妖刀使いの英雄譚   作:刀は銃より強し

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個性把握テスト

 

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

(((先生!!?担任!!?)))

 

なんと、黄色い寝袋に身を包んで教室まで這いずってきた男は、自分たちの担任教師だった。

 

教室の空気は一瞬にして凍りついた。

生徒たちは言葉を失い、ただ唖然と目の前の光景を凝視している。

実際、室内には驚愕と困惑の混じった心の叫びが、物理的な振動となって伝わってきそうなほどだった。

 

千鉱もまた、これまでの人生でこのような極端なタイプの人間に出会ったことがなかった。

 

父・国重は変わり者ではあったが、少なくとも寝袋で移動するようなことはなかった。

どのような対応をとればいいのか見当もつかない。

 

「早速だが⋯⋯コレ着てグラウンドに出ろ」

 

クラスの混乱が冷めやらぬうちに、相澤は寝袋の中から雄英指定のジャージらしきものを取り出し、事もなげに言い放った。

本来ならば、この後は入学式があるはずだ。

千鉱の脳裏にも微かな疑問が浮かぶ。だが、相澤にはそんな世間一般の常識を汲み取るつもりは毛頭ないようだ。

 

疑問が解消される暇もなく、当の相澤は更衣室とグラウンドの位置を端的に説明し終えると、背中を向けたまま教室を後にした。

 

いつまでも教室に留まっていても始まらない。

生徒たちは急かされるようにジャージを掴み、グラウンドへと向かい始めた。

 

「何かの試練か…面白い。六平、行くぞ。」

「ああ…ちょっと待ってくれ。」

 

歩き出そうとする常闇に応じながら、千鉱は手元にあった黒い布を完全にほどき、刀を持った。

 

「……持っていくのか?」

「一応な」

 

常闇の問いに短く答え、千鉱は刀を腰に据えた。もう片方の手にはジャージ。

異様な組み合わせではあったが、千鉱と常闇は並び歩いて更衣室の方へ向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……揃ったな。これから個性把握テストを行う」

「ええ!?入学式は!?ガイダンスは!?」

 

グラウンドに整列した生徒たちの前に、相澤が立ちはだかった。

いきなりの宣言に、集まったばかりの生徒たちは一斉にざわめき立つ。

 

茶髪の女子が、全員の困惑を代弁するように声を張り上げたが、相澤は彼女の視線をそっぽを向いて受け流した。

 

「ヒーローになるなら、そんな悠長な時間は無い」と、冷徹な一言で彼女の異議を封殺する。

 

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。中学の頃からやってるだろ?『個性禁止の体力テスト』。

国はいまだに画一的な平均を作り続けている。まったく合理的じゃない。

爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった?」

 

爆豪が『67m』とだけ、苛立ちを隠さずに短く答えた。

すると、相澤は手元にあったボールを彼に無造作に投げ渡す。

 

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円からでなきゃ何しても良い。思いっきりな、早よ」

 

爆豪は軽く腕を回してストレッチをした後、円の中で深く身を沈め、大きく振りかぶった。

 

「んじゃ、ま⋯⋯⋯死ねぇ!!」

 

叫びと共に腕が振られた瞬間、凄まじい爆発音が鼓膜を打った。手のひらから生じた爆風がボールを加速させ、辺りに舞う爆煙を切り裂いて、弾丸のような勢いで空の彼方へと消えていく。

 

しばらくの後、相澤が掲げた液晶端末には「705m」という、中学の記録を遥かに超越した数値が示されていた。

 

生徒たちからは驚嘆と、そして期待に満ちた楽しげな歓声が上がった。

個性を使用しても良い体力テストなど、彼らにとっては未知の領域であり、最高のアトラクションのようなものだった。

 

「個性を思いっきり使える!」という高揚感が広がり、『面白そう!』という無邪気な声が飛ぶ。

だが、その浮ついた空気を、相澤の冷ややかな声が切り裂いた。

 

「…面白そう…か。ヒーローになる三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

相澤はゆっくりと前髪を掻き上げた。その瞳には、冗談を一切許さない獰猛な光が宿っていた。

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

その言葉に、全員が驚愕した。

 

「生徒の如何は教師の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

相澤はニヤリと、残酷な笑みを浮かべて凄む。

生徒たちは慌てて反論を試みるが、相澤はその全てを言葉の刃で叩き伏せた。

自然災害、大事故、身勝手な敵――いつどこから来るか分からない理不尽に満ちた社会を生き抜くには、この程度の試練は前提条件に過ぎないと言い放った。

 

「そういう理不尽を、覆していくのがヒーロー。プルスウルトラさ」

 

 

空気の色が変わった。生存を賭けた、個性把握テストが始まった。

 

 

 

 

 

【第一種目】50m走

 

 

 

 

 

「六平さん、よろしくお願いしますわ。」

「よろしく」

 

千鉱の隣に立ったのは、八百万という名の落ち着いた雰囲気の女子だった。

 

千鉱自身の運動神経は決して低くない。

だが、先ほど走っていた飯田のような移動特化系や、純粋な身体能力強化系の個性保持者に生身で勝つのは困難だ。

 

妖刀【淵天】には一応、身体能力を爆発的に引き上げる技も存在するが肉体への負荷が激しすぎる。

こんな序盤で、後の種目に響くような消耗をするのは得策ではない。

 

だが、千鉱がその手に「淵天」を握ったことで、彼の肉体には変化が生じていた。

妖刀を扱う契約者の肉体は、その鋭利な力に耐え、即座に最大火力を引き出すための土台として、刀に「適応」し始める。

全身の筋繊維が密になり、反応速度が極限まで高められる。それは派手な個性ではないが、研ぎ澄まされた刃そのもののような肉体への変質だった。

 

