妖刀使いの英雄譚   作:刀は銃より強し

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ロックホーク さん。誤字報告ありがとうございます。


第一種目  障害物競走

 

 

 

『雄英体育祭!!!

ヒーロの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!』

 

『どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!?

敵の襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』

 

『ヒーロー科!!1年A組だろぉぉ!!?』

 

実況席のプレゼント・マイクの絶叫に近いアナウンスがスタジアム全土に響き渡る。

 

千鉱たちが足を踏み出した瞬間、視界が開け、視線を遮るもののない広大なフィールドが目の前に広がった。

同時に、四方を埋め尽くした数万の観客席から、地鳴りのような歓声が降り注ぐ。

 

「これほどの歓声とは⋯⋯!すごいな⋯!!」

 

近くにいた常闇が驚愕の声を上げる。

 

「そうだな、さすがに緊張してきた」

「⋯⋯⋯⋯⋯本当か?さっきから一切表情が変わっていないが⋯⋯」

「本当だ」

 

淡々と答える千鉱に対し、常闇は怪訝そうな視線を送る。

千鉱自身、常闇も相当なポーカーフェイスだと指摘しようとしたが、喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。

今ここでそんな無駄な言い合いをしても、互いの神経を削るだけだと察したからである。

 

 

 

「選手宣誓!!」

 

やがて全クラスの生徒がフィールド中央に整列し終えると、ひときわ高い壇上に18禁ヒーロー、ミッドナイトが姿を現した。

 

彼女が鞭を振るい、妖艶な仕草で司会進行を始めると、スタジアムの空気が一気に華やぐ。

 

そして、代表者として爆豪の名前が呼ばれた。

 

「えー、かっちゃんなの?」

「あいつ一応、入試一位通過だったからな」

 

緑谷が意外そうな声を漏らすと、隣にいた瀬呂がその理由を補足する。

 

ポケットに手を突っ込んだまま、周囲の視線など意にも介さない怠そうな足取りで爆豪が壇上へと向かう。

彼は教壇にのぼると、マイクの前に立つ。

 

「せんせー」

 

そして、

 

「俺が1位になる」

「絶対やると思った!!!!!」

 

切島の激しいツッコミが飛ぶ。それはおそらく、1-A全員の心の声を代弁したものだ。

 

静まり返っていた他クラスの生徒たちからは、堰を切ったように猛烈なブーイングの嵐が巻き起こる。

 

罵声が飛び交う中、爆豪は眉一つ動かさない。それどころか、親指で自らの首を横に切るジェスチャーを観衆に見せつけ、『せめて跳ねの良い踏み台になってくれ』と、さらに火に油を注いでいた。

 

そして開会式が一段落し、競技の準備が整う。

 

スタジアム中央に巨大なホログラムスクリーンが浮かび上がると、ミッドナイトが鞭を鳴らして声を上げた。

 

「さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう!いわゆる予選よ、毎年ここで多くの者がティアドリンク!

さて、運命の第一種目!今年は⋯⋯⋯コレ!!」

 

スロットのように回転していたスクリーンが止まり、『障害物競走』の五文字が鮮やかに映し出された。

 

「計11クラスでの総当たりレースよ。コースはこのスタジアムの外周約4km。

我が校は自由さが売り文句!コースさえ守れば()()()()()()()()()()()!!

さあさあ、位置につきまくりなさい!!!」

 

ミッドナイトの号令に従い、全生徒が巨大なゲートの前へと移動する。

 

数分前までの喧騒が嘘のように引き、代わりに喉を焼くような緊張感がその場を支配した。千鉱は淵天の柄に軽く指をかけ、深く重心を落とす。

 

パッ、パッ⋯⋯。

 

ゲート上部のスタートランプが一つ、また一つと消えていく。

数百人の呼吸が重なり、空気がピリピリと震える。

 

そして、

 

「START!!!!」

 

濁流のような人混みが一斉にスタジアムの外へと流れ出した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『解説アーユーレディ?!イレイザー!!』

『無理矢理呼んだんだろうが』

 

実況解説席には、絶叫に近いハイテンションで場を盛り上げるプレゼント・マイクだけでなく、担任の相澤も座らされていた。

 

ただし、相澤の声は終始不機嫌そのものだ。

まあ、USJでの死闘からろくに日も経たぬまま解説役なんてやらされたら、誰だって不機嫌になるだろう。

 

「早速だが、序盤の見所は?」

「今だよ」

 

相澤が断言したその直後だった。

 

