「そんなの、今は関係がありまセーンよ!」
瞼に溜まる涙腺を月明かりが反射していた。
「な、泣くほどのこと? まだ死んでいないわよ、私は生きているわ」
肩に触れた震えが私の思考を滲ませ、エマの金髪が風に流れていく。
「そういう……問題じゃありまセーン……自分をギセイにする手段が、ワタシは嫌デース」
「意味が分からない、どうしてそこまで。敵だった私に感情移入できるの?」
斜めに構えた視界の黒が胸を締め付ける。
ロウソクの灯りを消した私には、闇の中でしか物事を見る事が出来ない。
「分からないわよ、私には……今はエマと同盟関係にあるけれど、いつかは殺し合わないといけなくなる……」
排気ガスの臭いが鼻孔を満たし、握った掌が熱くなる。
「ワタシは……カンケイ無いと思ってイマス……今が重要デース」
「じゃあ、なぜ聖杯戦争に参加したの? こんなに優しいエマなら……血生臭い殺し合いを望まないはず……でしょ?」
バラの香りが喉元に引っ掛かり――
「ハイ……私は自分で、参加していません。タノマレマシタ……聖杯へのワタシのノゾミモ……自らの願望ではないデース」
そっと掌を宛がったエマの顔が月明りに照らされた。
「どうして笑えるのよ……自己犠牲って、怖いモノじゃないの?」
――思わず唾を飲み込む。
「カッコイイから。自分が望み、納得した行動……理想だからデースね」
「自分が、望んだ事……」
落ち着いた声色が耳奥を抜け、胸が叩かれる。
……自分で選択した道を後悔しているのね、私は。
「杏サーンのコトバには、負の感情しか無いデース。楽しかったとか、嬉しいとか……無いデース」
「だから、止めたのね……」
「ハイ……恐怖があるウチは……やらない方がいいデース」
肩を落としたエマの表情は緩んでいる。
「どうすればいいの? アサシンはともかく、百名規模の犠牲者を出したサーヴァントは所在も、動機……クラスすら不明なのよ?」
分かっている事と言えば、性別が女でエマ達が遭遇した事実だけ。
「ならば。伊達男である、俺の出番だな!」
腕を組みながら、独眼竜が私とエマの間に割って入る。
「アイボウ! 何か、思いつきましたか?」
「ああ、相棒達の派手なやり取りで、覚悟は決まったぞ!」
豪快に笑い飛ばし、黒髪をかき上げながら。
「俺の眼を使う。地味だが、行動は派手にやらせてもらう予定だ!」
「そうデース! その手がありましたネ!」
二人だけで盛り上がっていた。
「意味が分からないだけど……説明してくれない、エマ?」
「ハイ。アイボウの眼は特殊で、能力を見破りやすいデース。なので、ソレをアイボウが高速移動しながら、場所を特定する案デース」
……要するに、力技って事ね。
顎に宛がった指先が離れ、疑問が吐いた息を白く染めた。
「待ってセイバー。その作戦……毒に侵される危険性が高くない?」
「問題ない! 身体に染み付いた毒がどのようなモノか分かれば、自然と事象は逃げていくモノだ!」
独眼竜の声色が疑問を吹き飛ばし、風音が後ろ髪を通り抜ける。