異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
サンフラの街のお祭り、天蓋祭。
この街周辺に、ある時竜の魔物が出現した。
私が倒したレッサードラゴンよりも更に強いドラゴンで、一体で街一つを焼け野原にできるとんでもない奴。
その巨大さから、まるで空を覆う天蓋のようだったと伝えられている。
しかし竜は、結局街に壊滅的な被害を出すことはなかった。
偶然にも通りかかった冒険者が、これを撃退したのだという。
まぁ、そういうおとぎ話が由来となって、天蓋の竜が撃退されたこの時期に天蓋祭は開催されている。
お祭りとなれば、色んな人が街の外からやってくるもの。
あちこちに屋台や出し物が立ち並び、夜には中央広場で参加者がダンスを踊ったりもする。
それはもう賑やかで、私はこれを適当に眺めながら楽しむのが定例にしていた。
フェニハナの街でも秋に収穫祭が行われるんだけど、それは会場の設営とかでスタッフとして活動することが多いから、完全なゲスト感覚で関われるのは天蓋祭だけだ。
なんとなくこの、部外者として遠巻きに祭りの喧騒を眺めるってのが、私は結構好きだったんけど――
「ひいーん! 人多すぎーーー!」
――今回は、無理そうです。
売 れ す ぎ。
あれだけ閑古鳥だったラスルくんの店が、一瞬にして長蛇の列の人気店に化けた。
確かに私が店に立てばそれなりに人は集まると思いましたよ。
容姿はそこそこ自信がありますし? 一級冒険者の不死の竜姫様ですし?
でもいくらなんでもこんなに並ぶとは思わねぇよ。
考えられる要因は――
「――
「ええっと?」
「ラスルくんの焼麺は、美味しい! これまでにもちょくちょく買う人はいたんじゃないかな?」
「え、えと、何人かは」
「そこからどっと評判が広がって、更に私が油を注いだ。うわー! 手が足りないいいいい!」
それはもう、すごい光景だった。
他の屋台の列を飲み込もうかという人の波。
交通の邪魔になってないですかね、へへ。
といいたくなるような長蛇の列。
さ、捌ききれないーーーー!
「うわ、ミツキさんほんとにいた!」
「その声は……ルクスラちゃん!?」
そうして列を捌いていると、聞き慣れた声が飛び込んでくる。
艷やかな黒髪長髪、今日はギルドの制服ではなくちょっと豪華なワンピース。
フェニハナの街の冒険者ギルド受付、ルクスラちゃんがそこにいた。
「何してるんですかこんなところで! ミツキさんがそんな無駄にやる気を発揮してるの初めてみましたよ!?」
「私だってこんなことになるとは思ってないよー! ちょっと偶然知り合ったこっちのラスルくんって子の屋台が繁盛してないから手伝っただけなのに!」
「不死の竜姫がこんなところで、一介の屋台を手伝っていいわけがないじゃないですかー!」
ごめーん!
そんな話をしながらルクスラちゃんに焼麺を渡していく。
「ちなみにルクスラちゃんはどうして天蓋祭に?」
「え、あ、えーっと、まぁちょっとした用事ですよ」
「観光かな、楽しんでねぇ」
「そ、そーですね! あはは!」
なんかぎこちない返答のルクスラちゃん。
とはいえ突っ込んでる暇なんてない。
むしろここで聞くべきは――
「ところでルクスラちゃん! 店番とか手伝ってもらえたり――」
「じゃ、失礼しますねー」
「ああああああ待って――――!!」
――逃げられたぁ!
くそうくそう、いいもんね、このままラスルくんと二人っきりでこの列を捌き切ってやるもんね。
「ところでラスルくんはなんでそんな残念そうにしてるのかなぁ? ルクスラちゃんみたいな子が好みだったのかなぁ?」
「え!? あ、いえ、ち、違いますよ!? ただちょっと今の状態は心臓に悪いといいますか……接客以外の理由で死にそうといいますか……」
ごにょごにょとラスルくんは何か言っているけれど、今はそれを聞いている暇はなかった。
とにかく急げ、間に合わなくなっても知らんぞー!
