妖刀使いの英雄譚   作:刀は銃より強し

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いろいろ詰めすぎた感………。


入学

 

 

『実技総合成績出ました。』

 

 

雄英高校の地下深く、厳重なセキュリティに守られた審議室は、重厚な扉の向こうに広がる厳粛な空間だった。

壁一面を埋め尽くす大型モニターには、入試の様子を捉えた映像がいくつも再生されている。

 

円卓を囲む教師たちは、合格者候補のリストを前に、未来のヒーローを見極めるべく熱い議論を交わしていた。

 

『救出ポイント0で1位とはなあ……仮想敵は標的を捕捉し近寄ってくる。

後半他が鈍っていく中、派手な個性で敵を引き寄せて攻撃し続けた。タフネスの賜物だ。』

 

『対照的に、ヴィランポイント0で8位⋯

大型敵に立ち向かったのは過去にもいたけど、ブッ壊しちゃったのは久しく見てないね。』

 

『しかし、自身の衝撃で甚大な負傷⋯まるで発現したての幼児だ。』

 

 

 

しばらく、爆豪勝己や緑谷出久などの受験生たちの分析が続いた後、画面が切り替わった。

モニターの中央に映し出されたのは、六平千鉱の成績表と、彼の試験中のログだった。

 

『こちらは敵ポイント42、救助ポイント24の合計66ポイントですね。

筆記と合わせても、十分合格圏内かと。』

 

千鉱の叩き出した点数はかなりの高得点であり、並み居る個性保持者たちを抑えて総合5位にランクインしていた。

 

ちなみに、千鉱に救助ポイントがあり、爆豪にそれがないのには、それなりに理由がある。

千鉱の行動は敵を倒すこと以上に「敵の足を止め、周囲の安全を確保する」という移動の阻害がメインであり、それが現場での〈救助〉として高く評価されたためだ。

 

対して爆豪は、周囲の状況を顧みない苛烈な攻撃が目立ち、「実戦ならば一般人を巻き込んでいた可能性がある」と試験官たちに判断された結果であった。

 

『そして注目していただきたいのは⋯0ポイント敵との戦闘シーンです。』

 

モニターには、千鉱が巨大な0ポイント敵の脚部を、流れるような剣筋で切断する様子が映し出された。

これは先ほど言った通り、逃げ遅れた受験生を助けるための「救助」として加点対象となったのだが、それを見た教師たちの中にある純粋な疑問が浮かび上がる。

 

『Hmmm……確かにこのシーンは凄いが、こいつホントに無個性か?』

 

『はい。入試前に公安から渡された個性診断の結果と相違ありません。間違いなく無個性です』

 

『なぜ公安が…?』

 

『わかりません。ただ、彼についてかなり気にかけているのは間違いありません』

 

『……それに本当に無個性なら、こいつの強さの秘密はあの刀か……。でも、ただのサポートアイテムにしては、ちょっと強すぎねぇか?』

 

『苗字が六平、そしてあの不思議な刀……。もしかして、六平国重の息子なのでは?』

 

その名が出た瞬間、円卓に緊張が走った。

 

『!! いや、確か六平国重には息子はいないはずだ。それに、もし血縁者だとしても、今あの妖刀を持っているのはおかしい。

妖刀は3年前……』

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

少し、過去の話をしよう。

 

22年前、日本・南東の海域に突如【小国】が現れた。

 

その国は、後に妖刀の原材料となる『雫天石』。

その唯一の原産国である。

 

この石は、普通の人間が触れればあふれ出るエネルギーに肉体が耐えきれず、内側から弾け飛んで命を落とすという呪いの石だ。

 

ただ、その小国の民には生まれながらに雫天石への耐性があった。

彼らは石を使ってもはじけることない身体を持つ。

 

そして小国はその圧倒的な力を使い、

 

侵略を始めた。

 

 

 

この事件は後に、『斉延戦争』と呼ばれることになる。

 

日本政府も大量のプロヒーローを投入したが、雫天石に適応した強靭な肉体と残虐性を誇る小国の民を前に、ヒーローの攻撃はことごとく無力化された。

 

