異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
私が決闘に凝っていた頃から今に至るまで、多分最も決闘した相手はマグナだ。
身近な冒険者の中でマグナとシャロネが一番強く、あまりシャロネは決闘に乗り気じゃなかったから。
理由は元従者からの遠慮……と言う側面も多少あるだろうけど、単純に私と言う女体を前にして集中できなくなるから。
バカバカバカ!
それはそれとして、マグナはまあ厄介な相手だ。
私は決闘においては無敗を誇るけど、決して無敵というわけじゃない。
最後の最後までどっちが勝ってるかわからなかった試合、なんて山のようにある。
そしてその山を築いたのが、目の前の山脈のような男。
「此度は決闘の申し出を受けてくれて感謝する」
「他の人ならともかく、マグナから挑まれたら断らないよ。時期を選ばせてくれ、とはいうかもしれないけど」
主にシェリブロの締切間近とか、私の体調が死ぬほど悪い時とかね。
「何にせよ、周りの新人たちに見せる良い教本としよう」
「りょーかい」
互いに構える。
決闘には決闘魔術と呼ばれる特殊な魔術を使う。
使える魔術師を用意するか、専用の魔道具を使うのが一般的。
今回は私が決闘魔術を使えるので、魔道具は必要ない。
決闘魔術のいいところは、決闘魔術による結界が展開されている間は、致死の攻撃が発生した場合にそれを直前で止めてくれるところ。
他にも色々特性があって、決闘魔術の結界内部で決闘魔術の外に出ようとすることはできなかったり、一定以上のダメージを結界が負うと、結界が破壊されたりする。
結界を破壊した場合は、破壊した側の反則負けだ。
これがねぇ、決闘魔術に深みを与えてるんだよねえ。
「いざ……!」
私が術式の展開をすると、アイテムボックスから取り出した自分の身長よりも大きなメイスを掲げて、マグナが構える。
同時に私も灼緋の天翼を展開した。
「しょーぶ!」
私がそう言い切ると同時、マグナが正面から突っ込んでくる。
その動きは普段のマグナと比べると緩慢だ。
そりゃそうだろう、この決闘は子どもたちに見せないといけないんだから。
全速力を出したら、マグナの姿を新人が追えなくなる。
まあそうでなくても、マグナは見た目通り機動力はあまり重視しない戦い方をするけどね。
「“炎熱の火球”!」
私は、炎魔術の基礎とも言える炎弾を打ち出す魔術で反撃に出る。
これを複数並べて、勢いよく打ち出すのだ。
するとマグナは、
「おおおおおお!」
それを無視して正面から突っ切って来た。
やっぱそうくるよな!
「マグナたいちょーが竜姫の炎を突っ切った! すげー!」
「ミツキ様の魔術を!? 嘘でしょ!?」
子供たちの声援が聞こえてくる。
「にしてもマグナたいちょーか、少し羨ましいなぁ!」
「いっている場合か?」
「ごもっともで!」
マグナはすでに正面に迫っていた。
そのメイスが振り下ろされ、地面に叩きつけられる。
途端、地面が勢いよく陥没した。
土煙が決闘魔術によって区切られた空間を覆う。
「嘘だろ! 竜姫が一発でやられたりすんのか!?」
「そ、そんなはずないわよ……でもたいちょーだし……」
なんて子供達の声が響く中、私は土煙の中から先ほどより巨大な火球を放つ。
「ふん!」
その火球ごと土煙をマグナが払い、開けた視界には空から見下ろす私と見上げるマグナが子供達の視界に映るだろう。
「いいね」
「まだまだ!」
互いにほとんど意味のない言葉を投げかけあって、撃ち合いが始まる。
距離を保って空を縦横無尽に翔けつつ火球を放つ私と、それらを的確に弾きつつ隙を見て突撃するマグナ。
一撃でも当たれば敗北判定がでそうな攻撃だ。
対するこっちは明らかに火力が足りてない。
「鈍ってないようで何より!」
「それはこちらのセリフだろう!」
ここまでのやり取りは、一種の挨拶みたいなものだ。
子供達にわかりやすく見栄えの良い戦闘をしているに過ぎない。
この決闘は純粋な力比べ以上に、観客の子供達へ夢を見せる興行……プロレス的な側面が大きい。
なので開始からしばらくは、互いの得意戦法を“見せ合う”ような戦い方をするのだ。
私は機動力と手数、マグナは防御力と破壊力。
「いけー、たいちょー! 竜姫にも負けてないぞ!」
「ミツキ様の戦い方って……本当に綺麗……!」
子供達がそれに酔いしれたところで、そろそろマグナが動きを見せることだろう。
お互いの視線が交錯、そろそろ良いだろうという了解が取れると、マグナが勢いよく地面を叩いた。
「また土煙だ! 前が見えねえ!」
塞がれた視界、油断なく周囲を見渡すけれどマグナの気配はなし。
この土煙を私が晴らすこともできるけど、私はしない。
仮にも決闘無敗の竜姫が、挑戦者の動きを妨げることは無粋の極み。
なんてカッコつけてるけど、単純に楽しみなのだ。
その時だ、私めがけて巨大な
「っ!!」
土煙の動きからなんとか前兆を察知して、空に飛び上がって避ける。
身を捩って身体の上下が反転、ローブをはためかせながら、私はそれを見た。
「巨大……ロボ?」
かなりの長身であるはずのマグナを、鎧ごと数倍にデカくしたかのような巨人が、そこにいた。
出立はロボっていうより鎧タイプのゴーレムって感じ。
いやこれは……普通にゴーレムか。
『ギガンティックゴーレムだ。展開すると中に人が搭乗することができる』
「またとんでもないおもちゃを持ち出して来たな……!」
『君に勝つためには必要なことだ』
マグナは、決闘で私に勝つため、毎回様々な魔道具を持ち出してくる。
その度に戦い方や強さの方向性が変化していき、厄介極まりないものもあるぞ。
たまにハズレもあるけど今回は子供達が見ている以上、そうそうハズレは持ち出さないはずだ……!
