異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた   作:暁刀魚

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20 仮面舞踏会

 いやぁ、ポールダンスは大盛況で良かった良かった。

 なんか最後の方、皆泣いてたけど。

 シャロネは未だに冥界に旅立ったまま帰ってこないけど。

 まぁ後者はゆっくり寝かせてあげよう。

 どうせ私が耳元で「ざーこ、ざーこ」って言ったらすぐ目を覚ますし。

 

 んで、それはそれとしてシェリブロを死ぬ気でひり出してクトゥルー男爵に送って数日。

 男爵からシェリブロに関する返事とともに、ある文書が送られてきた。

 それは端的に言うと――

 

『ドノファン伯爵を追い詰めたい、協力を求む』

 

 とのことだった。

 普通だったら受けないんだけど、ドノファン伯爵は私の父の仇かもしれない人物の一人。

 シャロネからの情報提供とは関係ないけれど、男爵にも誘われたら乗るのが私だ。

 いつもお世話になってる人だしね。

 

 というわけで、今回もやってきましたクトゥルー領。

 今日は前回のインスマス村ではなく、領主が暮らす城下町、ルルイエ。

 いあ! いあ!

 なんて要素は一切なく、ごくごく普通の城下町である。

 中世によくある、大きな門で街を囲ってるタイプのでかい街。

 ささっと門から入って、兵士の案内を受けながら城へ。

 そこから今度は侍従さんにバトンタッチして案内を受けながら、領主の執務室まで私はやってきた。

 入室の許可を求めると、短く――

 

「入れ」

 

 という”少し”低い声が響いた。

 ぎいっと扉が開いて、中に入るとそこにはクトゥルー男爵が待っている。

 先程まで片付けていたらしい書類を脇に退けて、こちらを見た男爵に私は一言挨拶した。

 

「先日ぶりです、男爵夫人(バロネス)

「従者は人払いさせた……二人きりのときは、そこまでかしこまらなくていい、ミツキ」

「ごめんなさい、ちょっとカッコつけたかっただけ」

 

 ネクロノミコン・ド・クトゥルー。

 あるいは、クトゥルー男爵夫人。

 亡くなった夫の後を一時的に引き継ぎ、幼い子供が成長するまでの間領を守る一人の女性領主。

 それがクトゥルー男爵だ。

 もう三十は超えているとは思えない美貌に、足元辺りまで伸びた黒に近い紫髪。

 鋭い視線は、彼女の偏屈さを隠さずに、むしろ突き刺してくるかのようだ。

 ゆったりとしたローブは魔道具で、彼女を”魔女”足らしめる一つの象徴でもある。

 にしてもすごい名前だよな……ネクロノミコン。

 

「珍しいね、男爵から連絡してくれるなんて」

「私も普段はそこまで、君の件に意識を割いているわけではないからな。……しかしドノファン伯爵の件は捨て置けない。もともとあの男はこの国の膿の一つだ。排除できるうちに排除しておくべきだろう」

 

 男爵とは、私が没落する以前からの顔見知りだ。

 だからこそ男爵は私の書いた内容を記事にしたり、小説を載せたりしてくれる。

 といっても、男爵は真面目な人だから、内容がダメならガッツリ没を喰らうけどね。

 そして、なんで雑誌を発行するようになったかも、男爵が女性なら一発で理由はおわかりだろう。

 

「具体的にはどうするの? あの証拠一つじゃ、伯爵を追い詰められなかったんだ」

「今はまだ、やつに証拠は突きつけていない、足場を固めているところだ。今回もその一環といったところか。……何しろ、クトゥルー領は昔から海難事故が多いからな、正面から証拠を出したところで陰謀だといい出されかねん」

「ナンデカイナンジコガオオインダロウネー」

「さっぱりだ」

 

 やっぱりあるんじゃないの……本物ルルイエ!

 例のクソでかい魔力に関しては、男爵も思い当たることはないらしいけど。

 こわいよー!

