異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた   作:暁刀魚

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14 そろきゃんすんべ

「ソロキャンすんべ」

 

 天蓋祭から数日が経過し、フェニハナでいつも通りの日常を送っていたある日。

 目を覚ました私はそう決意して、荷造りを始めた。

 前日に考えていた、シェリブロの執筆に一日当てるという予定はキャンセルだ。

 ――決して、現実逃避ではない、決して。

 

 異世界でソロキャンなんて、よっぽど暇な人でなければやらないのではないだろうか。

 だって街の外――魔物が出てくる可能性のある場所でやるキャンプは、一般的には冒険だ。

 それでも個人的な気分は完全にソロキャンである。

 いつも通りノースリショーパンの上に魔道具のローブを羽織って、アイテムボックスに荷物を詰めていく。

 別にキャンプといっても、行き先は街の近くなのでそこまで気負う必要はない。

 朝食を済ませてから、私はのんびり街の近くにある森を目指した。

 

「相変わらず静かだねぇ」

 

 そこは、街の近くにあって植生も豊かということで新人冒険者の狩り場となっている森だ。

 魔物も比較的少なく、安全に薬草などを採取することが出来る。

 私も初めての冒険はここだった。

 なんてことを思いながら、目的地は森の奥にあるキャンプ場――もとい休憩所である。

 森の中で狩りをすることになった時、もし仮に街に戻らない場合に森の中で一夜を明かすことを想定されて建てられた小屋だ。

 とある事情で、中はかなり広い作りになっている。

 使用する場合はギルドに報告して使用料を払うことになっていて、事後報告も可。

 一応バレなければ報告しなくても使えるけど、あんまりおすすめはしない。

 

「さって、準備しますかぁ」

 

 私はここに来る前に報告をしてから来てるので、遠慮なく施設を使わせてもらう。

 一室に適当に荷物を置いて、ローブも脱いでおく、こんなところでこいつが必要になることはそうそうないはずだ。

 来た時間がちょうど昼なので、さっさと昼飯を済ませることにした。

 休憩所には薪が置いてあるので、それを使って火を確保する。

 ぶっちゃけ自分で燃やし続けてもいいんだけどねぇ、キャンプに来たからには風情を大事にしたい。

 

「こういう時に作るものは、大抵カレーと相場が決まっております」

 

 残念ながらおコメはないので、主食は持ってきたパンになるけれど。

 カレーの方は今から自作である。

 玉ねぎやらなんやら、色々と定番の材料を並べていく。

 その中に、一つ今回のために用意した特殊な材料があった。

 

「てってーん、火蜥蜴の肉ー」

 

 口に出すとちょっと危うい名前になる、火系の蜥蜴型魔物の肉だ。

 これには、ある面白い特性が存在する。

 最低限の下拵をした肉を、私はためらうことなく――

 

「まずはこいつを――そのまま鍋にイン!」

 

 この時、鍋に油は敷いていない。

 だというのに鍋に投入された肉は自分自身を発火させた。

 そのままごおごおと燃え盛る鍋をいい感じに振って、肉を焼いていく。

 火蜥蜴はその体内に発火性の魔力を内包している。

 これを使って、口から炎を吐き出すわけなんだけど、討伐後のお肉に火をつけるとその火が燃え広がって肉を勝手に焼いてくれる特性があるのだ。

 ある程度焼色がついたところで火を消して、回収。

 次は一般的なカレー作りの工程だ。

 

「玉ねぎを飴色になるまで焼いてぇ、次にルーを作る」

 

 この世界におけるルーの作り方は、小麦粉とカレー粉を混ぜて作る。

 カレー粉をブロックにすることは残念ながらまだできておらず、予め複数のスパイスを調合させたカレー粉を使うのが一般的。

 プロミア王国ではあまりカレーは馴染みのない料理なんだけど、輸送のコストが前世と違って相当低いこともあって、人気の地域もある。

 フェニハナは……大きな商店を覗けば若干高価なカレー粉が普通に置いてある、ってところ。

 

「粉が馴染んだら他の材料も入れてー、とろみを付けてから食材を……イン!」

 

 コトコトと、いい感じに鍋から音が聞こえてきて、香ばしい匂いが漂ってくる。

 特に大事なのは、この中に火蜥蜴の肉が入っていることだ。

 火蜥蜴の肉は料理の最中に油がなくても勝手に燃えてくれるという、ちょっとした楽しみを与えてくれるだけでなく、()()()()()()()()()()()()

