Fateセカンドクラス   作:佐藤夜空

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第38話

 進むたびに住宅街の静寂が空気を凍てつかせ、どんよりとした気配が全身に鳥肌を立たせていく。

「杏サーン。ココが事件現場に近い場所デースよね?」

 首を傾げるエマ。

「あっ! モナカ!」

「アァァァァ!」

ベチャリと音を立て、モナカが歩道にめり込む。

「最悪デース」

 ……見てしまったコッチも、なんか、縁起が悪くなりそうで怖いわ。

 丸まった背中が失ったモノの大きさを教えてくれた。

「まあ、帰りにでも買ってあげるわよ……だから、ね?」

「ハ、ハイ……アリガトウございます……」

 震える手を握りながら背中を押し、今度は隣を歩く。

 耳裏に触れる温かな風と顔を出した太陽の熱が、全身の血を巡らせていく――

「可笑しいわね、左甲の感覚が無い……エマは寒くない?」

「寒いデース……右腕が動かないデース」

 ――が、進む度に容体が悪化していく一方だ。

 周囲を見渡す限り、一戸建ての住宅街が縦並びに続き布団や衣服が干され、何の変哲もない。

 ……強いて挙げるなら、駅から遠くない距離にあるせいか、割と家は豪華なのよね。

 徐々に締め付けられる頭で考えた違和感が黒く滲んでいく。

「アイボウともツナガラナイ……デース」

「え? てっきり霊体化した相棒が歩いていると思っていたけれど」

 視線をぐるりと回すが、相棒の姿どころか通行人の姿自体が見当たらない。

「明確な異常だわ、変よ……だって、今はお昼過ぎで、しょ?」

 線香のように纏わり付く不安が鼻孔内を抜け、心臓の跳ねが耳奥をガンガンと打ち付けていく。

指先の震えと吐き気が静寂を拒否し、飲み込んだ唾の重さが本能に訴えかけてくる。

 ……左甲のヒリつきも無視できないほど痛む。

 エマの腕を掴み、踵を返す。

「ち、力が強いデース……杏サーン。右腕がさっきよりも痛むデースから……ほら」

 歩みと共に意識も留まる。

 青白く輝いた令呪がエマの腕に巻き付き、血管の流れが浮かび上がっている。

……私も。

 恐る恐る左腕を捲り、令呪を晒す。

「状況も、痛みも……同じだなんて!」

 錆び鉄の酸っぱさがこめかみを通り抜け、自然と華奢な腕を引っ張っていた。

「撤退よ、エマ。ココに居ると危険だわ」

「で、でも……せっかく来たのにモッタイナイデース」

「分かっているわよ、それくらい。でも、エマの相棒だっていない……令呪や魔術回路だって……」

 筋繊維を引き裂くような痛みと腕の痺れが撤退を促している。

「そうデスガ……」

 流れた始めた沈黙が、振り払われた掌の温度を静かに冷ましていく。

 ……おじいちゃんがブレーキの踏み方を教えてくれた。

少しでも成長した姿を見せてあげたいから。

 言いたいセリフが喉元を熱くせり上がり、吐いた息を白く染め上げた。

「……ざんね……ん」

「ランサーのマスターの言う通りだぜ? 相棒!」

 吹き抜いた温かな風が暗い雰囲気を飛ばし、赤と黄金が混じった鎧が上から降ってくる。

「アイボウ! ど、どこへ行っていたデースか!」

「おうよ、真のイケてる伊達男は、な! 後から豪華に見参していくモノだぜ!」

「怖かったデース、アイボウ! もう、何処にも行かないでクダサーイ!」

 抱きしめ合う二人は、まるで親子のようで、両者共に涙を流していた。

「か、感動シーンのところで悪いのだけれど……セイバー、ちょっと……いいかしら?」

 気まずいが、情報収集は物事を解決する上での核――我慢しないと。

「なんだ。この伊達男であり、イケメンな俺に何用だ、ランサーのマスターよ!」

「単刀直入に言わせてもらうわよ。この一帯を包む瘴気は、何?」

 鎧に傷が入っていない時点で、戦闘に巻き込まれた可能性は捨てられる。

「セイバー、あなたは何処へ居たの?」

 斜めに向くセイバーの含み顔が疑問を凍らせる。

 冷たい風が後ろ髪を舞い上げ、セイバーの影が視界をぼやけさせ、一瞬の静寂が喉元を唸らせた。

「それは俺のセリフだ……最高の相棒と連絡が付かなくなるとは! 地上で探そうとしても、毒のせいで地上は移動できない……」

 空気が震え――

「故に! 我は空から舞い降りた! どうだ、伊達男だろう?」

 ――自身に満ち溢れた声音が政宗の口から放たれた。

 

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