10秒時間を巻き戻す能力を引いた私が、デスゲームを生き残るためにやったこと 作:しまもん(ハーメルン)
「お前らには、俺の力を分けてやる」
邪神の声は、先ほどと変わらず平坦だった。
まるで、当たり前のことを言っているみたいに。
「今から配るのは、能力だ。
能力という呼び名が嫌ならスキル、超常の力、異能、まあ、好きに呼べ」
白い空間の中央に浮かんでいた光の板が、ゆっくりと明るさを増す。
光の板には無数の項目と短い説明文が書かれていた。
――能力一覧……?
「能力の内容は、そこに全部書いてある」
邪神は続ける。
「攻撃系、防御系、補助系。
時間を操るもの、空間を歪めるもの、身体を強化するもの」
「どれも、俺の力を劣化させて切り分けたものだ。
元の俺には遠く及ばないが……」
「人間が使えば、十分すぎるほど強い」
ざわり、と空気が揺れた。
誰かが、息を呑む。
誰かが、掲示板から目を離せなくなっている。
私も、視線を外せなかった。
――本当に、能力だ。
――しかも、数が……。
多すぎる。
一目で把握できる量じゃない。
「ルールは簡単だ」
邪神の声が、少しだけ弾んだ気がした。
「一人につき、最初は一つだけ能力を与える」
「その能力は、自由に使え。
そして――」
声が、わずかに低くなる。
「他の参加者を殺せば、そいつが持っていた能力は、お前のものになる」
はっきりとした殺意の宣言。
誰かが、喉を鳴らす音がした。
「さらにだ」
邪神は、楽しそうだった。
「能力は、組み合わせることができる。
二つ、三つ……条件を満たせば、新しい力に進化する」
――進化。
その言葉に、胸の奥がざわつく。
「最終的に生き残った一人には、ご褒美も用意してある」
一瞬、間が空いた。
「劣化版ではあるが、ゲームの中で手に入れた能力をくれて元の世界に帰してやる。
まさしく神の力だ。
元の世界で使えばどんな願いも叶うだろうよ」
沈黙。
誰も、すぐには反応できなかった。
――生き残れば。
――殺せば。
――神の力を得られる。
頭が、追いつかない。
怖い。
でも、それと同時に――
この場にいる何人かの視線が、変わったのが分かった。
掲示板を見る目が、さっきとは違う。
「……質問はあるか?」
邪神は、そう言ったが、
答えを待つ気はなさそうだった。
「まあ、どうせ始まれば分かる」
そして、決定打の一言を落とす。
「能力は早い者勝ちだ」
その瞬間だった。
「え?」
誰かが、短く声を漏らす。
「最初に触れた能力が、お前のものになる」
邪神は、淡々と告げた。
「迷っている暇はないぞ」
空気が張り詰める。
誰も、まだ動かない。
でも、全員が同じことを考えているのが、分かった。
――早い者勝ち。
――取らなきゃ、奪われる。
私は、掲示板を見上げたまま、
口元に指を当てる。
――どうする?
――何を選ぶ?
心臓の音が、うるさい。
――私より、優秀な人は、たくさんいる。
――きっと、もう動き出す人も……。
その考えが終わるより先に、誰かの足音が、白い床を強く叩いた。