異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
今となっては完全に燃え尽きてしまった私だけれど、決して最初から燃え尽きていた訳では無い。
というか、燃えようとした結果燃え尽きた燃えカスが、今の私なのだ。
私の生まれは魔術の名門と言われる貴族の長女だった。
そこで幼い頃から才能を開花させ、周囲からは期待されまくり。
これはもう魔術師として生きていくしかないじゃないか、と。
そう考えた私は発奮した。
しかし人生はそう甘くない。
私がなりたかったのは、魔術の研究者だ。
前世からオタクとして慣れ親しんだファンタジーそのものとも言える魔術という現象は、私を魅了するには十分だった。
だけどそもそも、女が研究者になることは許されないのだという。
私が魔術の研鑽を許されていたのは家が魔術の名門で、場合によっては婿を取って家の後継者を産む立場になるから。
私自身の魔術の腕に、誰も期待などしていなかった。
期待されていたのは、母体としての価値だったのだ。
その事実に打ちのめされていたある時。
家が没落した。
父が突然亡くなり、跡取りのいないうちはあっという間に周囲の食い物。
ありとあらゆるものが他の貴族に奪われて、私自身すらその対象になりかけた。
母を幼い頃に亡くしていた私に、もう屋敷を守る気力もなく。
それまで世話になった使用人たちになんとか行き先を提供してから、私は貴族の地位を捨て、逃げるように冒険者となった。
名前も前世の苗字を使ってミツキとし、異世界で少しでも変わろうとしていた私は、完全にこの世から消えてしまったのだ。
それからの生活は、大変ではあったけど余裕はあった。
見た目の良さも相まって、男からよくない目で見られることはあったものの、撃退するだけの力はある。
何より貴族の世界と違って冒険者の世界は女性だって普通に活躍できるのだ。
おかげで、変なやっかみを受けることはほとんどなかったと思う。
ただ、そんな生活を続けているうちに思ってしまったのだ。
あれ、これ以上頑張る必要なくない? と。
生活に必要な金は十分過ぎるほど得られる。
そうそう危険に晒されることのない強さも持っている。
じゃあ、これでいいじゃん。
そう思ってしまった。
前世のころは、ろくに頑張らず生きてきた。
流されるように社会人になって、仕事に呪詛を吐きながら怠惰に過ごす日々。
それを笑われることもあった。
人としてなすべきことをなしていないと、そう嘲られる事すらあったのだ。
でも、頑張った結果があの始末なんだぞ?
だったら、頑張っても頑張らなくても変わらないのだ。
だから私は、頑張らない生き方を選ぶことにした。
今のところ、そのことに対する後悔はあんまりない。
しかしふと、時折思うことがある。
父は厳しい人物ではあったけど、立派な人だった。
立派で誠実すぎて、最後には敵を作りすぎて殺されてしまったくらいには。
だからそんな父が、ただ私を母体としてしか見ていなかったのか。
確かに私はうっかり父がそのようなことを言っているのを聞いてしまったけれど、真相はもうわからない。
せめて父ときちんと向き合って話をしていれば、私の人生も変わっていたのかもしれないけれど、それはもうありえない話になってしまったのだ。
◼︎
レッサードラゴンを前に、私は悠然と構えていた。
そこはダンジョンの深層、大きく開けた空間に私とドラゴンだけがいるのだ。
互いはじっと動かない。
レッサードラゴンは明らかに私を警戒していて、私はその警戒を利用して呪文の詠唱をこっそり進めているからだ。
やろうと思えば無詠唱でもできるんだけど、一撃で仕留めるなら詠唱で精度をあげたほうがいい。
そして一介の人間でしかない私をなぜドラゴンが警戒するのか。
それは私が背中に展開している炎の翼にあるだろう。
“
だがその本質は、何よりも美しさにあるだろう。
火花が背からこぼれ落ちる。
竜のものとも不死鳥のものとも思える両翼が広げられ、その威容を示す。
ここに立つは天上のものであると高らかに叫ぶ。
そんな火の翼を背に、私は手を翳してそれを唱えた。
「“火龍の熱線“」
途端に、世界は灼熱に染め上げられる。
気がつけば、レッサードラゴンは反応すらできずそれに飲み込まれていた。
