異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
あれから結局、屋台は十八時に完売となった。
だいたい私が予想した通り。
というか、父親は仮に爆発的な流行を焼麺が見せた時にそなえて、意図的に十八時までの材料を用意していた。
使わなかったらそれは店で使えばいい、くらいの気持ちで。
祭りは夜遅くまで続くわけだから、それでは全然足りないじゃないか、と思わなくもない。
少なくともラスルくんは戻ってきた時、第一声に「ごめんなさい」と言ったくらいだ。
でも私やラスルくんの父は「問題ない」と判断していた。
何故かって言えば――それはうちの焼麺が売り切れになる辺りではっきりする。
「焼麺、あっちでも売ってるらしいぜ」
「マジか、この列ならばなくていいなら、そっち行くわ」
なんて声が、ちょいちょい聞こえてくるようになった。
各地で”模倣”が始まったのだ。
焼麺は別に、そんな作り方が難しい料理ではない。
材料さえあれば、だれでも作れる。
現代で屋台の定番として親しまれているのは、そこに理由がある。
多分、私が来る前にちょいちょい買ってく人がいたのは、別の屋台の偵察だったんだろう。
そして天蓋祭には、本当に各地から商人がやってきて屋台を広げている。
中にはアイテムボックスの中に、麺をしまい込んでた商人もいたかもしれない。
それらが急ピッチで試作を開始、なんとか夕方の時間帯に間に合わせて商品を出し始めたというのが……多分真相だ。
「ちょっと悔しい気もするけど、ラスルくんは全然気にしてなさそうだね」
「美味しさなら……負けてるとは思いませんし、ありがたいのも事実ですから」
「お、結構傲慢だねぇ」
「あ、いえ、その、えっと」
「あはは、冗談冗談」
ラスルくん、案外図太いところもあるようで、料理の腕に関しては自分を疑っている様子はない。
自信がないのはどっちかというと接客とかそっち方面のようで、まぁ実際一人で店を任されるなんてこれが初めてだから、仕方ないといえば仕方ないんだろうけど。
「そろそろ在庫もなくなるねぇ、お客さんもだいたい捌けて来た」
「……そう、ですね」
人が他所に流れるのと、私がさっきから大声で「もうすぐ在庫なくなります」と喧伝したこともあって、人だかりは殆ど解消されつつある。
そうすれば屋台を片付けて、夜のダンスイベントにはギリギリ間に合うだろう。
それからでも、祭りは十分楽しめる。
「えと……お給料は、ちゃんとお支払いしますから」
「ありがとね、なんだかごめんね、私から勝手にいい出したのにお給料までもらっちゃって」
「いえ、いいんです。父からは絶対に渡せって、強く言われてますから」
「あはは、お礼としてちゃんとフェニハナに戻ったら、お店の宣伝しておくからさ」
ちなみに、ラスルくんのお父さんと私は顔見知りだった。
以前サンフラに来た時、店によったことがあったのだ。
それで料理がめちゃくちゃ美味しくて、あまりにも美味しそうに食べてたからか、お父さんに声をかけられたことがある。
そのことを、向こうも覚えていたらしい。
「ただ……ちょっと残念なことはあって……」
「ん? どしたの?」
「あ、いえ、なんでもないです!」
カッと、ヘラが鉄板の縁にあたる。
そろそろ焼麺も底が見えて来た。
後少し、ならこの後のことも考えないと。
「ねえ」
「は、はい?」
私は、少し笑みを浮かべてラスルくんの方を見る。
「屋台が終わったら、どうする?」
「えっ……えっ!?」
「いや、終わったら自由時間でしょ? お祭りはまだ続くんだから、楽しまないと!」
「え、えと……じゃあ、よその焼麺を食べに行こうかと……」
「何それ、市場調査? あっはは、真面目だなあラスルくん」
じゃあ決まりだ。
「でもいいね、それ。私も乗った!」
「はい!!!?」
「……驚きすぎじゃない?」
せっかく一緒に頑張ったから、打ち上げなんてどうかと思っただけなのに。
まあいいや、終わった後の予定が決まれば、面倒な仕事もやる気が出ると言うもの。
……いやそうでもないな、しばらくは人と話をする仕事はこりごりです!
