Fateセカンドクラス   作:佐藤夜空

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第39話

「さすがデース、アイボウ! 頭がイイデース、天才デースよ!」

 隣で響いた拍手が顔を引き攣らせ、鼻孔を流れた空気の層が冷たくなる。

「ッ……」

 静電気が左甲から走り、セイバーの言葉を想起させた。

 ……地上は毒。

 抑えた手をさすりながら。

「セイバー。毒って……」

 黒布で隠れた顔を凝視する。

「……詳細は分からない! だが相棒との交信が取れず、この地の魔術回路が極度の興奮状態を覚えた事は。逃げる理由にはなるだろうな!」

 豪快に笑ったセイバーの足元は揺らめき、舌先の乾きが喉元を鳴らす。

「セ、セイバー。アナタの足……黒いわよ?」

「これか! マスター達がこの地へ向かう二分ほど前に踏み込んだら……この有様だ! それが原因で少々、マスター達の姿を見失ったが……な!」

 ドス黒い真実が捲られた。

「ナンデースか、コレは! 真っ黒な足デース、大丈夫……ですか?」

 外傷や内出血でも無い、世界から脚だけを切り取ったような黒さ――影だ。

 ……もし原因が、セイバーが話した通りに、魔力関係なら。

「セイバー。私とエマさんをいっぺんに人気のない場所まで、移動できる?」

「伊達女だねぇー、全く相棒の友人も! 目立ちたいのか……関心!」

 頷かれる意味が理解できない。

 巻き付いてくる風と反転する風景が、二人の常識のズレを示唆しているようで。

「あ、えっ⁉」

「伊達に飛ばすぜ! 派手に捕まっていろ、相棒達よ!」

 全身に通う鋭い風が双眸を濡らし、軸がグルグルと乱れる。

「無理! 落ちちゃう、早く地上に返して! お願いだから!」

 掴まれた上着が落ちかけ、セイバーの腕を必死に掴む。

「ハハッ。もっとスピードを上げるぞ! コレが我の全力では無いからな!」

「アイボウイケイケ!」

 心臓の震え。

「ま、まっ……て……ヒェェェェ」

 素肌が風にべったりとくっ付き、風が高く唸りを上げていた。

 落とした視界がビル群の避雷針を捉え、思わず息を呑む。

 ……スレスレよ、当たっても可笑しくないわよ。

 喉元の震えを押さえながら。

「セイバー! い、一体……どこへ行こうとしているの?」

「ふん、決まっているだろうランサーのマスターよ。我らの城だ!」

 緩みかけた加速――

「さあ、このままハデに行くデースよ!」

 上着がメリメリと音を立て始める。

「え、嘘でしょ?」

――纏わり付く重力が全身の骨を軋ませた。

 

立ち込める生地の香ばしさが喉元を唸らせ、嗜んだ紅茶の渋みが全身を熱くする。

「先程はゴメンなさいデース。連れ回したお詫びデース、これは……」

「も、もう食べていい? アップルパイ……」

 差し出されたフォークを伺いながら取る。

「いいデースよ?」

 歯切れの良い音が耳奥を抜け、舌先に残ったリンゴの甘さが追いかけていく。

「こ、これ。お店レベル……というか、超えているわよ!」

 頬が落ちるくらい、美味しい。

 ……エマにこんな特技があったなんて、見直したわ。

「用意して良かったデース! きっとアイボウも嬉しいと思いマースヨ!」

「は? 今なんて言った?」

 血糖値が脳内を巡り、見開いた視界が揺らぐ――手が止まる。

「もう一度イイマスネ! このアップルパイは、アイボウが作りました!」

 喋りながら無邪気に笑ってみせたエマ。

「いや、そうじゃ……」

「ふん、この伊達男であり派手で優雅な俺が作ったのだ、美味いに決まっているじゃないか!」

 その後ろで揺らめく銀着物が、誤解を進めていく。

「も、もう……好きにして下さい」

 歪んだ空気を肺に詰め込み、鼻先にかかるため息の生温さが思考を冷やし始めた。

「そうか! 次は羊羹でも振る舞おう!」

 一気に古臭くなった、春なのに夏を思い出させるラインナップだった。

「イイデースね、作ってクダサーイ!」

 ……エマは、本当に外国人なのだろうか?

 太陽光に反射する窓枠がアップルパイに薄く差し込み、様々な疑問が浮かび上がっていく。

 

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