妖刀使いの英雄譚   作:刀は銃より強し

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今まで主人公の名前を間違えていたことが判明しました。

「六平千」ではなく「六平千」です。

みなとあい さん。本当にありがとうございます。


USJ襲撃事件①

 

 

「ヴィランン!?バカだろ!?

ヒーローの学校に入り込んでくるなんて、アホすぎるぞ!」

 

切島の驚愕の声が、ドーム状の演習場に虚しく響く。

眼下に広がる中央広場では、不気味なほど無機質な闇の中から、歪な殺意を孕んだヴィランたちが次々と這い出ていた。

 

「先生、侵入者用センサーは!」

「もちろんありますが⋯⋯!」

 

八百万の至極全うな疑問に対し、13号の声は焦燥に震えていた。

鉄壁を誇る雄英のセキュリティが沈黙しているという異常事態。

 

「現れたのはここだけか、学校全体か⋯⋯何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうことができる個性持ちヤツがいるってことだろ。

校舎と離れた隔離空間、そこに俺たち少人数が入る時間割⋯⋯バカだがアホじゃねぇ。

これは、何らかの目的があっての、用意周到に画策された奇襲だ」

 

轟は周囲の動揺を余所に、冷徹な分析を口にする。

理路整然としたその言葉は、これが偶然の事故などではなく、明白な「悪意」によって練り上げられた計画であることを突きつけていた。

 

「13号、避難開始しろ! 学校に電話も試せ! 上鳴、おまえも個性で連絡を試みろ!」

 

相澤は鋭く指示を飛ばすと、首に下げたタクティカルゴーグルを装着し、多勢に無勢の広場へと迷いなく足を踏み出す。

捕縛布に手をかける相澤。その背中が、一人でこの軍勢を食い止める覚悟を物語っていた。

 

緑谷が案じる声を上げるが、相澤は背中で「ヒーローは一芸だけじゃ務まらん」と突き放し、戦場へと身を投じる。

 

相澤先生の個性は『抹消』。

 

『見た者の個性を一時的に消す』という個性。

千鉱の瞳は、乱戦の中に身を投じる相澤の動きを追っていた。

 

ヴィランたちは、突然使えなくなった自らの能力に当惑し、中央広場は一瞬にして混乱の渦に叩き落とされる。

そこへ、相澤先生の肉弾戦と捕縛布が襲いかかる。

 

「個性」に頼りきった有象無象を、磨き上げられた技だけで圧倒していく。その様は、どこか千鉱が知る「職人の仕事」に似ていた。

 

「すごい⋯⋯! 多対一こそが先生の得意分野だったんだ⋯⋯!!」

 

緑谷はプロの戦いに圧倒されながらも、最後尾にいた飯田に促されるようにして出口へと走り出す。

 

しかし⋯⋯

 

させませんよ

 

出口の目前、13号と生徒たちの行く手を遮るようにして、どろりと溢れ出した黒い靄が人の形を成していく。

 

「初めまして、我々はヴィラン連合。

僭越ながら⋯⋯この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは───平和の象徴・オールマイトに、息絶えて頂きたいと思っての事でして

 

「「「!!?」」」

 

戦慄が走る。「平和の象徴」を殺すという、あまりに傲慢で直接的な殺害宣言。

 

「本来ならば、ここにオールマイトがいらっしゃるハズ⋯⋯ですが、何か変更あったのでしょうか?

まぁ⋯⋯それとは関係なく、私の役目はこれ」

 

平然と実務的な口調で語るそのヴィランに対し、反射的に動いた影があった。

 

「【淵天】⋯⋯【涅】!

「死ねぇ!!!」

「らァ!!!」

 

 

静寂を切り裂く漆黒の斬撃、空気を震わせる爆音、そして硬質な衝撃。

話し続けていた黒霧の頭上から、三つの攻撃が同時に殺到した。

 

切島は左腕を鋼鉄のごとく硬化させ、爆豪は掌から最大級の爆破を叩き込む。

そして千鉱は、少し離れた位置から「淵天」を振るい、吸い込まれるような黒い墨の斬撃を放ったのだ。

 

「その前に俺たちにやられることは、考えてなかったか!?」

 

爆煙が渦巻き、周囲の視界を遮る。

敵を捉えたという確信に近い手応えに、切島が叫ぶ。

 

「危ない危ない⋯⋯⋯⋯そう、生徒といえど優秀な金の卵⋯⋯」

 

だが、煙の向こう側から聞こえてきたのは、傷一つ負っていない様子の平坦な声だった。

黒い靄は霧散することなく、むしろ濃度を増して空間を侵食していく。

 

「駄目だ、どきなさい二人とも!」

 

