異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた   作:暁刀魚

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1 燃え尽きて、適当に生きて

 異世界に転生すれば、人生をやり直せると思っていた。

 美少女ならさらにいい。

 自分というどうしようもない存在を、根本から否定できるからだ。

 

 でも、実際にそうなったとき、私は何も変わらなかった。

 いや、一度は変えようとしたけど、色々あって諦めたんだ。

 当時の私は、私にしては本当に色々と努力をしていた。

 きっと、怠惰だった自分だって環境が変われば、生き方も変えられる、と。

 

 しかしそれも無駄に終わった。

 後に残ったのは、単なる燃え滓。

 そもそも私は物語みたいな冒険活劇を望むような性格だったか?

 絶対にそんなことはないだろうと自信を持って断言できる。

 私らしくない頑張りの末に、そう気づいてしまったのだ。

 

 とはいえ、それでも転生チートは役に立つ。

 冒険者になれるからだ。

 冒険者は自由な職業。

 稼げてさえいれば、いつどのタイミングで休みをとっても許される。

 そのためには、強い力とそれによって得られる収入が必要不可欠。

 美しい容姿も悪くない。

 男に色目を使われるのは冗談じゃないけど、女の子に優しく接してもらえるようになったのはいいことだ。

 

 結局のところ、異世界に転生しても私の性根は変わらなかった。

 けど、前世のようなクソみたいなブラック企業も、理不尽なことしか言ってこないパワハラ上司も存在しない生活。

 最高じゃないか。

 だから私は、転生当初のやる気ってやつを、すっかりどこかへ落としてしまっていた。

 考えることは、いかにストレスなく人生を過ごすか、その一点だけ。

 かつては自分を変えようと努力をしていた頃もあるけれど、結局今の生活が私に合っているのだと。

 最近は強くそう思うのだ。

 

 

 ■

 

 

 冒険者の喧騒というのは嫌いじゃない。

 人混みは好きではないけど、それは彼らが全く知らない他人だからだ。

 冒険者ギルドで行き交う人を眺めていれば、少なくともそこにいるのはほぼ同業。

 彼らがどんな考えで、どういう依頼を受けているのか、そんな推測で時間を潰すことができる。

 何より最高なのは、

 

「周りが忙しそうにしてる中、自分だけのんびりしてるのサイコ〜」

 

 である。

 我ながら最悪なことを言っているな。

 特に今日は、冒険者ギルドが朝からずっと忙しない中、私だけ暇を持て余しているのである。

 というのも、今はダンジョンが活性期なのだ。

 

「第一階層完全攻略完了しました!」

「そのまま七級の冒険者は第二階層の窓口に行って指示を仰げ、八級(しんじんども)は解散! お疲れ!」

「第五階層が現在手薄です。誰か攻略手伝える方いらっしゃいますか! 前衛二名募集します!」

「俺が行くぞ!」

 

 受付の方では、誰もが皆忙しそうに声を張り上げている。

 ここは異世界、ダンジョンと呼ばれる不思議な場所があちこちにあることは、今更説明する必要はないだろう。

 この世界のダンジョンは定期的に活性期と呼ばれる大暴れ期間が発生する。

 これは、ダンジョン内に魔物と()()が溢れる時期のこと。

 そういえばなんとなく察してもらえるだろうが、今のダンジョンは危険である代わりに超がつく稼ぎどきなのだ。

 

 そんな時に、私だけ呑気に遠くからそれを眺めつつ、自分で入れた紅茶を啜っているわけ。

 一応言っておくけど、仕事をしていないわけじゃないよ。

 私にもちゃんと役割があって、それを遂行した結果、こんな一人だけぬくぬく修羅場を遠くから眺める特等席が完成してるだけ。

 具体的に何をしているかといえば、救護班という張り紙が私の座っている席に貼り付けられていた。

 

「すいません、ミツキさんお願いします!」

「お、来たねえ」

 

 そこでギルドの受付嬢から声をかけられる。

 ミツキ、というのが私の名前。

 異世界らしくないのは当然で、前世の苗字をもじったものだ。

 なんでそうなっているのかは、今は関係ないので置いとくとして。

 

「片腕欠損、片目喪失。他各部に負傷多数。心臓が動いてますが出血がひどくてこのままじゃ数分も持たないです!」

「あちゃー、これはオートエスケープに頼りすぎて油断したな」

 

 運ばれてきた男性は、それはもうひどい状態だった。

 各部に負傷多数、という内容の中に内臓が見えてるって部分が含まれてるくらいひどい怪我だ。

 前世の自分だったら卒倒してるかもしれないやばい患者も、今の私ならそこまで動じることはない。

 慣れって怖いね。

 さて、このまま放置すると死んでしまうから、さっさとなんとかすることにしよう。

 

