「座っていいデースか?」
「ええ」
「ふん、派手に邪魔するぜ!」
ピョンピョンと跳ねるエマの後ろ姿が、熱くなった頭を冷やしてくれる。
……文脈的に、私達の返答の有無によって見逃してくれる、訳でも無いわよね。
燻った足元の影が思考を加速させていく。
「込み合った話をするのです――心地よく座れた方がいいでしょう……魔術師よ」
緑の青臭さが鼻孔を掠め、全身に鳥肌が立つ。
……あのサーヴァント、おじいちゃんを出せない事を知っている?
揺らめいた長髪が不安を誘い、煮え切らないまま緑を踏む。
「では……」
「俺が聖杯を取る目的は、聖杯そのものが派手に、そして伊達に見えたからだ!」
静寂が跳ね、緊張が足元を冷たく抜ける。
……余計な事を。
背中を伝う汗――
下手に刺激を加えれば、何をしてくるのか分からない。
――立ち上がり天を指さすセイバーを殴りたい気分だ。
「なら……仕方が無い、ですね。聖杯とは魅力あるモノ……故に、壊すべき対象でもあるのです」
「派手じゃねぇーなー。女英霊さんよぉ。太陽、派手に浴びた方が、頭がよく回るぞ?」
「ムジュンじゃないデースか、ソレは?」
小さく含み笑いを零す女サーヴァントの赤着物が揺らめく。
「い、いえ……それが私の願望。聖杯の破壊こそが、私の目的……です」
視線だけがコチラを射抜き、陰った瞳孔が喉元を唸らせた。
「アナタは? 聖杯にかける願い……あるのでしょう?」
「私が、聖杯に……」
確かめるように咀嚼した質問が、意識の縁をいやらしくなぞる。
……願いなんて、もうとっくに叶っているわ、無いのよ。
左甲に刻まれた赤い輝きが思考を眩しく照らす。
善と悪の中間を知らない子供みたいに、今の私は流れに身を任せ過ぎた。
「掛ける願いは、無いわ」
照らされ過ぎた事で、前が見えなくなっている。
「そう。アナタを……」
吐き出された沈黙が心臓を震わせていく。
「最初に殺さないとマズいようですね」
ドス黒い声に被さる形で、エマが片腕を出して庇った。
「なぜそうなるデースか! 杏サーンには、ガンボウガないデースよ?」
「そう、です……アナタの認識は正しい。ですが……」
妖艶な黒い瞳が一瞬だけ閉じ――
「もし彼女が聖杯を手にした時、アナタ方は彼女が善となる行いをすると『確実に』保証できますか?」
――ぼやけた視界を、更に揺らしていく。
「そ、ソレは……」
押し黙るエマの唇は震えていた。
……実際、私自身も善に転ぶか悪に転ぶか、分かっていない。
「意地悪だな、女子よ。全くもって派手じゃねぇーな。俺だったら、善になる可能性にベットして話を進めるぜ?」
「ふふっ。何かあったからでは遅いのですよ? 私も英霊の一人……ユエに、半端モノは花になる前に摘み取った方が、良い柿が実るでしょう」
「アンタ……本気、か?」
鋭い切っ先が長髪女の鼻筋まで伸び、荒々しくセイバーは前髪を掻き上げる。
「フェアじゃねぇー。この展開、派手に俺は嫌いだ。ソレに……アンタの評価基準で善し悪しを判断されるのは、伊達男として、相棒の友人の危機としても見過ごせねぇーのさぁー」
「不敬……です」
互いの沈黙が睨み合う。
鼻筋を冷たく通る風が喉元を軽く唸らせる。
……あの女からもロックオンされて、セイバーは先に刀を抜いてしまった訳だし。
「もう、話し合いは充分でしょう……後は私が審判致しましょう……彼に代わって」
「結局……派手な力こそが、最速で物事を決められるモノだな!」
上昇を続ける黒髪女――和解、落としどころは完全に埋められてしまった。