妖刀使いの英雄譚   作:刀は銃より強し

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屋内戦闘訓練

個性把握テストという嵐のような初日を乗り越え、迎えた二日目。

 

午前中は、ごく一般的な必修科目の授業が続く。

英語、現代文、数学。しかし、教壇に立つのはプロヒーローの教師陣だ。

一見普通の光景だが、その端々にヒーローとしての経験則が混じる講義は、ここが国立の英雄養成校であることを再確認させる。

 

昼食の時間になれば、食堂でクックヒーロー・ランチラッシュが腕を振るう絶品料理が楽しめる。

安価で栄養バランスに優れ、何より美味しいメニューの数々は、激務に備える生徒たちの貴重な活力源となっていた。

 

そして昼休みを終え、いよいよ午後の授業───『ヒーロー基礎学』が始まる。5限から7限まで、3時間に及ぶこの科目は、ヒーローとしての素地を形成する最も重要な単位だ。

今年から教師として着任したのは、No.1ヒーロー、オールマイト。平和の象徴として君臨する彼の授業は、生徒たちの期待を最高潮まで押し上げていた。

 

「わーたーしーが!!普通にドアから来た!!!」

 

昼休みが明けた直後、轟音のような声と共に、伝説の男が教室に現れた。着ているコスチュームはシルバーエイジと呼ばれるころのものらしい。

アメコミを具現化したような異質な画風と圧倒的な存在感に、教室内は一瞬にして沸き立った。

 

「早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!!」

 

オールマイトがBATTLEと書かれたプレートを見せる。

 

「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた……コスチューム!!!」

「おおおお!!!!」

 

教室の壁が迫り出して、戦闘服コスチュームが入ったロッカーが現れる。

これにはクラスメイト全員のテンションが上がる。

 

「着替えたら、順次グラウンドβに集まるんだ!」

「はーい!!」

 

沸き立つクラスメイトたちは、期待に胸を膨らませて各々のケースを手に取り、更衣室へと急いだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

男子更衣室では、生徒たちがそれぞれに配備されたコスチュームの機能を確認しながら着替えを進めていた。

そんな中、千鉱が纏ったその姿に感嘆の声が上がる。

 

「「「おおお!!!六平のコスチュームかっけぇぇぇ!!!!」」」

「そうか?」 

 

千鉱のコスチュームは、機動性に優れたトラックジャケットの上に、黒いのコートを羽織るスタイルだ。

 

実は、入学前に雄英からコスチューム要望書というものが千鉱の家に送られた。

 

千鉱は当初、「動きやすければ何でもいい」と端的に済ませようとしていたが、柴さんから「もっと真剣に考えや」と窘められた末の形だった。

 

結果として、防刃性能はあるが普段の私服と大きな差はない。

しかし、刀を振るう際の可動域と千紘自身の落ち着く色彩が両立された納得の仕上がりとなっていた。

 

「黒コートと刀は至高⋯⋯!!」

 

しかし、ほかの男子からは結構高評価をもらえた。常闇なんて目をキラキラさせながらこちらのほうを見ている。

 

「ありがとう。常闇は⋯俺と同じで黒い感じか。似合ってると思うぞ」

「フッ、そうだろう。感謝する」

 

そうして着替えを済ませ、一行は演習場「グラウンド・β」へと向かう。

そこには、入試の際に見覚えのある、コンクリートの市街地が広がっていた。

 

そして全員が揃ったところで、オールマイトから本日の戦闘訓練の詳しい話が始まった。

 

 

 

今回行うのは、2人1組でヒーロー役とヴィラン役に別れての屋内戦闘訓練。

 

舞台は多層構造のビル。

ヴィラン側は建物内に核兵器を隠匿し、ヒーロー側はその無力化を目指す。

 

ルールは以下の通り。

 

・制限時間: 15分

 

ヒーロー側の勝利条件:

・制限時間内に核兵器を回収すること

・ヴィラン陣営を拘束し、無力化すること

 

ヴィラン側の勝利条件:

・時間制限内まで核兵器を死守すること

・ヒーロー陣営を拘束し、無力化すること

 