「位置について……用意」

「【淵天】」

 

 

合図と共に、千鉱は一歩目を踏み出した。

地面を蹴る脚力は、適応した肉体によって鋭く地面を捉え、彼の体を前方へと弾き飛ばす。

刀を抜くことはせず、ただ左手を柄に添えその繋がりを維持することに専念した。

 

無駄な動作を一切排除し、空気抵抗すら切り裂くような最短距離の突進。

 

「5秒25」

 

千鉱はゴールについた後、自身の記録に概ね満足したが⋯⋯⋯

 

「八百万ズッッッッッル!!?」

「原付って⋯⋯」

 

隣のレーンでは、八百万が自らの体から原付バイクを創造し、千紘よりも先にゴールしていた。

 

クラスメイトたちの抗議に対し、相澤は「個性を使って生み出したものならオーケーだ」と、説明した。

 

 

 

第二種目【握力】

 

 

 

 

 

ここでも千鉱は、淵天による肉体強化を意識的に利用した。刀を握る際の手の内の締め、その極意を計測器に叩き込む。

ぐっ、と渾身の力を込めると、表示された数値は65kg。

 

全国平均を大きく上回る記録に、千鉱は小さく息を吐いた。これなら上位には食い込めずとも、脱落することはない。

 

 

計測の最中、隣で異様な騒ぎが起きた。見れば、多腕の異形系個性を持つ大柄な男子が、540kgという、もはや重機の域に達するような数値を叩き出していた。

 

 

 

 

 

第三、第四種目もクラスの平均ぐらいの結果を取り続け、第五種目の【ハンドボール投げ】

 

 

 

 

 

千鉱が順番を待っていると、緑がかった髪の少年が円に向かった。

 

周囲の囁きから察するに、彼はここまでの種目全てで平凡な結果しか残しておらず、現状の最下位らしい。

 

「緑谷くんはこのままだとマズいぞ⋯⋯?」

「ったりめーだ、無個性のザコだぞ!」

「無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

 

爆豪と飯田の会話をよそに、緑谷と呼ばれた男子は蒼白な顔でボールを握り、振りかぶった。

 

だが、放たれたボールは放物線を描くことなく、無情にも地面に落ちた。

 

「46メートル」

「な……今確かに使おうって……」

「『個性』を消した。

つくづくあの入試は……合理性に欠くよ。お前のような奴も入学出来てしまう」

 

相澤の目が赤く光り、髪が逆立っている。

 

「消した……!!あのゴーグル……そうか……!視ただけで人の"個性"を抹消する個性!!抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!!!

 

緑谷が興奮気味に相澤の正体を叫ぶ。どうやら彼は相当なヒーローオタクのようだ。

 

「"個性"は戻した……ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」

 

緑谷の2球目。

今度は凄まじい風圧と共に、SMASH!! という咆哮が響き渡った。

ボールは空を切り裂き、大記録を打ち立てる。だが、その代償として緑谷の右人差し指は赤黒く腫れ上がっていた。

 

自分の体を壊しながら戦う力。千鉱は、その危うさと、緑谷が抱える執念の重さを感じ取った。

 

「どーいう事だコラ!!ワケを言え、デクてめぇ!!」

 

突如として爆豪が激昂し、緑谷へ突っ込んでいく。だが、その暴力的な勢いは相澤の「捕縛布」によって瞬時に封じられた。

 

炭素繊維と特殊合金の鋼線を編み込んだというその武器は、爆豪の個性を封じ込め、彼を硬直させる。

 

「ドライアイなんだ」と吐き捨てる相澤。そのやり取りを横目に、緑谷の次に名前を呼ばれた峰田に目を向けた。

 

 

 

 

「次、六平」

「はい」

 

最後、自分の名前が呼ばれた千鉱は相澤先生からボールをもらい、円の中に立つ。

 

そして腰にかけてある刀に手をやり、小さくつぶやく。

 

「【淵天】」

 

そして今度は刀を完全に抜いた。

その刀の中から黒い金魚が出てきたことにクラスメイトは驚いているが気にしない。

 

千鉱は白線の中心に不動の姿勢で立つと、右手に持っていたハンドボールを、無造作に真上へと放り投げた。

 

「……? 投げないのか?」

 

クラスメイトの誰かが呟く。

ボールは千紘の頭上、数メートルの高さまで力なく浮き上がり、重力に従ってゆっくりと落下し始める。

 

ボールが千紘の顔の高さまで落ちてきた、その瞬間。

 

「【涅】」

 

千紘は刀を振り抜く。

だが、刃でボールを斬るのではない。

 

涅により放たれる衝撃波により、ボールが一直線上にとぶ。

 

そして、

 

「⋯⋯684m」

 

相澤が手元の液晶を見ながら言い放つ。

 

千鉱自身も、ようやくクラスの平均以上の結果がでて少しホッとし、クラスメイトの所に戻る。

 

「……六平、お前の個性は何だ?」

 

隣にいた常闇が、鋭い視線で問いかけてきた。

 

「……秘密だ、今のとこは。」

 

千鉱は短く答え、次の種目のため移動を開始した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

全8種目を終え、グラウンドには緊張感が漂っていた。除籍という死刑宣告を前に、誰もが固唾を呑んでモニターを見守る。

相澤が指先を動かし、空中にランキングを投影した。

 

「ちなみに、除籍はウソな」

「「「「「「「………………!!?」」」」」」」

 

グラウンドに、信じられないものを見たかのような沈黙が訪れた。

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

「「「「「「「はーーーーー!!?」」」」」」」

 

その一言に、張り詰めていた緊張の糸がぶつりと切れた。

相澤は冷ややかな、だがどこか満足げな表情で生徒たちを見渡し、さっさと引き上げていった。

 

 

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