異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた   作:暁刀魚

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10 お祭りに出かけよう

 私が生まれ育ち、拠点としているフェニハナの街があるプロミア王国は、広範な国土を有する大国だ。

 大陸随一の国家であり、その版図はなかなかの物がある。

 なので北は雪国から南は常夏と、様々な気候を内包していた。

 気候の種類が豊かだと何がいいって、各地で様々な文化が発展するってとこだ。

 

 食事などの様々な文化や風土が各地に根付いていると言うこと。

 この中で、特に地域色が豊かになるのはやはり、お祭りだと私は思うわけだ。

 

「よっと、ついたついた」

 

 私は天翼を解除して地面に降り立つ。

 そこはフェニハナから天翼で一時間ほどの位置にある都市。

 サンフラと呼ばれる街で、初夏のこの時期は人でごった返している街だ。

 なにせこの街最大のイベントである「天蓋祭」が催されるからである。

 当然、私の目的もこの天蓋祭だ。

 

 何を隠そう、私は祭りが前世の頃からそこそこ好きだ。

 前提条件として、参加者として単独で回る場合に限るけど。

 単純に屋台のあの雰囲気が好きなんだよね、子供の頃はお小遣いを貰って色々と買い物を楽しんだものだ。

 八割当たりのないくじに消えたけど。

 

「やっぱり賑わってるなぁ」

 

 祭りは明日からの開催ということで、あちこちで屋台の建設が急ピッチで進められている。

 この世界は比較的文明レベルが高いので、祭りともなれば前世とそう変わらないくらい色々な美味しいものが立ち並ぶのだ。

 特にかき氷とか焼き鳥とか、魔術やアイテムボックスで素材が用意しやすいものはこの世界でも変わらず存在していた。

 

「いやぁ、明日が楽しみですなぁ」

 

 とか思いながら、毎年泊まっている宿までの道を歩いていると――

 

「なんか文句アンのかてめえ!」

 

 おおっと、なにやら事件が発生したようだ。

 中世系のファンタジー世界は治安が悪く、祭りで人も多いから問題は起きやすい。

 私の与り知らぬところで起きている事件は流石に拘りようがないんだけど、眼の前で起きてしまうと……少し困る。

 流石に放っておくわけにもいかないしなぁ、周りの人に「お前明らかに冒険者なんだからなんとかしろよ」って思われてそうな気がしてならないのだ。

 気のせいとは解ってるんだけど、無視はできない。

 それはそれとして、あまりにもありがちすぎる展開だなぁ。

 

「おれぁなぁ、客だぞ? ひっく! お前みてぇなしょべぇ店主の店からでも買ってやろうって言ってんじゃねぇかよ、なぁ!」

「え、えと、ですから開店は明日からで……」

「ああ!? バカ言ってんじゃねぇよおめぇ!」

 

 おーおー、完全に酔っ払って祭りの開始を一日間違えてらっしゃる。

 祭りの盛り上がりが、準備段階の前日だっていうのにとんでもないから、間違えるのも仕方ないけどさ。

 とりあえずこれなら、適当に酔っ払いを追い払うだけで良さそうだ。

 

「はい、そこまで」

「うおあ!」

 

 私は、早速その酔っぱらいをつまみ上げると、ひょいっと投げ飛ばした。

 大きな怪我にはならないようにはしたけど、それ以外のことは知らない。

 

「な、何すんだてめぇ!」

「何してんのは君でしょ、酔っ払って人に迷惑かけちゃダメだよ」

「あぁ!?」

「え、あっ、えっ」

 

 私が割って入ったのは、一人の少年が準備をしている屋台だった。

 年の頃は十代半ばくらい、癖のある茶髪が特徴の少年だ。

 

「それとも、ちょっと痛い目を見ないとわからないかな?」

「ふざけてんじゃねぇぞ、テメェ! テメェみたいな女が……!」

「――”灼緋の天翼”」

 

 男は、私の言葉に反撃の構えを見せた。

 こういう相手は、痛めつけるよりももっとわかりやすく”見せた”方が早い、と私は経験上知っている。

 何をって言えば、ようするに私が何者であるかを。

 煌々と燃え上がる緋色の天翼は、私という存在を知らしめるには十分だ。

 そしてこの街には祭りになると毎年やってくるので、知っている人間は私のことを知っている。

 

「――ふ、不死の竜姫様!?」

 

 ちょうど、背後にいる少年のように。

 それはそれとして、様はちょっとこっ恥ずかしいな!