チーム分けはくじ引きによってランダムで選出し、マッチアップもくじ引きによって決定するらしい。

 

そうしてくじを引き、組み分けが決定した。

 

 

 

A:緑谷/麗日

 

B:轟/障子

 

C:八百万/峰田

 

D:爆豪/飯田

 

E:青山/芦戸

 

F:砂藤/葉隠

 

G:耳郎/上鳴

 

H:常闇/蛙吹

 

I:六平/尾白

 

J:切島/瀬呂

 

 

 

 

「⋯⋯『I』か」

「あ、六平も『I』?よろしく」

「尾白か、よろしく」

 

千鉱が引いたのは、Iの文字の書かれたボール。

相方は、個性由来の尻尾が特徴的の、空手の道着のようなコスチュームに身を包んだ少年、尾白だった。

 

軽く挨拶を交わした後、オールマイトの方を向く。

 

一通りの組み分けが終わったところで、オールマイトがくじ箱に両手を突っ込んで、2つのボールを取り出す。

 

「続いて最初の対戦相手は……こいつらだ!!」

 

手に握られた、A、Dと書かれた球。

 

「Aコンビが『ヒーロー』!!Dコンビが『敵ヴィラン』だ!!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

1戦目。

緑谷・麗日チームと爆豪・飯田チームの壮絶な、そしてどこか因縁めいた戦いが終わり、いよいよ千紘たちの番が回ってきた。

 

 

2戦目は、

ヒーローチーム…轟・障子 VS ヴィランチーム…六平・尾白

 

前回の戦いで、爆豪の爆破によりビルの一部が崩壊したために、千紘たちの戦いは別のビルで行われることになり移動が行われた。

 

千鉱達は、別の建物へ到着する。

オールマイトは4人に「実戦と思え」と激を飛ばしながらも、だが度が過ぎないように、とも注意を促した。

 

 

そして、ヒーローチームと別れた千紘と尾白は、5階に安置されたハリボテの核兵器を前に、短い作戦会議を設けた。

 

「⋯よし、じゃあとりあえず自己紹介だね。

俺の名前は尾白猿夫。個性は『尻尾』。名前の通り、体の後ろについている尻尾を操る個性だよ」

「俺の名前は六平千鉱だ。

個性は……まあとりあえず今は、刀から斬撃を飛ばす個性だと思ってくれ」

 

千鉱は最低限の情報だけを伝えた。

結局この授業の後、クラスの皆には事実を話すつもりだが、今この場で言ってもただ尾白が混乱するだけだろう。

 

「分かった。次は…情報共有だね。

轟くんは昨日の個性把握テストを見る感じ、氷結を出す個性だと思う。

噂によるとあのエンデヴァーの息子らしいから、結構注意しなければいけない相手だね」

「そうか。障子は…分からないな。

でも、昨日の時点で腕からもう一本の腕や口を出してた。

だから、耳とか出して索敵とかできるかもな」

 

二人の分析は、冷徹に進む。

索敵に優れた障子と、広域制圧が可能な轟。極めてバランスの良い難敵だ。

 

「なるほど…索敵は厄介だね。どうする?」

「……なら、俺は開始直後、建物を1人で散策して轟か障子のどちらかを足止めする。

尾白はここに残って、入ってきた残り1人から核を守ってくれ」

「了解!」

 

そして、建物の構造を再確認していると無線でオールマイトからマイク越しに声がかかる。

 

『よし、双方準備はいいかな?では…2戦目、屋内戦闘訓練……

START!!!!!!

 

 

 

「じゃあ、俺は作戦通り建物内をみてくるから、ここは頼んだ──────」

 

千鉱が核がある部屋から出ていく途中、凄まじい冷気が足元から這い上がり、パキパキという不吉な結晶音が階下から伝わってきた。

瞬く間に床、壁、天井の全てが厚い氷層に覆われ、千紘と尾白の足元を地面ごと凍りつかせる。

 

「!!これは──轟の個性!?