スタートの合図と共に勢いよく飛び出したはずの、大多数の生徒たちの足がピタリと止まった。

 

その理由は物理的な限界───。1クラス20人、4つの学科、計11クラス。合計220名もの生徒が、一斉に狭いゲートへと殺到したのだ。

入り口は瞬く間に人間で溢れかえり、身動きの取れない状態に陥っていた。

 

千鉱もまた、そのような人混みの中にいた。

どう突破すべきか一瞬の思考を巡らせると⋯⋯

 

「最初のふるい」

 

ただでさえ狭いゲートの向こう側で、独走態勢に入りつつあった轟が冷徹に個性を発動させた。

 

それは以前、ビル丸ごとを凍らせたような大規模なものではない。地面を薄く、だが確実に伝い、他者の足元を絡め取るだけの凍結。

 

だがその異変をいち早く察知した千鉱は、周囲の生徒たちの頭上を飛び越えるようにして、躊躇なく真上へと跳躍した。

 

直後、彼がもともと立っていた場所は一瞬で硬質な氷に覆われる。

逃げ遅れた生徒たちは悲鳴を上げ、氷の檻に閉じ込められた。これを喰らえば、自力で脱出する手段を持たない限り、この場でリタイヤを余儀なくされるだろう。

 

千鉱は空中で体勢を整えると申し訳ないとは思いつつも、氷漬けになり動けなくなった生徒たちの頭を足場代わりにし、ゲートからいち早く脱出した。

 

「⋯⋯⋯クラス連中は当然として、思ったよりよけられたな」

 

轟の呟き通り、A組の面々はこの程度の奇襲には動じない。

それぞれが自身の個性を駆使し、凍結が足を縛り付ける前に鮮やかな対応を見せて戦線に復帰する。

もちろん、他クラスの中にもこのトラップを回避し、食らいついてくる実力者たちが何人も存在していた。

 

そして、トップの轟を追うように走る。

すると、何やら懐かしいものが見えた。

入試の時の仮想ヴィランだ。

これはチャンスだと思った千鉱は刀に触れる。

 

「【淵天】」

 

さあ、世間に知らしめよう。

 

 

 

 

 

『さぁ、いきなり障害物だ!!!まずは手始め、第一関門⋯⋯⋯

ロボ・インフェ───

「【涅】」

 

千鉱はプレゼント・マイクの放送が終わるよりも前に、迷いなく刀を振り抜いた。

 

鞘から解き放たれた『淵天』から、墨をぶちまけたような漆黒の斬撃【涅】が放たれる。

その衝撃波は一直線に、行く手を阻む巨大な0ポイントヴィランへと伸びていった。

 

激しい風切り音と共に、斬撃が巨大ロボットの頭部に直撃する。

超硬度の装甲が紙のように裂け、内部の電子回路が火花を散らす。真っ二つとまではいかなかったが、一撃で中枢機関を完全に粉砕された0ポイントヴィランは、自らの重みに耐えきれず、轟音を立てて崩れ落ちた。

 

さらに、倒れ込む巨体は後方に待機していた2体の0ポイントヴィランをも巻き添えにし、ドミノ倒しのように道を塞ぐ障害を排除していく。

 

千鉱はその爆煙の中を止まることなく駆け抜け、周囲の1、2ポイントヴィランを最小限の動きで一掃。

そのまま第一関門を突破した。

 

『───ルノ⋯⋯って、はあああ!!?

ちょっとおい!!最後まで言わせろよぉ!!!

六平!!難なく第一関門突破!!!

そのままトップに躍り出たァ!!!』

 

第一関門のロボ・インフェルノが轟音と共に崩れ落ち、もうもうと立ち込める土煙を切り裂いて千鉱が駆け抜ける。

 

スタジアムを埋め尽くした数万の観客、そして中継を見守る全国の人々が、一瞬、何が起きたのかを理解できず静まり返った。

その静寂を、実況席のプレゼント・マイクの絶叫が突き破る。

 

『YEAAAHH!!!今の見たかリスナー!!? 巨大なロボットが紙切れみてーに断たれたぜ!!

驚くのはまだ早い!注目すべきは、あいつが今振るったあの「刀」だ!!!』

 

マイクが興奮のあまり身を乗り出し、マイクスタンドを叩く音が会場に響く。

隣に座る相澤は、顔を一層険しくし、モニターに映し出される千鉱の背中を見つめていた。

 

『1年A組、六平千鉱!! その名を聞いてピンときた奴も多いはずだ!! かつての大戦を終結に導いた伝説の刀匠、六平国重!!六平千紘は、その国重が遺したたった一人の息子だ!!!