■
それから、私たちはなんとか客を捌いていく。
もともとラスルくんの焼麺は美味しいと思っていたけど、一度認知されてしまえばこれほどまでに売れるものなのだ。
私が認知させた側面は大いにあるとは言え、それを作ったのは間違いなくラスルくんである。
こりゃすごいと思っていると、そんなラスルくんの表情が段々と暗くなっていった。
客はまだまだいっぱい来てる、繁盛はピークに到達しているかというレベルで、そんな暗くなるようなことないだろうに。
「どうしたの、ラスルくん」
「――ないんです」
「んえ?」
ない? 何が?
この状況で無くなるものといえば――まさか。
「――
「うわちゃあ」
そりゃまずい。
列は未だに終わりが見えないくらい並んでいる。
「後どれくらい持ちそう?」
「多分、このペースなら一時間くらいなら」
「十五時くらいかぁ、でもまぁしょうがないんじゃない?」
この世界の時間は、概ね前世と同じである。
これもまた一種のファンタジー。
とはいえ、こんな繁盛ラスルくんも予想してないだろうし、むしろそれくらい材料を用意してたのがすごいと思う。
アイテムボックスに入れておけば傷まないとはいえ、どれくらい用意したんだ。
理想で言えば十八時くらいまで持てば良かったんだけど、ラスルくんは屋台設営初めてっぽいから、しょうがないことだと思う。
「だ、ダメです……た、耐えられません。売り切れになって、それでお客さんに怒鳴られたらと思うと……」
「そ、それは大丈夫だって! いいんだよラスルくんには何の責任もないんだから!」
「で、でも僕……期待されるの初めてで、ど、どうすればいいかわからなくて……」
――ラスルくんは、今年で十五歳になるのだという。
十五歳といえば、一般的には成人として扱われる年齢だ。
自己評価の低そうなラスルくんにとって、自分だけの大舞台ってのはこれが初めてのことなんだろう。
「ラスルくんはお父さんが料理人で、ラスルくんも料理人になりたいんだよね」
「は、はい」
「それで、自分なりに昔から母親の故郷の料理を、自分なりにアレンジして皆に提供したかった――」
「……はい」
その辺りの話は、昨日雑談した時にある程度聞いている。
十五歳の成人したばかりの少年が、どうして屋台なんて開いてるのか。
父親から任されたから、ということらしい。
昔から作ってきた焼麺という料理が、人様に出してもいいレベルになった。
だから屋台という多少売れなくても誰も文句を言わない舞台で、試験的にラスルくんに出させてみたそうだ。
元々十四まで父の屋台を手伝って、最低限のことは叩き込んでいたからラスルくんも屋台を開くだけなら問題ない。
流石にここまで繁盛するとは、父親も思ってはいなかっただろうけど。
「……期待って、重いよね」
「え……?」
「私もさ、期待されたらそれに応えなきゃって思うタイプだからちょっと解る」
本当なら私だって、こんな長蛇の列さっさと逃げ出して祭りに戻りたい。
楽しそうという感情だけで頑張るには、いささかつらいものがある。
それでも、私がやるって言ったら、ラスルくんは期待してくれた。
だったら、それに応えないと。
「両親から期待されるなんてさ、すごいじゃん。ラスルくんはすごい子なんだよ。私なんて全然だから、そういうのちょっとだけ羨ましい」
「ミツキ……さん」
だって私の父は、私を駒として扱おうとしてたかもしれないし。
前世は……もっと酷かったから。
焼麺を焼くヘラをせかせかと動かしながら、そんなことを一人で思う。
これを、顔に出すわけにはいかないな。
「……解決策、あるんじゃない?」
「え……?」
いいながら、私はヘラをちょっとだけ掲げて見せた。
「こういう時は、ちょっとくらい大人を頼ってもいいんだよ。――少年」
「あっ――」
さっきからラスルくんの手伝いで、焼麺の作り方はマスターできた。
だから、店番は一時的になら私に任せても問題ない。
そして材料は、ここ以外にもまだあるんじゃないか?
売れるかわからない焼麺に、あれだけ材料を用意するのは普通じゃない。
多分、ここで売れなくても自分の店に出せばちゃんと売れると、父親は判断したのだ。
だったら、店で売る用の材料は、まだ残ってるんじゃないか?
ラスルくんの顔を見る限り、その推測は――多分正しい。
「い、行ってきます!」
「おーう」
そうして、ラスルくんは駆け出していく。
私もああやって、大人を心の底から頼れる状況だったら、もう少し楽ができたのかな?
なんて思いながら、接客に気合を入れ直すのだった。
わるいおんなその2
今回の話は全編わるいことしかしてないです。