 

「ふ、不死の竜姫……フェニハナの……? う、うわああああああああ!」

 

 そして酔っ払いも、一応私のことは知っていたらしい。

 数歩尻もちをついたまま後退り、その後立ち上がって逃げていってしまった。

 うーん、ありがち展開すぎる……異世界でも中々ないぞ、このありがち。

 

「っと、もう大丈夫かな? ――少年」

「あ――」

 

 私は天翼を解除して、少年の方に振り返る。

 すると少年は、どこか呆けた様子で私を見ていた。

 うーん、怖がらせてしまっただろうか……

 

 

 ■

 

 

 それから、少年――名をラスルというらしい――はぺこぺこと私にお礼を言ってくれた。

 まぁ正直、別に大した手間ではなかったのだけど、私としても打算がなかったわけではない。

 こういう時、助けたお礼として屋台の商品をプレゼントしてくれることが多いのだ。

 そんな私の期待を知ってか知らずか、ラスルくんはあるものをプレゼントしてくれた。

 ラスルくんの屋台は食事を提供してるみたいだから、どんなものが出てくるか楽しみだったんだけど――出てきたのは少し意外なものだ。

 

「ええと、僕はこれを焼麺と呼んでるんですけど」

「お、おお……!?」

 

 ――焼きそばだ。

 焼いた麺に味付けした、屋台における定番オブ定番。

 それをこんなところで見かけることになるなんて!

 定番なんだから異世界の屋台にもあるんじゃないかと思うかもしれないが、残念ながら私は焼きそばをみたのはこれが初めてだ。

 単純に、フェニハナやサンフラ周辺にラーメン系の食事文化が発達してないんだよね。

 異国の、結構東の方では食べられることもあるそうだけど。

 

「これは僕の母の故郷の料理を、僕なりにアレンジしたものです」

「それは……すごいね?」

 

 焼きそば自体は、別にそこまで特殊なアイデアが必要な料理ではない。

 麺の存在を知っていれば、自然とどっかしらで湧いてくるアイデアだろう。

 でも、巡り巡って遠い異国の地に伝わった母親の故郷の味が、こうして私の知っている焼きそばになるんだから面白い。

 

「なんにしても、ありがとね? わざわざ焼麺を奢ってもらっちゃって」

「あ、いえ……これくらいなら全然」

「明日も絶対買いにくるからさ、よろしくね!」

「は、はい!」

 

 さっそく、受け取った焼きそば――もとい焼麺を手に私は宿へと向かうことにする。

 最後に手を振って、ラスルくんに別れを告げてから意気揚々と足を向ける。

 

「またね、ラスルくん!」

「――っ、は、はい!」

 

 最後、ラスルくんの声が上ずっていた気がするのは、気のせいだろうか。

 

 

 ■

 

 

 焼麺は、私の知っている焼きそばの味と殆ど一緒だった。

 異世界だから、使っている食材の味が全体的に前世と違うのはあるけれど、それでも雰囲気は完全に焼きそばである。

 こりゃあ、明日はさぞかし売れるだろうな、と思いつつ祭り当日を迎えた。

 早速私は、ラスルくんの屋台に足を運んだ。

 しかし意外なことに――

 

「ありゃ、もっと人が並んでると思ったんだけどな」

 

 ――ラスルくんの屋台は閑古鳥がないていた。

 近くの他の屋台は、ばっちり人が集まっているのに。

 

「あ、ミツキさん! いらっしゃいませ!」

「こんにちは、ラスルくん。今日も焼麺一ついただけるかな」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 それから、客も来ないからと少しラスルくんと雑談する。

 どうやらあまりにもこの辺りで見かけない料理すぎて、人が集まらなかったらしい。

 味は何一つ問題ないのに。

 

「まぁでも……これも一つの挑戦ですから。父からは”やってみろ”って言われてますし」

「うーん、もったいないよ。ラスルくんの焼麺はこの祭りの主役になるだけのポテンシャルがある!」

「そ、そこまで言われると流石に恥ずかしいです!」

 

 ごめん! でも事実だから!

 前世じゃ間違いなく焼きそばは主役の一角だったから!

 だからこそ、惜しい。

 どうにか、ラスルくんの料理を多くの人に食べてほしい。

 そしてこうなると、自然と私はあることを思いついてしまう。

 まぁ、ある意味最大級のズルみたいな方法なんだけど――何より、私自身若干面倒だな、と思う方法なんだけど。

 でも、焼きそばが広まらないなんて、そんなの絶対面白くない。

 ()()()()()()()()()()()()()()というのが、私の一番の動機だった。

 やる気のない私が仮にやる気をだすなら、私が楽しいと思うことにやる気を出したいのである。

 

「――するよ」

「え?」

 

 何って?

 まぁうん。

 

「――私がこの店の売り子、するよ!」

 

 反則って言われたら、何一つ反論できない方法だ。

 

「えええええええええ!?」

 

 そしてラスルくんの叫びが、辺りに響き渡るのだった。




わるいおんなお祭りを征く、その1
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