「意外よね、エマって陽気な感じなのに……暑さに弱いなんて」
「はぁい……ホット……苦手デース……」
「ま、まあ。現場に到着する前にコンビニへ寄りましょうか」
珍しく賑やかさが沈み、無言の時間が続く。
……え、もしかして私、地雷でも踏んだ感じ?
足元から漂うアスファルトの焦げた臭いが不安を煽る。
……急に、後ろが気になって来るじゃない。
ホトトギスの鳴き声が耳元で私の言動を責めてくるような気がして。
「エマ大丈夫? コンビニに行く事が、そんなに気に食わなかったの? もしかしてスーパー派だったの?」
最後の方は、自分でも何が言いたいのか分からなかった。
けれど――
「うぅ……」
唸り声が聞こえてくるのは、状況として危険なのでは。
「う、後ろ。向くわね? いい?」
――エマに何かあっては、私がやっていけなくなる。
身体を反転させ見えた景色が、金髪がするりと隣を通り過ぎていく。
「え?」
「アイスー食べたいデースよ! 早く、コンビニへ行きマショウ!」
両手を挙げながら空を切ったエマが、目の前から遠ざかる。
……うーん、何だろう。
口内に流れる風が思考を冷やし、舞い終わった黒髪が頬骨を擦り、本音が露出していく。
「ふざけんなー心配して、損したっての!」
止まっていた足元が怒りで震え、腕が伸びた。
「待てーおい!」
向けられる奇異な視線をくぐり、エマを追いかけていく。
差し込む太陽の熱が額に汗を滲ませ、信号機の赤が狭まった心を留めた。
……私、何をやっているのだろう。
凄惨な出来事があって、そこに行くのに。
「はしゃいだり、怒ったり……」
車のエンジン音が耳元で唸り、整え始めた呼吸を乱していく。
「まま―コレ、コレ! ブーブー! ブーブー!」
「そうだねぇーブーブーだよ? カッコイイね!」
和やかな会話が熱した感情をほどく。
……まるで子供ね。
頭上に広がる空の青さが、自分の幼さを痛感させてくる。
舌先に残っていた紅茶の渋みがおじいちゃんを思い出させ――
「昨日や一昨日も言われたはずなのに、ね……」
通過する人混みが空間を埋め、踏み出す一歩が重くのしかかる。
――冷えた指先が喉元を唸らせた。
ギラギラと注がれる太陽光が、より一層コンクリートに湯気を立たせていく。
「どう? ホワイトチョコモナカ美味しい?」
「イエース! 杏サーンのオゴリですから、もっとオイシーですよ?」
無邪気な顔を傾けて、エマは甘いセリフを呟きながら早足で前を歩き始めた。
「答えになっていないし……それって、ただのクズでは?」
「ソレよりも、どうデースか? 何分でツキますかー?」
ひび割れたコンクリートの段差が足元を掬いかけ、ざらつく空気が舌先を締め付ける。
「多分……数分だと思うわ」
「了……解、デースよ」
咀嚼音が耳元を打ち、バニラの香りが鼻先を掠めていく。
……本当に分かったのかしら、不安なのだけど。
頭上を照らしていた太陽が白雲に隠れ、不安を纏った薄暗さが明度を下げる。
「何か」
急に全身が重たくなった気がした。
……嫌な空気だわ。