 

「それで、私は今回何をすればいいの?」

「君にしか頼めないことだ」

「ほうほう」

 

 というわけで、雑談もそこそこに本題にはいる。

 男爵は、あるものを執務机から取り出す。

 それは――

 

「これをつけて、私の護衛として舞踏会に参加してほしい」

 

 豪奢なデザインの”仮面”だった。

 

 

 ■

 

 

 仮面舞踏会といえば、仮面を付けることでお互いの身分を隠して、身分の違う相手とも話ができるという建前のイベント。

 この世界でもそれは存在していて、私が仮面舞踏会に招待されるのは実はこれが初めてではない。

 単純にクトゥルー男爵に近しい人物で一番強く、護衛としてぴったりだからね。

 ただし私自身、今回みたいに父の一件と関わりのある用事でない限りは、あまり貴族社会に関わりたくない。

 なので、実際に護衛をするのは稀だ。

 これで三度目くらいだったかな? シャロネが代理を務めることもあるぞ。

 

「今回は、証拠固めのための偵察のようなものだ。だからあまり大っぴらに動くことはないし、君の正体露見は気をつけてくれ」

「私が船を引き揚げたって、ガッツリバレてるしねぇ」

 

 この仮面舞踏会の目的は、ドノファン伯爵から不正の証拠を引き出すこと。

 だけど、そのためにはちょっと危険な潜入任務が必要不可欠、そのために私が護衛としているわけだし。

 だっていうのに、そもそもドノファン伯爵の不正の証拠その一は私がギルドの依頼を受けて、記録に残る形で引き揚げている。

 一級冒険者のミツキが船を引き揚げたってことはモロバレだし、私が元貴族令嬢だっていうのも、割と知っている人間は多い。

 だからこうして仮面で顔を隠して、潜入するわけだ。

 

「というわけで、魔道具の調子はどうですかねぇ」

「問題ないのではないか? 少なくとも、周囲から気付かれている気配はない」

 

 この世界の仮面舞踏会における前世との一番の違いは、隠蔽系の魔術が使えるということ。

 おかげで完全に正体を隠して舞踏会に紛れ込むことも可能だ。

 それでセキュリティ大丈夫なの? と思うかもしれない。

 だけど光と影は表裏一体、対抗策としての魔術も結構開発されている。

 こういう場において一番簡単なのは、運営の許可した隠蔽だけを使用できる結界を展開すること。

 そして運営の許可した隠蔽は、男爵が渡してくれた仮面に付与されている。

 あの仮面は、実質的な参加券ってことだな。

 

「ところで毎回思うんだけど……」

「なんだ?」

 

 受付を終えて、ゆったりとした足取りで会場を進む。

 私は常に男爵の横に立って、彼女を守るように歩くわけだ。

 が、そんな私の今の姿を見下ろしてぽつり、とこぼす。

 

 

「――――男装する必要なくない?」

 

 

 男装である。

 ピッチリとしたスーツに、胸は晒でぎゅっと圧縮。

 髪型もきっちりまとめたポニテで男なんだか女なんだかよくわからない感じにする。

 低い背丈はシークレットブーツでニョキっと伸ばし、相当盛ってなんとか平均的な男子の背丈に近づけていた。

 今の私は、どこからどうみても男装女子である。

 男に見えているかは……正直なんとも言えない。

 この男装、魔道具を一切使ってないので見抜こうと思えば普通に見抜けるのだ。

 

「あるぞ」

「どうして」

「女性ウケがいい」

「自分で悦に入りたいだけだろー! 旦那さんに悪いと思わないのかー!?」

「あの人に操を立てているからこそ、こうして男装した君を侍らせているんだろう?」

「侍らせてるって言っちゃったよ!」

 

 周囲に聞こえないようにしながら小声で叫ぶ。

 やっぱり趣味じゃん。

 前々から思ってたけど、やっぱり趣味じゃん!

 

「見て……深淵の方の護衛……なんて素敵なのかしら……」

「深淵の方って、本当にセンスがいいですわよね……以前連れてらした少年剣士様も素敵でした……」

 

 深淵の方ってのは、この場におけるクトゥルー男爵の通り名。

 本名で呼んじゃいけない場だから、こうして通り名があるわけだ。

 意味ないとか言ってはいけない、建前って……大事。

 ……以前連れてた少年剣士って、それシャロネじゃない?

 オイ待てぇ、私にはシークレットブーツで無茶な盛り方させてるのに、シャロネはそのままなのか?

 シャロネの方が身長高いんだぞ!? それなのにそのままなのか!?

 おかしくない!?

 

「だが――悪い気はせんだろう?」

「……くっ」

 

 否定は……できない!

 男として周囲からチヤホヤされる経験って、前世を含めてもこういう時しかないから……!

 かくして、そんな私の葛藤を他所に、仮面舞踏会は幕を開けるのだった。




ここを男にすると男女比的にまずいので男爵夫人になったクトゥルー男爵です。
前話以前に男って表記はなかったはずですが、万が一あったらシャロネが服を脱いでお詫びします。
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