10秒時間を巻き戻す能力を引いた私が、デスゲームを生き残るためにやったこと 作:しまもん(ハーメルン)
光る板が現れた直後だった。
「ふざけんなよ!!」
空気を切り裂くような怒鳴り声が響いた。
中年の男性だった。
スーツ姿で、顔を真っ赤にしている。
「何が神だ! 何が殺し合いだ!!
冗談も大概にしろ!!
今すぐ元の場所に戻せ!!」
男性は天井――
正確には、声がした方向を睨みつけて叫び続ける。
「こんなことが許されるわけないだろ!!
お前は犯罪者だ!! 誰か警察を呼べ!!」
周囲が、静かになっていく。
誰も男性を止めない。
誰も同調しない。
ただ、少しずつ距離を取るように、
人の輪が歪んでいく。
――やめた方がいい。
そう思ったけれど、
その考えは喉の奥で止まった。
邪神の声が響いた。
「……ああ、はいはい」
明らかに、面倒くさそうな声音だった。
「こういう輩が、いつも現れる」
すると男性の足元の白い床が、歪んだ。
「――え?」
短い声。
次の瞬間、男性の身体が宙に浮いた。
見えない何かに、掴み上げられるように。
「ちょ、ちょっと待っ――」
言葉は途中で途切れた。
男性の身体が、ゆっくりとねじれる。
関節が、本来ありえない方向に曲がる。
足が空を掻くように震える。
「や、やめろ……!!
やめろおおおおおお!!」
絶叫。
喉が裂けるような、必死の悲鳴。
骨が軋む音が、はっきり聞こえた。
内側で何かが壊れていくのが、想像できてしまう。
邪神の声が、淡々と続く。
「全員、よく見ておくように」
男性は、すぐには死ななかった。
声が掠れ、言葉にならない音に変わり、それでも苦しみだけは終わらない。
私は、目を逸らせなかった。
次の瞬間、男性の身体が内側から潰れるように消えた。
血は出なかった。
肉片も残らなかった。
ただ、さっきまで人がいた場所に、何もなくなっただけだった。
沈黙。
ざわめきは、完全に消えていた。
誰も声を出さない。
誰も動かない。
私は、口元に当てていた指を、強く握りしめた。
……震えている。
自分の体が、小さく、確実に震えているのが分かる。
――怖い。
はっきりと、そう思った。
頭のどこかで、「落ち着いて状況を把握しないと」と考えている。
でも、その思考の上に、恐怖が覆い被さってくる。
――思考が、鈍くなる。
――このままだと……。
呼吸を、意識的に整えようとする。
でも、心臓の音がうるさくて、うまくいかない。
――これは、冗談じゃない。
――本当に、人が殺される。
邪神の声が、満足そうに響いた。
「ようやく分かったか?」
「これは遊びじゃない。
お前らの命を使った、俺の娯楽だ」
私は、唇を噛みしめた。
――怒鳴らなかったのは、正解だった。
――でも……。
視線を巡らせると、恐怖に飲まれながらも必死に考えようとしている人たちがいる。
顔色を変えず、現実を受け入れようとしている人たち。
邪神は続けた。
「じゃあ、説明に入る」
「お前らには、俺の力を分けてやる」
その言葉が落ちた瞬間、張り詰めていた空気が別の色を帯びた。