 辛いのだ、この肉、最初から。

 それがカレーに染み込んで、意図的にちょっと甘めにしていたカレー粉に辛さを浸透させていく。

 最後に味を整えたら――完成。

 

「できたぁ、火蜥蜴肉の辛辛カレー!」

 

 名前は今適当に考えました。

 うーん、刺激的な香りが漂ってきて実に美味しそう。

 これで米があればなぁ、なんて思いながら早速実食。

 

「かっらぁー! 舌がヒリヒリするー!」

 

 最初のうちは、割と行けそうだなという感じのカレーの味。

 しかしすぐに舌を火蜥蜴の辛味が襲い、一気に口の中が辛口一色になる。

 直ぐに水を飲んでそれを冷やしながら、パンに付けたりして食べていくのだ。

 うーん美味しすぎか?

 火蜥蜴肉はその噛み応えも最高で、噛めば噛むほど歯ごたえがあって、更には中から辛味がじわっと溢れてくる。

 それにカレーのルーがいい感じに絡んで、食べているだけで口が幸せになるのだ。

 これを大自然の中で食べているってだけで、なんとなくキャンプ感が出てくるから不思議である。

 

「夜はこいつにうどんを入れるのじゃ」

 

 とか思いながら食べていると――不意に遠くから声がした。

 

 

「なんか向こうでいい匂いがするぞ!?」

 

 

 若い声だ。

 ラスルくんよりも更に年下の少年の声。

 それから、ぞろぞろと複数人がこっちにやってくる足音。

 数は――()()()()()()いるんじゃないか?

 びっくりするくらい大所帯だ……が、しかし。

 だからこそ、私たちはその音の主が何となく誰だか解る。

 

「――誰かと思えば、先約がいたか、ミツキ」

「そういう君はマグナじゃないか」

 

 んで、案の定というべきか、ぞろぞろやってきた子供達の先頭に、一人の大男が立っていた。

 名をマグナ。

 冒険者パーティフォッサルのリーダーで、一級冒険者。

 

「カレー、カレーか!? カレー作ってる!」

「いいなー!」

「ちょっと、あの人ミツキ様よ!? 失礼でしょ!?」

 

 後ろで子供達が、やんややんやと色々話をしている。

 私はちょうど食事を終えたところだったので、使っていた食器を一旦アイテムボックスにしまってから立ち上がる。

 カレー鍋は……まぁいいか。

 

「また一人で休憩所を使っているのか? もの好きだな」

「そういうそっちは新人講習? 一級冒険者のやることとしては、私と同じくらいもの好きだよ?」

「まぁな。お互い様というやつだ。後から来て騒がしくしてしまうが、構わないか?」

「問題ないよ。子どもの相手は嫌いじゃないしね」

 

 マグナが何をしているかといえば、新人冒険者の講習。

 野宿の方法を、ここで学ぼうというのだ。

 まぁ空気的には林間学校とか、登山からのキャンプみたいな感じの浮ついた空気が漂ってるけど。

 それでもこうやって、楽しんで冒険をするのは悪いことじゃない。

 マグナは時折、こういう新人向けの講習の講師を請け負うことがある。

 一級冒険者なのに後進の育成に熱心なのは生真面目が鎧を着て歩いてるかのようだ。

 

「そうだ、こちらはこれから昼食の準備を始めるのだが――その前に一つ頼んでもいいか?」

「ん、どしたの?」

「――君に決闘を挑みたい」

「おおー」

 

 決闘。

 休憩所の前の――現在私が昼食を食べている空間は、かなり開けている。

 そこを使えば、子供達が観戦する中で決闘をすることも可能だろう。

 

「受けてもらえれば、今日の夕飯と明日の朝食はこちらで用意する。どうだ?」

「乗った。カレーうどんは帰ってから明日の昼食にするよ」

 

 アイテムボックスなら、冷蔵庫以上に保存も利くしね。

 マグナとの決闘か、結構久しぶりな気がするな。

 でもまぁ、たまには子供達の前でかっこいいところを見せるのも悪くない。

 楽しそうだ、こういうシチュエーション。

 更には今日と明日のご飯もツイてくる。

 こりゃあやるしかないね。

 私はアイテムボックスにカレー鍋を突っ込むと、パンと両手を打ち鳴らして笑みを浮かべた。




定期的に入る料理パートです。
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