防戦一方で滅亡の危機に瀕した日本に、一つの転機が訪れる。

 

「妖刀」の誕生である。

 

伝説の刀匠・六平国重が打った六振りの刀。

彼は歴史上唯一、雫天石を制御し、安定化させることに成功した人物である。

 

妖刀の投入により戦況は劇的に一変した。

小国の民は()()され、戦争は日本側の勝利で幕を閉じる。

 

 

閉じた、はずだったのだ………………

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

場所は変わり、六平家。

 

入試から1週間後、六平家の郵便受けに一つの封筒が届いた。

届け先はもちろん、雄英高校。

 

封筒は厚みがあり、触れただけで重みが伝わってくる。

千鉱はリビングのテーブルにそれを置き、慎重に封を切った。

中には重要そうな紙が数枚と、小さな円筒形の投影機が一つだけ入っていた。

 

なぜ投影機が? 千鉱は首を傾げながら、それを手に取った。

指先でスイッチか何かあるか探ろうとすると―

 

『私が投影された!!!』

 

突然の爆音とともに、目の前に巨大なオールマイトの映像が浮かび上がった。いつもの輝く笑顔、筋肉の鎧のようなシルエットだ。

どうやら来年から雄英で教師として働くらしい。

 

 

結果から言うと、千鉱は合格することができた。

序盤から終盤にかけて良いペースで仮想敵を倒し続け、入試前の時点では隠されていた救助ポイントもあり、かなりの高順位であった。

 

それから、季節は静かに、しかし着実に歩みを進めていった。

 

凍てつくような冬の空気は次第に湿り気を帯び、固く閉じていた桜のつぼみは、やがて来るべき時を知って、淡く、鮮やかな満開の花へとその姿を変えていった。

 

───

 

 

入試の結果発表から1カ月がたち、家の玄関先は淡い桜色に染まっていた。

満開の桜並木から舞い落ちる花びらが、柔らかな風に乗ってひらひらと庭に降り注ぎ、石畳を薄桃色の絨毯に変えている。

 

まだ少し冷たい朝の空気の中に、桜の甘い香りがほのかに混じり、千鉱の鼻先をくすぐった。

制服に袖を通したばかりの千鉱は、襟を整えながら玄関のドアノブに手を置いた。

 

「あれ?チヒロ君、もう行くん?」

 

背後から穏やかな声が掛かった。振り返ると、柴登吾――柴さんが、いつもの気さくな笑みを浮かべて立っていた。

 

柴は六平国重の古くからの友人で、気さくで面倒見がよい。

3年前の襲撃事件の後、孤児となった千鉱を引き取ってくれた人物だ。

 

「柴さん⋯はい、最初は余裕を持って行きたいので。」

 

千鉱は静かに答えた。ドアノブを握る手に、少しだけ力がこもる。

 

「なぁ⋯チヒロ君。」

 

柴の声が、少し低くなった。

 

「なんですか?」

「⋯⋯⋯その左側の傷、キレイに治そ思ったら治せるやろ。」

 

柴の視線が向けられたのは、千鉱の左頬に深く刻まれた、あの日の記憶を象徴する古い傷跡だった。

現代の高度な医療や、あるいは「個性」による治癒をもってすれば、その痕跡を消し去ることは決して不可能ではない。

 

「⋯⋯」

「めっっっちゃ目立っているけど、ええんかそのままで。」

 

千鉱は一度目を閉じ、肺の奥まで春の空気を吸い込んでから、静かに息を吐いた。

わずかに伏せられた視線の先で、春風が頬を撫で、傷の凹凸をなぞるようにして通り過ぎていく。

 

「⋯⋯⋯朝、顔を洗って鏡を見るとこの傷が目に入る。

おかげで毎日、あの日のことを忘れずに1日を始められる。」

 

言葉は静かだったが、揺るぎない決意が込められていた。柴は一瞬、言葉を失ったように沈黙した。その声は、どこか痛みを帯びていた。

 

「⋯壊れてまうで。」

「なら止めますか?」

 

