頭上の瞬きが思考に落下する。
「諦めてたまるか! エマ達が戦っている……簡単に捨てられない!」
握り締めた泥が指先をざらつかせる。
焼き付く喉元の熱が固まりかけた決断を溶かした。
「イキノネヲ、トメル」
溶けだした異物が空を切る――右へ駆けだした足元が滑る。
「……ハシッテモ」
「ストーン……」
コンクリートを貫通しつつ八方を囲む砂鞭。
「プラント!」
「ムダダ!」
爆発と共に冷風が首筋を鋭く削った。
「くっ!」
噛み締めた唇の圧迫感が悪寒を消し去っていく。
……寒さに負けるには、早いわよ、私。
「コンドコソ。オワリダ」
右から左へ瞬間移動のように、幾度も降り立つ炎。
……月が後ろにあるから、余計に見えにくい。
「コロス……」
「消えた⁉」
屈んだ視線からソレは消える。
「カクジツニ!」
空気の震えが沈黙を引き裂き、体内の熱さが素肌に触れる。
瞬間。
「ギャァァァァ!」
痛みと熱さが強引に引き抜かれ、全身が震え上がった。
……肩が、重い。
流れ出た液体が足下へ落ち、雫が泥水を濁らせる。
「アァァァァ! クソっ……」
下がった右肩に力が入らない、砂が掴めない。
「ヒヒヒヒ……アハハハハ」
悪夢が闇夜の中でひしめき、焦げ臭さが鼻孔内を満たしていく。
「わたし、は……」
「シネ……コンドコソ……タノシイ、タノシイ!」
心臓の唸りがアサシンの言葉を震わせ、呼吸が遠くなる。
振り下ろされた指先が、睨んだ瞳に入る――
「我が全て……産み落とそう……この輪廻をもって、世の全て……解き放とう」
曇った視界が白渦を巻いて歪み、全身が中央へ引き寄せられる。
「ナニガ……クソガァァァァ! ジャマガ、ハイッタ!」
――片腕が白渦の中へ引っ張られていく。
「お、落ち。落ちる!」
脚で踏ん張ろうと力を入れるが、湿ったコンクリートが一人勝ちを許してくれない。
……何が、前で起こっているの?
窓ガラスが割れる音とコンクリートの歪みが視界を落としていく。
……建物自体が傾き始めている?
額に触れた冷たい風と背中に当たる振動が身体の自由を奪う。
「クソガ。ヤラレタ……ニゲ、グァァァァ!」
半透明になったアサシンの身体が渦中へ引き寄せられ、見えなくなる。
「どういう……キャッ!」
ズルズルと滑り込んだ全身が柵に激突――足場と化した柵が不安定に上下していく。
「コレって……」
差し込む光景が痛みを忘れさせる。
「この場に集いし魂達よ……」
澄み渡った声の主が上空を制し、一面を埋めていた星空が青空に変わっていた。
「エマ!」
咄嗟に出た言葉が舌先を乾かす。
主を失った犬のように選択肢がグルグルと円を描き、道が無くなっていく。
……音色も聞こえないし。
後悔が渦を巻き、ゆっくりと背中を伝う雨粒が右拳を握らせた。
「ワタシが、もっと早く異変に気付いて……おじいちゃんを呼べていたなら」
微かに左甲がざわつく。
「杏サーン、大変デース!」
「派手に攻撃されている、この場から早く離れるぞ!」
渦巻いた視界に見知った蒼さが空気を切り裂いた。