◼︎
アイテムボックスに入れれば焼麺は嵩張らないんだけど、祭りの最中は手で持って持ち歩きたい。
だから自然と大量の焼麺が私に手の上には乗っている。
逆にラスルくんはこの後持ち帰って両親と検討会をするそうで、買った焼麺はアイテムボックス行きだ。
便利だねえアイテムボックス。
容量はものによって様々だけど、安いものなら子どものお小遣いでも手が出る値段。
これのおかげで、この世界に輸送問題は存在しないと言ってもいい。
魔術もあるから、尚更ね。
「私はねえ、日々を楽しく過ごせればそれでいいわけ。だからやる気はないけど、自分がやらなきゃと思ったことはやらないとその後のことが気になっちゃって素直に楽しめないんだ」
「ははぁ……」
「でも同時に、頑張ってはいないよ。君を助けたのは私なら簡単に助けられるからだし、別に屋台の作業だって特別手が早いわけじゃなかったでしょ」
「いてくれただけでも、とってもありがたかったですよ」
そもそもありがたくなってしまった理由が私なのだから、ラスルくんの言葉は正しくはないと思う。
でも、それはあくまで私が彼を手伝ったから。
そうじゃない未来だったら、果たして結果はどうなってたかな。
「……ミツキさんの注いだ油は、元々人が集まりそうだった火種があったから燃えたんですよね? だったら、もしミツキさんが居なかったら僕は父さんのところに材料を取りに行けてませんし」
「そういうもんかな」
そういうもんかもしれないね。
なんだか気を使わせてしまった。
私のほうが年上なのにね。
まぁ、年齢なんて何の意味もない指標でしかない。
私の前世が私の血肉になってるとは正直全く思えないし、今の人生も結構曲がりくねった生き方をしている。
一直線に料理人という夢を目指してるラスルくんのほうが、絶対素直な成長曲線を辿ってるだろう。
「何にしても、今日はいい経験になったよ。報酬もたんまりもらったし」
「い、いえ……売上を考えたらこんなの全然――」
「何言ってるのさ――思い出だよ」
お金なんて、私はいくらでも持ってるし。
経験、思い出、それから――繋がり。
「ラスルくんとこうやって出会えて、私は楽しかったよ?」
「――――」
うん、普段サンフラの街は、祭りの時以外は殆ど訪れない場所だ。
これからは、サンフラとフェニハナ間の護衛依頼とか受けて、サンフラでラスルくんちの食堂で食べて帰って来る。
なんて、割とアリなコースではないだろうか。
うーん、楽しみが増えましたなぁ。
「――あ、あの!」
「ん?」
そこで、ふとラスルくんが何かを呼びかけてくる。
私が反応しながら振り返ると――
――ちょうどそのタイミングで、鐘が鳴った。
もうすっかり夜も更けていて、祭りの灯りだけが周囲を照らしている。
そんな中鳴り響くこの鐘は、中央広場でダンスが始まる合図だ。
「大きな音だね」
私は少し耳を抑えて、そう返す。
何かいいたげなら、そのまま言葉を待つつもりだったけど――
「あ、そ、そう……ですね」
「ん。――私はこれから踊りに行くけど、ラスルくんはどうする?」
「あ、僕はそういう踊りとか全然わかんなくて……ミツキさんは踊れるんですか?」
「意外にも、結構踊れるんです」
そう言って、私は、焼麺を抱えたまま軽くステップを踏む。
令嬢仕込みの軽やかなステップは、抱えた焼麺も相まってあまりに場違いだ。
でもまぁ、そこが逆に面白いと思って。
「……ふ、あはは、なんですか、それ」
「いいじゃないの、お祭りなんだから楽しければそれでいいのさ」
「そう……かもしれませんね」
かくして、祭りの夜は更けていく。
普段だったら何気なく屋台を巡って、ダンスを踊ったり踊らなかったりして終わりの一日だったけど。
今日はいつもより、楽しい一日を送れたと思う。
来年も、楽しいお祭になればいいね。
こいつはよおおおおおおおおおおお!
後一話あります、ラスルくん視点です。