ここまでできるなんて⋯⋯!!」

「【淵天】」

 

尾白の動揺は正当だった。一瞬で建物全体を制圧する、あまりに規格外の出力。

このままだと、何もできずに轟たちに核を回収されてしまう。千鉱はそれを防ぐために淵天の名を呼び、黒い金魚を出現させながら刀を抜いた。

 

「【涅】」

 

そして、刀から放たれた斬撃で足元の氷部分だけを切断しようと試みた。

しかし、自分の足ごと切らないように注意したせいか少し時間がかかったが何とか脱出に成功した。

少し動きずらいが、この状態ではそんなわがままは言ってられない。

 

動けることを再確認した千鉱は、尾白のほうに向かい、足を傷つけないように慎重に尾白の足元部分の氷部分を切断した。

 

「ッ⋯!六平、ありがとう!助かったよ」

「ああ。だが、この氷結を取るのに結構時間かかってしまったな……」

 

予想以上の制圧力だった。

この氷を突破できる者がいなければ、この訓練は一瞬で終わっていただろう。

 

千鉱は僅かに目を細める。轟たちが上がってこないのは、この氷そのものが轟たち自身の障害となっているのか、あるいはただ単に油断しているだけか。

どちらにせよ、千紘たちにとってはチャンスだ。

 

「⋯⋯よし、じゃあ改めて尾白。ここよろしく頼む」

「ああ、こっちは任せてくれ。

六平も無理そうだったらここに戻ってきても良いんだからな」

「…ありがとう」

 

 

尾白と別れ、千鉱は氷に覆われた階段を駆け下りた。氷の滑りを逆手に取り、加速を乗せて4階へ。

 

すると、そこには反対の階段から来たのだろう。

左半身を氷で覆ったようなコスチュームを着た轟がいた。

 

やはり、かなり近くに来ていた。急いで来て正解だった。

しかし、同じチームの障子がどこにもいない。どこかで離れたのだろうか。

 

そして、まさかあの氷結が破られるとは思っていなかったのだろう。轟から驚きの表情が読み取れる。

 

「なっ⋯⋯!!まさかあれが効かねぇとはな⋯。

しょうがねぇ⋯障子」

『!?どうかしたか、轟?』

「すまねぇ、多分きっきの攻撃は避けられた。俺は4階で六平の相手をする。

お前もビルに入って5階に向かってくれ。尾白がいるかもしれないから気ぃ付けろ」

『あ、ああ。分かった』

 

向こうの会話の内容全ては分からないが、おそらく障子1人で核がある場所に向かうのだろう。

こちらからすると作戦通りなので、無線で尾白に連絡する。

 

「尾白、作戦通り障子がそっちに向かっている。

対処してくれ」

『任せろ!』

 

ノイズ混じりの尾白の返信を確認し、千鉱は視線を正面に据えた。

 

轟から放たれる気圧は、爆豪とはまた異なる。

静かで、それでいて芯まで凍てつかせるような、氷河のような冷徹さ。

だが、千鉱の目線も鋭く、獲物を逃さない。

 

数秒間にらみ合いが続いた時に、轟が声をかける。

 

「⋯⋯あの氷結から抜け出せたのは見事だが、わりぃな」

「⋯⋯」

 

千鉱は返答の代わりに、淵天を構えた。

金魚が彼の周囲を円を描くように泳ぎ、黒い軌跡が空気中に残る。

 

「すぐに終わらせる!」

 

轟が右足を一歩、踏み込んだ。

ノーモーション。意思の介在を感じさせないほど自然な動作から、氷結が周囲を凍らせながら千鉱へと迫る。

 

そして、氷結が千鉱に直撃───

 

「【涅】」

 

───する前に、千鉱の刀が振り抜かれた。

刀から発生した斬撃は氷結をもろともせず、絶対的と思われた氷の奔流が、紙細工のように上下へ叩き割られる。

 

さらに、衝撃波の余波は衰えることなく、氷の裂け目を突き抜けて轟自身にもヒットする。

 

「⋯⋯ッ!!」

「『すぐに終わらせる』か⋯安心しろ。

こちらも同じ気持ちだ」

 

淵天 VS 半冷半燃

 

 開幕。

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