「“不死鳥の再誕”」

 

 手を翳し、魔術を発動する。

 赤い光が私の手のひらからあふれ、怪我人に降り注いだ。

 すると、()()()()()怪我が再生していく。

 失った腕も、瞳も、あっという間に元通り。

 数秒ののち、ほとんど死に体だった男は完全な無傷の状態で私の前に横たわっていた。

 

「……相変わらずすげえな、“不死の竜姫”様は」

「腕()()()本物だからなあ」

 

 外野からの悪口、聞こえてるからね。

 まあでもこういう声は私にとっては普通に賞賛だから、気持ちよく受け取っておくことにしよう。

 向こうもわかって言ってるんだから。

 

「う、ここは……」

「やあ冒険者の……ロットくんだったかな、おはよーう」

「ゲェッ!」

 

 んで、起き上がった冒険者の男が私をみるなり、最悪な寝覚めをしたとばかりに飛び起きる。

 まあうん、その感想は間違っていない。

 なんでそんな嫌なものを見たとばかりに私を彼が睨むかといえば、単純。

 

()()()はツケにしといてあげるからね」

「クソ……引き際見誤ってオート無駄撃ちした上にドラ娘の世話にまでなったのかよ……俺の明日からの豪遊計画が……」

「命あっての物種だよ。私だってエスケープケチって死んだアホまでは助けられないんだ。君は賢い選択をした」

「ケッ、わかってるっての……」

 

 ()()()がクソ高いからだ。

 いくら異世界だからってあんな高位の治癒魔術ブッパできるのなんて私くらいなものだからね。

 当然、受けるだけで費用がバカ高くなる。

 保険に入ってれば一部はギルドが持ってくれるけど、少なくとも今日の稼ぎはほとんどパアだ。

 なので、治療された冒険者は、少しでも治療費を補填するべくトボトボと受付の方に向かうのが定番だった。

 

 そんなこんなで、私は時折やってくる死にかけの冒険者に治癒魔術をかけていく。

 その度に、目を覚ました冒険者は絶望顔を晒して、それから肩を落として去っていった。

 あの情けない顔を、でも生きているからまたやり直せることに安堵している顔を見ながら紅茶を楽しむのは、こうして治療班(総勢一名)になった私だけの特権だ。

 

「生きていればまたやり直せる。たとえ()()()()()しまったとしてもね」

 

 なんてことを呟きながら、一日も終わりに差し掛かった頃。

 

 

「すいませんミツキさん、レッサードラゴンの討伐お願いします!」

 

 

 緊急要請がかかった。

 これは私がこうして治療班として待機しているもう一つの理由でもある。

 私にしか倒せない魔物を倒すためだ。

 それも早急に。

 レッサードラゴンはドラゴンの中では下位種だけど、あんまり強い人のいないうちのギルドだと対処できるのは私を含めてごく少数。

 他の対処できる冒険者は稼ぎのために、今もダンジョンの中。

 だったらやる気のない私が、こうして受け持つのが筋だろう。

 仕事は面倒だけど、こういう緊急要請はただ魔物を倒してくればいいだけなので、楽だし報酬もいい。

 元々私がダンジョンに潜らないのは、私が潜ってしまうと他の人の報酬がなくなるという面も大きいわけで。

 

「んじゃ、燃え尽きたなりに一仕事しますかねえ」

 

 言いながら立ち上がる。

 私としては、このくらいのゆるさが自分にとってちょうどいいのだと考えながら。

 

 

 ◼︎

 

 

 フェニハナの街には、一人の有名冒険者がいる。

 名をミツキ。

 フェニハナの放蕩(ドラ)娘。不死の竜姫。

 そんな名前で呼ばれる少女は、とびきり美しく強かった。

 灰色がかった髪は先端が少し赤く、癖が強い長髪だ。

 ローブのような長いコートを羽織り、その下は短いショートパンツとノースリーブのシャツ。

 背丈は小柄だが、胸は大きい。

 どこか気だるげな瞳は、しかし吸い込まれるほど美しかった。

 

 そんなミツキには欠点がある。

 死ぬほどやる気がないということだ。

 それでいてフェニハナの街では彼女がまごう事なき最強の冒険者なんだからタチが悪い。

 とはいえ、それを咎めるものはフェニハナにはいない。

 なぜなら、それもまた自由な冒険者の生き方だからだ。

 もっといえば、フェニハナの冒険者は少なからずミツキの生き方に影響を受けるものである。

 

 これはそんな、燃え尽きてしまった冒険者のミツキが、日々を適当に過ごしながら今を肯定する物語。




燃え尽きTSお姉さんが脳破壊したりスローライフしたり無双したりしなかったりするお話。
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