10秒時間を巻き戻す能力を引いた私が、デスゲームを生き残るためにやったこと 作:しまもん(ハーメルン)
白い空間に集められた人たちを、私はさりげなく観察していた。
怒鳴っている人。
泣きそうになっている人。
呆然として動けない人。
でも、それだけじゃない。
腕を組んで、何かを考えている人。
周囲の配置を確認するように視線を動かしている人。
表情を消して、ただ状況を受け入れようとしている人。
――いる。
――私より、落ち着いてそうな人。
私は、口元に指を当てる。
これは考えるときの、私の癖。
学校でも、そうだった。
私は勉強が嫌いなわけじゃない。
授業もそれなりに聞いている。
テストの点数も、悪くはない。
クラスで言えば、中の上くらい。
でも、上には上がいる。
同じ問題を、私より早く解く人。
私が思いつかないやり方で、簡単そうに答えを出す人。
「そんな考え方、あったんだ」
何度も、そう思ってきた。
世界には、私が思いつかないことを平然とやってのける人が大勢いる。
学校だけじゃない。
それは、インターネットを見ていれば、もっとはっきり分かる。
SNS。
動画サイト。
掲示板。
誰かが、私には思いつかない発想で、私には到底できない速度で、何かを作り上げている。
難しい問題を、一瞬で解説してしまう人。
専門知識を、当たり前みたいに振り回す人。
失敗談すら、私には真似できないレベルで糧にしている人。
――いる。
――本当に、たくさん。
顔も名前も知らないのに、画面の向こうには私よりずっと賢そうな人が溢れている。
しかも、その中の何人かは私と同じ年齢か、もしかしたら、もっと若い。
――世界、広すぎ。
そう思うたびに胸の奥が、少しだけ冷たくなる。
私は、その人たちの発言を読んで「すごいな」と思って、そっと画面を閉じる側の人間だ。
発信する側じゃない。
目立つ側でもない。
考えるのは好きだけど、それを誰かに見せる勇気はない。
――だったら。
――なおさら。
このデスゲームの参加者の中にも、同じような人がいると考えるのは自然なことだった。
SNSでは凄い人ほど、案外静かだったりする。
全部分かっているのに、あえて黙っている人。
様子を見て、他人の失敗を待つ人。
――能ある鷹は、爪を隠す。
その言葉が頭の中で、何度も繰り返された。
私は、また口元に指を当てる。
――私が思いつくことは、
――きっと、誰かも思いつく。
――私が「これで大丈夫」と思った瞬間に、
――もう一段、先に進んでいる人がいる。
そう考えると、結局、行き着く答えは一つだった。
――疑いすぎるくらいで、ちょうどいい。
――自分を信用しないことが、
――今の私にできる、唯一の武器。
私は、静かに息を吐いた。
ただ恐怖しているわけじゃない。
私は世界の広さを知っているだけだ。