 

その瞬間、スタジアムの空気が一変した。

観客席のあちこちから、戦慄の混じったざわめきが波のように広がっていく。

 

「六平国重の息子!? じゃあ、今のは⋯⋯⋯!」

「まさか、あの伝説の『妖刀』だってのか!?」

 

ざわめきは恐怖に近い驚きへと変わっていく。

 

『YEAH!彼が持つのは、本日初公開!!

父・国重から受け継いだ未知の力を持つ一振り!妖刀【淵天】!!!!

ヒーロー科において異彩を放つ、刀一閃の剣士!! 世間を震撼させる「妖刀」の真価、今ここで初めて白日の下に晒されるぜェ!!!』

 

マイクの煽りに呼応するように、スタジアムに地鳴りのような歓声が巻き起こる。

 

しかし、プロヒーローたちの席は対照的に静まり返っていた。

彼らは理解していたのだ。あの少年が背負っているのは、ただの「家系」や「才能」ではないことを。

 

 

 

 

 

「ふぅ⋯⋯⋯言っちまったけどさぁ⋯⋯。

イレイザー。いいのか、妖刀(あれ)をこの場で見せて」

 

マイクを一時的にオフにしたプレゼントマイクは、同僚のイレイザーに声をかける。

プレゼントマイクの問いかけに相澤は低く、重い声で返した。

 

「本人が決めたことだ。⋯⋯あいつはもう、隠れて生きるつもりはないらしい」

 

画面の中、千鉱は一切の動揺を見せず、ただひたすらに前方の道を見据えて走り続ける。

 

背後に広がる爆発の炎と、観衆の狂乱。

その中心で、六平千紘の名と「妖刀」の異常性は、瞬く間に日本中へ、そして世界中へと拡散され始めていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

そのままトップを維持したまま走り続けた千鉱は第2関門に到着する。

 

『オイオイ、第一関門チョロイってよ!!

んじゃ第二はどうさ!?落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!!

ザ・フォール!!!

 

眼前に広がったのは、底が霞むほど深く切り立った、深さ10メートル以上の峡谷だった。

数十箇所の足場を細いワイヤーが網の目のように繋いでいる。

 

だが、千鉱に迷いはなかった。日々の鍛錬で培った体幹と平衡感覚には自信がある。

彼はためらわず、細いロープの上へと飛び乗る。

 

本来なら、重心を安定させるために両手でロープを掴んで進みたいところだが、あいにく片手は『淵天』で塞がっている。

鞘に納刀すれば両手は空くが、この戦場で無防備を晒すわけにはいかなかった。

 

なぜなら⋯

 

「ッ⋯⋯!!」

「よけるか⋯⋯⋯さすがだな」

 

背後から迫る冷気。千鉱が使っていたロープが、一瞬にして硬質な氷に覆われ、その表面を凍らせた。

 

 

『おおっと!!ここで轟が六平を妨害!!!

いいぞ!!落っこちてしまえ!!!』

『当然、前にいればいるほど妨害は増える。さあ、どうする』

 

 

千鉱の直後に到着した轟が、早くも仕掛けてきたのだ。

 

千鉱は間一髪、他のロープに飛び移ることで何とか攻撃を回避した。

 

「今のところ良いところなしだからな⋯⋯悪いが1位は取らせてもらう。

くそ親父が見てるんだからな

 

轟は冷淡に言い捨てると、自身の氷結でロープを拡張し、氷の道を作り上げた。

足場と足場の距離が近い最短ルートを、圧倒的な勢いとバランスで駆け抜けていく。

 

しかし、千鉱もただ黙って先を譲るわけにはいかない。

 

「【涅】」

「!!」

 

抜刀と共に放たれた斬撃が、轟の足元⋯⋯氷の道を支えるロープそのものを切断した。

轟は驚きを見せながらも、反射的に千鉱と同じロープへと飛び移る。

 

一本のロープ上、二人の視線が至近距離で合う。

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

 

両者、一瞬の沈黙。

 

「⋯⋯六平、ここは一旦休戦しないか?」

「⋯そうだな。そうしたほうがいい」

 

無駄な足の引っ張り合いは、後続に利するだけだ。

轟は別のロープへ移り、再び移動を開始した。

 

『おおっと、轟と六平、両者攻撃をやめ移動を再開!!』

『後続も追い上げている。ここで潰しあうよりも、まずは第二関門を突破することを優先した結果だな』

『イレイザーナイス解説!!』

 

そうして第二関門を突破した二人は、ついに最後のエリアへと辿り着いた。

 

『先頭が一足抜けて下はダンゴ状態!上位何名が通過するかは公表してねえから安心せずにつき進め!