13号の叫びが響くが、すでに遅かった。

膨れ上がった闇が、物理法則を無視して巨大な渦へと変貌する。

 

「私の役目は散らして⋯⋯嬲り⋯殺す!!」

 

次の瞬間、抗う術もなく視界は真っ黒な靄に呑み込まれた。冷たい闇の感覚が全身を包み、空間が歪んでいく。

 

その混迷の渦の中で、千鉱の耳元にだけ、掠れた囁きが届いた。

 

 

 

 

 

 

⋯⋯⋯あなたはこちらへ行きましょう。()()()()()()()()()()

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「──ッ!!」

「!?六平!!お前なぜここに⋯⋯!」

「へぇ、あいつが先生が言ってた⋯⋯⋯⋯」

 

一瞬視界が暗転したと思えば、現れたのはUSJの中央広場だった。

 

周囲を埋め尽くすのは、相澤が相手取っているヴィランの大群。

 

その中央、不気味な静寂を湛えて佇んでいるのは、全身に「手」を纏った異様な男──『死柄木 弔』と、剥き出しの脳を震わせる巨躯の怪人──『脳無』だ。

 

あのヴィランによって、ピンポイントでここへと放り込まれた。

その事実が、千鉱自身に深く突き刺さる。

 

「おいおいおい!!今度はガキが来たぜ!!!」

「イレイザーヘッドはいい!先にこのガキ殺すぞぉ!!」

 

千鉱の出現に、獲物を見つけたハイエナたちが色めき立つ。

数人のヴィランが、我先にと千鉱の命を刈り取るべく接近した。

 

「ッ、六平!『個性』の使用を許可する!!絶対に死ぬな!!!」

 

乱戦の最中、回し蹴りでヴィランを沈めながら相澤が叫ぶ。

 

教え子を救いに行けない距離、そして相手は数多のヴィラン。

教師としての苦渋に満ちたその叫びを受け、千鉱は静かに息を吸い込んだ。

 

千鉱は刀を構えたまま、鋭いバックステップで地を蹴った。

押し寄せるヴィランとの距離を、計算された歩数で調整する。

 

「?逃げようとしたって無駄だぜガキがぁ!!」

 

獲物が怯えたと確信し、一人の男が異形化した腕を振りかざす。だが⋯⋯

 

「【涅】」

 

刹那。

閃光すら置き去りにする斬撃。

放たれた漆黒の金魚は、重力を無視して地を這う影のように伸び、襲いかかる数人のヴィランを薙ぎ払った。

 

ドォン!と空気が弾ける音と共に、ヴィランたちは何が起きたかさえ理解できぬまま、その衝撃で後方へと吹き飛んだ。

 

「が⋯ぁ⋯⋯!」

「なっ⋯てめ───

「よそ見とは余裕だな!」

 

千鉱の放った攻撃に、他のヴィランたちの足が止まる。その一瞬の隙をプロ(相澤)が見逃すはずがない。

捕縛布が蛇のように伸び、意識が逸れたヴィランを次々と無力化していく。

 

「六平!そのまま13号のところまで戻れ!!ここは俺一人で⋯⋯!!」

 

相澤の叫びが響く中、不気味なカウントダウンが始まった。

 

「33秒⋯27秒⋯25秒⋯23秒⋯⋯」

 

突然、死柄木が不自然な予備動作から一気に加速し、相澤へと接近する。

 

「ッ!本命か!!」

 

相澤は直ぐに捕縛布を使い、死柄木の拘束を試みる。

しかし、男は避けるどころか、自らその布を掴み取った。

 

「ちっ!」

 

相澤は今戦っているヴィランよりも先にこの男を倒すのが最優先だと判断。

すぐさま懐へと飛び込み、右ひじを相手の腹部へ向けて鋭くねじ込んだ。

 

「17秒⋯動き回るのでわかり辛いけど、髪が下がる瞬間がある」

 

乾いた声が相澤の耳元で囁く。

渾身の一撃は、死柄木の左手によって最小限の動きでガードされていた。

 

「一アクション終えるごとだ⋯⋯そして、その間隔は段々短くなってる。

無理をするなよ、イレイザーヘッド」

 

その言葉と同時に、相澤の右ひじの皮膚が、乾いた砂のようにボロボロと崩れ落ちた。

筋肉が、骨が、死柄木の指先から侵食され、無惨に露呈していく。

 

「〜〜〜〜っ!!」

「!相澤せんせ───」

「隙ありぃ!!!」

「ッ!!」

 

相澤の異変に、千鉱の冷静な心に初めて波紋が広がる。その一瞬の動揺をヴィランは見逃さない。

背後から迫る奇襲。

 