『こいつの良いところは』
「良いところは……?』
『手足と同じ感覚で動かせることだ!』
途端、上空の私にマグナが迫っていた。
「いっ!!」
慌てて回避。
しかし向こうが巨体すぎるせいで余波だけで吹き飛ばされてしまう。
すると上空から今度は、マグナが私を押しつぶすべく迫ってくる。
「ええい、“火龍の熱線”!!」
『甘い!』
私はそれに対抗するべく、十八番とも言える上位の火属性魔術を発動。
しかしそれを、マグナは正面から受けとめる!
「うっそ!」
『こいつは炎魔術に対する耐性がある!』
「厄介極まりないなあ!」
一応、マグナの勢いを押し留めることはできたので、そのまま離脱して距離を取る。
これでなんとか立て直して……と思うけど、マグナはさらに驚くべき挙動を見せた。
「決闘魔術の結界を足場にするつもり!?」
『これができんことには、空中全てを足場とする君には追いつけん!』
「追いつくなあ!」
こちとら空飛ぶのがいちばんの専売特許だっつうのに!
決闘魔術は、観客に被害が及ばないよう結界が展開されるようになっている。
それには私の熱線を正面からぶつけても壊れない強度があるわけだから、足場にしようって発想自体は変じゃない。
ただその巨体が結界を使って飛び上がるのは普通に脅威だ。
私は迫るマグナをなんとか回避しながら迎え撃つ。
かなり押し込まれているなあ。
一応、私ならギガンティックゴーレムの炎耐性を突破することは可能だ。
仮にも特級クラスを舐めてはいけない。
しかし、
「っていうかこれだと、ゴーレム突破しようとしたら
『ははは、それもまた戦略だ!』
「いうようになったなあ! 昔は卑怯な戦法とか死んでも取らないって言ってたのに!」
決闘において、超上位者……つまり特級クラスの冒険者が戦った場合。
決闘魔術の結界をぶち壊して反則負けって負け筋が発生する。
今まさに私がそうなっているように。
どうする? このままじゃジリ貧だ!
ギガンティックゴーレムのパンチを正面から受けたら、私は負け判定を喰らうだろう。
あのゴーレム、あまりにも決闘と相性が良すぎる!
「あーもー、集中力切れる! さっさと終わらせてカレーおかわりしたいな!」
『ならここで降参することだ、ミツキ』
「いやだー! ……ん、待てよ?」
カレー、で思い出した。
今回カレーに使った火蜥蜴の肉。
内部に炎の魔力を持っていて、火で炙ると勝手に燃える性質を持つ。
……火で炙られると、どうなる?
「……これだ! “灼熱の世界”!」
『ぬっ!?』
私は、ある魔術を起動する。
それは周囲の温度を急速に上げるというもの。
やろうと思えば決闘魔術の結界内の温度を
私はローブがあるから、この環境でも涼しくしていられる。
「でも……マグナはどうかな、そのゴーレムの炎耐性……」
『ぬ、う、う……!』
マグナは、まずいと思ったかなんとか私に追い縋る。
しかし機動力なら私が上、回避は容易。
結果、
「操縦者の体温にまで効果は発揮する?」
マグナは上昇し切った周囲の気温と自身の体温。
その限界に耐えきれず、動かなくなった。
これでもちゃんと死にはしないんだから、決闘魔術はすごいねえ。
なんて思いつつ、私は小さくガッツポーズをするのだった。
若干加減してますが、ミツキの戦い方は概ねこんな感じ。
頭の方を地面に向けて体を反らしながら飛行するポーズかっこいいと思うんですがどうでしょう。