呼吸が浅くなる。
電池切れを起こしたライトのように、道標は闇の中へ消えた。
……明らかに、あのサーヴァントは危険だわ。
目の前の高層ビルが揺らめき、舌先が乾いていく。
「杏サーン、下へ降りマショウ!」
グイっと引っ張られた手が、恐怖ごと断ち切る。
「ごめん、私……動揺しちゃって」
「ハンセイは後デース、今は……」
口内が鉄の味で満たされ、コンクリートの硬さが素肌を削った。
「な、なぜ……」
私が横たわっているのだろう。
「クソ……派手に間に合わなかったか。大丈夫か! 相棒達よ!」
焦げ臭さが鼻腔にへばり付き、銀鎧が刀を抜いていた。
「大丈夫デース。杏サーン、怪我はないデースか?」
「心配は……いい、から……指示を」
訪れた沈黙の重さが、立ち上がった脚を震わせる。
「防がれてしまいましたか……しょうがないですね……」
「オンナ、オカス……オレサマガ、ヤル!」
弾丸のように飛び出したアサシン――
「邪魔が入りましたね……代わりに私から謝罪しましょう」
――鳴り終わった爆発音が、鼻孔を焦がした。
「派手だな、オマエ。だがアーチャー。貴様には足りない要素がある、明確に!」
「何ですか、いきなり。マナーがなっていませんね、いくら魅力的でも……」
「それは……」
遠くで赤色灯が消える。
「貴様が、いやらしく弓で敵兵を狙うところだ!」
「くっ……アナタが言える事ですか。戦いに美学の文字すら無い小国の王が!」
火花が右から左、上下に咲き乱れる。
……戦闘位置があそこまで遠いと、介入できる余地は無さそうね。
金属同士の擦れが耳奥で小さく鳴り、拳を強く握らせた。
「ああ! 辛いデース、ハガユイデース。もっと近くでタタカイを見守りたいデース!」
フェンスの振動が選択を迫る。
……セイバーの元へ行くべきか、否か。
おじいちゃん不在の今、私はお荷物確定として。
「エマはセイバー……相棒の近くへ行きたいわよね?」
「ハイ!」
真剣な眼差しが私の決意を固めていく。
「なら……私は、ここにいて結末を見届けるわ」
「ソウは言っても……」
左視線に置いた一瞬。
「アサシンは気にしなくてもいいわ。アレとは、私は一回戦った事があるのよ。しかも、生身でね!」
言いながら力こぶを作ってアピールする。
「ホントウに……ダイジョブでしょうか?」
「信じなさいよ、私を。ヒーローになりたければ、他人を信じる事だって時には大切よ?」
「アリガトウ……ゴザイマス」
小さくなった背中をポンっと押し、視線を左甲へ向ける。
……いざとなれば、おじいちゃんを令呪で呼ぶわよ、杏。
黒く澱んだ視界に夜気が流れていく。