千鉱は反射的に身を翻し、紙一重でヴィランの攻撃を躱すと、そのまま流れるように敵の足の腱を切断。

止まることなく、担任の方へと駆けだした。

 

「先生!大丈夫ですか!?」

「六平!!来るな!!!」

 

相澤はそう言ったが、崩れた肘からはだらだらと血が流れている。

それでも、彼は生徒を前に出そうとしない。

 

「自分がピンチでも生徒優先⋯⋯⋯。

ああ、かっこいいなあ。かっこいいなあ。⋯ところでヒーロー、

本命は俺じゃない

 

死柄木の嘲笑が響いた直後だった。

音さえ置き去りにする巨影が、相澤の眼前に躍り出た。脳みそが剥き出しになった巨体のヴィラン。

 

その異様な怪力によって、相澤の頭部はなす術もなく地面へと叩きつけられた。

 

「がっ⋯⋯⋯⋯!!」

「ッ、【涅】⋯⋯!」

 

コンクリートが砕ける鈍い音に、千鉱の心臓が跳ね上がる。

救出のため、最大出力の【涅】を放った。漆黒の衝撃が脳無の胴体を直撃し、視界が墨色に染まる。

しかし…

 

(!!効いてない⋯⋯!?)

 

手応えがない。淵天の斬撃を、脳無はその漆黒の肌で泥のように吸収していた。

 

脳無は微動だにせず、相澤の頭を掴んだまま力を込める。ミシミシと、骨の軋む不吉な音が中央広場に響き渡った。

 

「無駄だよ、そいつは対平和の象徴『怪人・脳無』。

お前がどんなに頑張ったって倒せないよ。」

 

手だらけのヴィランが、歪な笑みを浮かべて千鉱に歩み寄る。

その瞳には、ヒーローへの憎悪とは別の、希少な獲物を見るような好奇心が宿っていた。

 

「⋯⋯チッ!」

 

千鉱は、相澤の肘を崩落させた死柄木の指先を凝視する。

あの手に触れれば終わりだ。

千鉱は【涅】を足元に放つ反動で無理やり死柄木との距離を稼いだ。

 

「って⋯⋯まあ警戒するか⋯さすが、

『妖刀』を持っていることだけはあるね」

 

「!!!」

 

千鉱の脳髄を、氷のような衝撃が突き抜けた。

 

千鉱は制止を無視し、死柄木の眼前へと踏み込んだ。

 

「いいのかい?せっかく距離を取ったのに!」

「黙れ⋯⋯誰から聞いた!!」

 

今自分が知っている中で、妖刀を持っていると知っているのは雄英の教師陣、クラスメイト、そして父・六平国重と親しかった者のみだ。

 

「ハッ、そういうのは⋯⋯ぶちのめしてから聞くもんだ!!」

 

死柄木はニチャァと笑いながら、千鉱の顔面を捉えるべく手を伸ばす。

千鉱は首を捻って回避したが、翻ったコートの裾を掴まれた。

 

瞬時に「崩壊」が発動し、黒い布地が無残な灰となって崩れ去る。

千鉱は迷わずコートを脱ぎ捨て、構え直した。

 

「ああ…惜しかったな。もうちょいで殺せそうだったのに⋯⋯」

「⋯⋯⋯」

 

千鉱の思考は加速する。

 

(どこで気づいたんだ……?先日、侵入したときにか?

いや、その時はまだ先生方と話し終わた直後だ。

じゃあずっと前から?どうやって?)

 

「あ゙〜〜脳無。もう相澤(そいつ)の腕の骨でも折っとけ」

「っ!!」

 

死柄木は、少し離れた位置で相澤を組み伏せている脳無に指示を出した。

 

脳無は相澤の右腕を掴み、無慈悲にその骨をバキリと2回ほど折った。

しかし、相澤は最後まで声を出さない。近くにいる教え子に、心配や動揺を与えないためだ。

 

「んで、君はいつまで黙っているつもりなの?」

「⋯⋯⋯もういい」

「⋯⋯ん、何が?」

 

千鉱は深く、地を這うような重心で構え直した。

 

肺の奥まで冷え切った空気を吸い込み、全身の神経を淵天の柄へと集中させる。

理由は何であれ、情報を握られている以上、これ以上の隠匿は無意味だ。

 

「お前の言う通り⋯⋯質問は後だ。

 

その瞬間、千鉱から放たれた、深淵を覗き込むような禍々しくも冷徹な威圧感に、死柄木は思わず息を呑み、たじろいだ。

 

「ッ⋯⋯、脳無!奴を⋯」

 

死柄木が、脅威を排除せんと脳無に指示を出そうと右手を掲げた。

 

だが、その言葉が完成するよりも早く、

 

 

 

 

右手が、音もなく斬り落とされていた

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