さァ、早くも最終関門!かくしてその実態は、一面地雷原!!

怒りのアフガンだ!!!!』

 

目の前に広がるのは、ゴール前の広大な更地。

一見して何もないように見えるが、地面をよく観察すれば、地雷が埋められたわずかな盛り上がりが見て取れる。

だが、それを一つずつ確認していては、かなり時間がかかるだろう。

 

『地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ、目と脚酷使しろ!!

ちなみに地雷は競技用で威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必死だぜ!!!』

『人によるだろ』

 

静まり返ったフィールドに、背後から猛烈な爆音と咆哮が響き渡った。

 

「はっはぁ!!俺は関係ねーー!!!」

 

地雷を警戒しながら進む千鉱と轟の間を、爆風を纏った爆豪が強引に抜き去っていく。

個性『爆破』で空中移動ができる爆豪にとって地雷などあってないようなものだ。

 

「宣戦布告する相手を間違えてんだよ、半分野郎ぉ!!」

 

爆豪の咆哮とともに、掌から放たれた爆風が千紘と轟の頬を掠める。

 

「六平⋯⋯休戦は終わりだ」

 

轟が低く呟くと同時に、右足から氷結の波を走らせる。狙いは爆豪の空中移動を阻む障壁、そして隣を走る千鉱の足留めだ。

 

「ああ、そうだな」

 

千鉱は淵天を低く構え、鋭い踏み込みで氷を砕く。

前方の爆豪は空中から爆破を叩きつけ、千鉱と轟を牽制しながら突き進む。

だが、その衝撃が地表に触れた瞬間、隠されていた競技用地雷が次々と連鎖爆発を起こした。

 

「くそっ⋯⋯⋯!なら⋯⋯!」

「【涅】」

 

轟が氷の道で最短距離を強行突破しようとするが、そこに千鉱の斬撃が割り込む。

 

放たれた斬撃は、轟を直接狙うのではない。轟が進む先、地中に埋まった地雷をピンポイントで作動させた。

 

BOOM! BOOM! BOOM!

 

千鉱が意図的に引き起こした爆発が、轟の氷の道を粉砕し、視界を土煙で覆う。

 

「よそ見してんじゃねえぞクソが!」

 

爆豪も負けじと、自身の爆破で周囲の地雷を無理やり誘爆させ、強引に道を切り開きながら千鉱の背中に肉薄する。

 

『トップ三つ巴の潰し合い!!

六平の斬撃、爆豪の爆破が地雷を誘発する!!

まさに歩く火薬庫だぁ!!!』

 

爆風、氷結、そして黒い閃光。

三人が互いの足を引っ張り合い、加速し、火花を散らす。

その時───

 

後方で、これまで聞いたこともないような特大の爆発音が轟いた。

 

『後方で大爆発!?何だあの威力!?偶然か故意か!A組、緑谷!爆風で猛追!!?

つーか⋯⋯⋯抜いたあああ!!!!』

 

凄まじい速度で上空を飛来したのは緑谷だった。

 

「デクぁ!!俺の前を行くんじゃねえ!!」

「後続に道作っちまうが⋯⋯後ろ気にしてる場合じゃねえ⋯!」

「⋯⋯ッ!」

 

『元・先頭の3人足の引っ張り合いを止め緑谷を追う!共通の敵が現れれば人は争いを止める!!争いは無くならないがな!!』

『何言ってんだお前』

 

爆豪が爆破を連発し、轟も氷のレールを伸ばして食らいつく。

千鉱もまた、一瞬のロスを埋めるべく一気に加速を開始した。

 

しかし、緑谷は着地の間際、ロボの装甲を地雷に叩きつけ、二度目のブーストを発生させた。

その衝撃波が、追いすがる千鉱たち三人を無慈悲に吹き飛ばす。

致命傷はないが、決定的なタイムロス。

 

そして⋯⋯⋯

 

 

『雄英体育祭1年ステージ!!序盤の展開から誰が予想出来た!?

今一番にスタジアムへ帰ってきたこの男⋯⋯

 

緑谷出久の存在を!!!!!』

 

結局緑谷を抜かすことはかなわず、『2位』という結果に終わった。

 

 

 

 

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