千鉱は静かに問い返した。視線は真正面に向けられたまま。

 

「⋯⋯」

 

柴さんは答えず、ただ千紘を見つめていた。

春の光が二人の間に落ち、桜の花びらが静かに舞い降りる。

 

「⋯そろそろ時間なので、いってきます。」

 

千鉱はドアを押し開け、一歩外へ踏み出した。

 

「おう、行ってき。」

 

背中に届いた柴の声は、いつもより少しだけ低く、そして慈しむように優しかった。

千鉱は振り返ることなく、ただ小さく一度だけ頷き、背中を押すような春風に乗って、自身の目的へと歩み始めた。

 

 

 

三年前。謎の敵集団『毘灼』は、国の英雄と称えられた伝説の刀匠・六平国重を殺害し、その名は世間に恐怖と共に刻まれた。

 

しかし、世間はまだ真実を知らない。

 

六平国重には、息子がいること。

 

そして、その息子に国重は戦後唯一作った7本目の妖刀を託したこと。

 

この3年間、彼は日常の裏側で牙を研ぎ、執念深く『毘灼』の足跡を追い続けていることを。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

雄英高校は、千紘の住む家から電車に揺られて約1時間半という、決して近くはない距離に位置していた。

 

入試の際にも同じ路線を利用したが、今日に限っては車内の空気がまるで違って感じられた。

それもそのはず、今の千鉱が身に纏っているのは、日本中の憧憬を集める雄英高校の制服だ。乗客たちの視線が、無意識のうちに彼の胸元のエンブレムへと注がれる。

これほどまでに多くの視線に晒される経験は、千鉱のこれまでの人生にはなかった。改めて「雄英」という名が背負う社会的影響力の大きさを、肌に刺さるような静かな熱量として実感した瞬間だった。

 

 

駅に到着し、改札を抜けてしばらく歩くと、目の前に雄英高校の正門がその威容を現した。

「日本一のヒーロー輩出校」という看板に偽りはなく、視界に収まりきらないほどの広大な敷地面積は、一般的な高校のそれとは比較にならない。

初めて足を踏み入れる者が迷わないよう、雄英生専用のナビゲーションアプリが配布されているほどだ。

 

校門から各教室までを詳細に案内するそのアプリのおかげで、千鉱は集合時間の30分前という、十分すぎる余裕を持って目的の場所に辿り着くことができた。

 

「1-A……ここか。」

 

目の前に現れたのは、バリアフリーを意識してのことか、あるいは巨大な「個性」を持つ生徒を想定してのことか、自身の身長の数倍はあろうかという巨大な扉だった。

千鉱はその扉を開け、教室へと一歩踏み出す。

入室した瞬間、すでに席についていた数名の生徒から好奇の視線が突き刺さる。

 

それを意識の外へ追いやり、自席へと向かおうとした時、一人の男子生徒が真っ向から歩み寄ってきた。

 

「はじめまして!俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ!!」

 

声の主は、背が高く、知的な眼鏡をかけた少年だった。

その風貌もさることながら、千鉱の耳に届く声は、真面目という言葉すら生ぬるいほどに規律正しく、お堅いものだった。

 

「……六平千鉱だ。よろしく」

「六平くんか!よろしく頼む!!席は出席番号順になっているようだ。君の席はあちらだ!」

「助かる」

 

飯田の澱みのない案内を受け、千鉱は指定された席へと移動を開始した。その途中。

 

「むっ!……すまん、ちょっといいか?」

 

不意に投げかけられた声に、千鉱は足を止めた。

視線を向ければ、そこには漆黒の鳥のような頭部を持ち、どこか古風で厳かな雰囲気を纏った少年が座っていた。

 

「?……どうかしたか?」

「急に話しかけて申し訳ない。その……お前が持っているその黒い包みの中身は何か教えてくれないか?」

 

少年の視線は、千鉱が傍らに置いた、黒い布で厳重に包まれた「それ」に釘付けになっていた。

千鉱は特に隠す様子もなく、至極淡々と事実を告げた。

 

