「アンタ、これでも英雄の端くれ? 人間に本気を出して恥ずかしくないのかしら?」
赤い外套がフラフラと立ち上る。
「コロス……モットコロス……ニカイメ」
片腕を庇いながら、ジリリと後方へ距離を取り始めた。
……一対一の状況で何をしてくる?
砂のざらつきを感じながら、再び魔力を流し込んでいく。
「二度目の正直にならない事を祈るばかりだわ」
薄暗い雰囲気が頬を冷たく掠める。
「ニガサナイ」
湿ったコンクリートを踏み抜いたアサシンの足元が軋む。
「キャッ⁉」
強い衝撃が腹部を襲い、砂粒が飛び散る。
「カンショク……」
「で、しょ……う、ね……」
見下げた赤い瞳が瞬き、擦りむいた右頬の痛みが疼く。
……アサシンとは思えないパワーだわ、油断していたら気絶していたかも。
轟く稲妻がアサシンの全容を浮かび上がらせる。
「誰よ……アンタ……」
言葉が震える。
まるで深海に飛び込んだように呼吸が陰り、光が消えていく。
「ミ、タナ」
歩くたびに爛れた顔が水溜りへ滴り落ち、蒸気が視界を半透明に染める。
……ちょいと、マズいかもね。
懐にしまった砂も一握り程度――防ぐか攻撃するか。
「コノ……オレヲ!」
選んでいる余裕なんて。
「こ、の……」
「コロス」
砂盾で攻撃を防ぎ、左方向へ吹っ飛ぶ。
「……さすが、英霊って。感じ……」
右腕を回しながら近づいて来る英霊。
……陰で暗躍するってより、脳筋って感じだわ。
「コンドコソ」
「アサシンにしては、力が強いわね。もしかして、コレがアンタのセカンドクラス?」
立ち止まるアサシン。
「どうしたの? まさか当たっていた……感じとか?」
焦げ臭さが鼻孔を劈き、雷鳴と音色が耳奥で重なる。
「ボクサツスル」
吹き付ける冷風が手元に広がる泥を振動させた。
……一か八か、成功例は指を折れるくらいだけど、やるわよ。
「杏!」
染みた泥水が手の可動域を狭めていく、感覚が鈍る。
「シネ」
ブレ始めた視界が赤く染まり――
腕に巡った熱量が口内を血液で満たす。
「ストーン・プラント!」
振るわれた衝撃がアサシンを叩く。
「ギィィィィ!」
――後退した影が、その場で甲高く呻き声を上げた。
滲んだ額の汗が頬骨を伝い、手が震える。
「ナニヲ……シ、タ?」
「ふ、ん」
圧迫する心臓の鳴りが代償を吐き出させる。
「ソウカ」
雨の降りが強まっていく。
……魔法陣なしで魔術を打てた、でも。
流れた錆び鉄の香りが鼻孔内を濡らしていく。
「ゲンカイ。ダナ」
置かれた一拍が歪曲し、両腕の軋みが敗北を連想させる。
……もう、ダメかもしれない。