」
振り返りながら微笑んでみた。
甘酸っぱい花々の香りが鼻孔を掠め、高揚感が喉元を熱く満たしていく。
「オー! イッポン取られてしまいマシタネー」
「言い出しっぺとして、先行させてもらうわね」
――事件現場に早足で向かう。
首筋に張り付く冷たい風が鳥肌を立たせ、心臓を軽く撫でた。
「それにしても暑くなったわね……本当に四月?」
「今日の最高気温は二十度デース。サマーバケーションですー」
後ろで聞こえた声色の弱さが、この気温の異常さを伝えている。
見上げた視界が赤く染まり、頬に滲んだ汗の流れが不快感を増幅させた。