「ああ、これか?普段は隠しているんだが、刀だな。」

「!!?……刀、だと。やはりか、この深淵から呼びかけられるような感覚……。よければ、その神秘に少し触れてもいいか?」

「…い、いいぞ」

 

少年の放つ独特な、どこか詩的な言い回しに毒気を抜かれつつ、千鉱は手元の刀を包みごと手渡した。

 

「ほう…!これが………!!」

 

受け取った少年――常闇踏陰は、感嘆の吐息を漏らしながら、まるで国宝でも扱うかのような手つきで包みを愛で始めた。

 

(これが本物の妖刀だとは、思いにもよらないだろうな)

 

その様子を眺めながら、千鉱は内心で独りごちる。

 

もっとも、このヒーロー科での苛烈な生活が始まれば、この力の正体を隠し通すことなど不可能であることは分かっているが。

 

「……はっ!? す、すまん。没頭してしまった、自己紹介がまだだったな。俺の名前は常闇踏陰だ。よろしく頼む」

「俺の名前は六平千鉱だ。よろしく」

 

短い挨拶を交わすうち、教室には次々と新たなクラスメイトたちが現れ始めた。

交わされる社交辞令、緊張した面持ち。徐々に席が埋まっていく。

 

だがその時、教室の静寂を切り裂くように、一際荒々しい音を立ててドアが開かれた。

全生徒の視線が入口に集中する。

 

千鉱もまた、ゆっくりと振り返った。

そこに立っていたのは、約一ヶ月前の入試において、0ポイントの仮想ヴィランを相手に共闘(?)したあの男だった。

 

どうやら、彼もこの狭き門を潜り抜けて合格したらしい。

男もまた、こちらを鋭く射抜くような視線で捉えた。

すると、ずんずんと足音を荒らげ、一直線にこちらへ詰め寄ってきた。

 

「よぉ⋯⋯⋯また会ったな、傷面ぁ」

「……。お前か」

「『お前か』じゃねぇよクソ。入試であれだけ派手にブチかましといてそのツラかよ。てめぇ、名前は何てんだ」

「……六平千鉱。お前は?」

「爆豪勝己だ。覚えとけ、次俺の前に立ちはだかったら、その面の傷を増やしてやるからな。ザコ!!」

「⋯⋯そうか」

「ちっ!!!」

 

吐き捨てるように言い残し、爆豪は自席へと移動。

カバンを乱暴に放り出すと、あろうことか机の上にどっかと足を乗せた。

 

「六平…知り合いか?」

「……入試の時、ちょっとな。」

 

小声で尋ねる常闇に答える間もなく、爆豪の不遜な態度を見かねた飯田が、軍隊のような足取りで歩み寄った。

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ、てめー!どこ中だよ端役が!」

 

水と油。正義感の塊のような飯田と、破壊的衝動を隠さない爆豪がウマを合わせるはずもなかった。教室の一角で、即座に激しい口論が火を吹く。

 

しかし、その騒動も長くは続かなかった。

飯田が、教室の入り口に佇む一人の生徒の存在に気づき、言葉を切ったからだ。

 

モサモサとした髪に、どこか気弱そうな地味な少年。

そこへ茶髪の女子生徒が加わり、賑やかな挨拶が始まった、その瞬間――。

 

 

 

「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは…ヒーロー科だぞ」

 

床に置かれた黄色い寝袋。その中から現れた力のない目が、教室内を一瞥した。

 

寝袋に入ったままの男は、手にしたゼリー飲料を瞬く間に飲み干し、不気味なほどの合理性をもって言い切った。

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね……」

 

(……廊下まで寝袋を持ってくる方が、合理性に欠くのでは?)

 

千鉱がそんな感想を心の奥底にのみ留めたのは、言うまでもないことだった。

 

 




※『「斉廷戦争」の時期、オールマイトは海外に任務に出かけており、帰国まで時間がかかった』という設定にしてます。

そうでもしないと妖刀作る意味、多分ないんで。


※原作でA組にいた口田は、残念ながらこの小説では不在です。口田……すまん
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