一撃。
詠唱によって威力も精度も最大まで高められた火属性魔術の頂点の一つなら、レッサードラゴンくらいなんてことはない。
この世界の魔物は倒すと消えてドロップアイテムを残す都合のいい仕様だ。
だから熱線が収まってドラゴンが消滅すると、無数のドロップアイテムを残す。
私は今回、このドロップアイテムを大層楽しみにしていた。
竜なのだから当然、すごい牙とかすごい爪とかドロップして、いい素材になると相場が決まっている。
多くの冒険者なら、それらを求めることだろう。
しかし私の場合、一番に求めるのは――肉だった。
……これも普通に、求める冒険者多そうだな。
■
私が異世界に転生して出来るようになったことの一つに、料理がある。
貴族出身なんだから料理は必要ないだろうという意見もあるかもしれないけど、当時の私はやる気に満ちていた。
そんな中で取り組んだものの一つに料理もあったわけだ。
何より、異世界の料理はそこそこ美味しいんだけど、味が物足りない場合も多い。
だからこそ、私は幼い頃から努力してあるものの開発に成功していた。
さて、今日の料理は言うまでもなくドラゴンのステーキだ。
ブロックの塊がどかんとドロップしたので、これを焼いていく。
今頃他の冒険者はギルドで活性期の稼ぎでどんちゃん騒いでいるのだろうが、私は自室にて一人でステーキ作りである。
寂しくはない、多分。
ステーキ自体は、ぶっちゃけ焼けばそれで終わりだ。
大事なのは――ステーキソース。
前世の頃から私はほとんどソースで肉を食べるような馬鹿舌だったものだから、とにかくソースの美味しさにはこだわっている。
異世界で美味しいステーキソースを作るのは難しい。
用意できるものに限りがあるからだ。
たとえばにんにくとか、玉ねぎとか。
そういうものは用意できても、みりんとか砂糖の準備に手間がかかる。
まぁでも、それに関してはいい代用素材を私は知っていた。
はちみつだ。
砂糖の代わりにもなるし、酒と合わせればみりんの代わりにもなる。
素晴らしい。
「まずは玉ねぎとにんにくをすりおろしてぇ」
慣れた手つきで、準備を進めていく。
みじん切りが終わったら次に蜂蜜酒と白ワインを鍋に入れてアルコールを飛ばす。
問題はここからだ。
この煮切った酒にはちみつやすりおろした玉ねぎ等を加えるわけだが、ここにもう一つ味が欲しい。
――そう、醤油だ。
こればっかりは、他の魚醤とかで代用することも考えたんだけど、だめだった。
日本人の信じる最強万能調味料は、やはり本来の味で楽しみたい。
そんな私の執念が、貴族時代に発揮された。
各地から素材を取り寄せ、発酵の方法を研究し、完成させたのである。
これぞ異世界チートの真髄。
まぁほぼ実家マネーなんだけど。
何にしても、私はその醤油を満を持して投入した。
その後はとろみが付くまで煮詰め、火を止めてリンゴ酢を加える。
後はいい感じに味を整えたら完成だ。
肉? ああうん、いい感じに焼いといたよ。
「んじゃあ、いただきまーす」
一人で食事をする時は、自然といただきますと口にしたくなってしまう。
醤油を使ってるからだろうか。
何にしても、出来上がったステーキを適当にナイフで切り分けて、ガブッと口に放り込んだ。
「うまあ、甘口ソースがいい感じに絡んでて……後からステーキの食感が気持ちいいー」
満足。
やはりステーキは柔らかくて美味しくて、こうじゃなくっちゃ。
ドラゴンの肉は比較的硬い肉が多いのだけど、レッサードラゴンはドラゴン力が低いのか肉の硬さもそこそこ。
私としては、非常に食べやすい肉なのである。
――貴族を辞めて、冒険者になって。
食べる料理も、好きなものを好きな時に食べられるようになった。
活かすことはそんなにないかもと思っていた料理スキルも活かせて、私としては満足度が高い。
私のメンタルは燃え尽きているけれど、それはそれとしてこういう日常の楽しみは、やはり人生に潤いを与えるのだなぁ、と思うのだった。
なお、残りのお肉はそのまま焼いて一口サイズにカット。
ギルドの方へと持ち込んで配った。
ステーキソースが美味いと評判で、私としても大満足である。
美味しそうな肉はステーキにしないと駄目ですよ。
白米はまだありません。