異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
仮面舞踏会は、静かに進行する。
穏やかな音楽のリズムで、貴族たちはダンスを優雅に踊り、一部の者達はそれぞれの話題で歓談する。
ここは無礼講の場、新しいコネクションを求めて初見の相手に声を掛ける者は多い。
中でもうちのクトゥルー男爵こと深淵の方は人気者だ。
なにせ最近話題沸騰のネクロノミコンと、それに載ってるシェリブロを管理してる人なんだから。
後、女性だからって舐められてる。
「ですから、ぜひともうちにシェリブロの本を出させてほしいのです」
「なるほど」
「つきましては、シェリブロの作者様にもお目通りを――」
「――ならぬ。彼の者は素顔を晒すのを疎んでいる。故に他者からその素顔を守る。これは彼の者と私の盟約だ」
ピシャリ。
そんな舐めてかかっている商人だったり貴族だったりを、バッサリと男爵は切り捨てていく。
まぁその作者は横に男装して立ってるんですけどね、とか内心私は思ってるけど。
多分男爵も思ってる。
「せ、せめて作者が男性なのか女性なのかだけでも教えていただきたい! どうしても気になって眠れぬ夜を過ごしてしまっているのです!」
「ならぬ! 貴様、彼の者の性別が女性であれば興奮するのであろう!」
「し、失敬な! 男性でも興奮します! ……はっ!」
「――やれ」
「はっ」
こうやって、相手の失言を引きずり出し、それをもって私が間に割ってはいる。
失言した男は、私を苦々しげに睨むものの、明らかにこの場にそぐわない発言をしたのは男の方。
私はパッと男の胸ぐらを掴むと、勢いよく足払いをして地面に倒した。
一瞬の制圧劇、周囲から少し拍手が贈られる。
「コヤツを連れて行け」
「かしこまりました」
哀れ男は会場からもつまみ出されてしまった。
なんとも男爵は狡猾だ。
……今のやり取りを狡猾と評価していいのか?
こほん。
それから、しばらくの時間が経った。
「……往くぞ」
ある程度周囲の客が捌けたところで、男爵の合図で私たちは場所を移す。
そのまま、定期的に場所を移して人を撒きながら、会場に用意された食べ物をさり気なくパクついていく。
これのために参加してるところありますからね、久々に食べる貴族の料理は大変美味でした。
やがて、完全に周囲から人の気配が無くなると、私たちは気取られぬようパーティ会場を後にした。
そのまま、お手洗いにでも行くかのような空気で、通路を闊歩。
人の居ないところまで入り込んでいく。
「この部屋でいいだろう」
「はーい」
そして、人の居ない小部屋に入って、色々と魔術を使ってから一息ついた。
お互いにそこに入るまでは緊張状態だったので、ほっと息をつく。
「ではこの後だが……」
「事前に立てた作戦通りに、だよね。解ってるって」
ドサッと部屋に置いてあるソファへ男爵が腰をおろしてから、手をかざして魔術を起動する。
それは私の視界を共有する魔術で、これと通信用の魔術をつかって男爵は私をサポートするのだ。
言うまでもないけど、男爵は凄まじい魔術の使い手だ。
研究者になろうとして、大学に入れなかったのは私と同じ経歴である。
私との違いは……愛する許婚にして旦那さんが、昔からいたことかな。
その旦那さんも、亡くなってしまったけど。
「じゃ、いってきます」
「うむ。健闘を祈る」
そうして、準備を終えた私は、こっそりと部屋を抜け出して会場の調査に移るのだった。
■
今回の目的は、ドノファン伯爵の不正を暴くこと。
この会場はドノファン伯爵が関わる派閥の人間が用意したものなので、ドノファン伯爵宛の書簡を見つけられれば僥倖だ。
といっても、出てこないなら出てこないで問題ない。
この会場の持ち主が不正に関与しているかしていないか、それでドノファン伯爵の不正の全体像が掴めるという。
詳しい事情はわからないけど、男爵が言うなら間違いないんだろう。
というわけで、今は人に見つからないよう男爵のサポートを受けつつこの会場の持ち主の執務室まで向かっているんだけど……
『待て、その先に誰かがいる』
「……ここを通らないと、執務室には向かえないんだけどな」
『無理はするな。状況だけ確認して一旦下がれ』
「りょーかい」
どうやら、執務室に向かうのは難しそうだ。
とりあえず物陰から相手の様子を確認……しようとしたところで。
「……ねぇ、アイツラも不審者なんだけど」
『何……?』
私は覗き込んだ先に、明らかに怪しい連中を見つけてしまった。
こちらも護衛の男装女子が一人で普通なら入っちゃ行けない場所に入り込んでるのでまあまあ怪しいんだけど、向こうは普通にアウトな装いをしている。
どう見ても本職シーフだ。
顔を布で覆って、マントとか羽織ってるやつ!
『…………まぁ、怪しいな』
「最悪、もっと浅いところでこいつらを見つけたってことにして、運営につきだそう。制圧するよ」
『任せた』
いやマジで、なんであんな怪しい連中――合計三人いる――が通路のど真ん中で会話してるんだ。
会話の内容は聞き取れないけど、怪しいから制圧したって言っても誰も疑わない衣装である以上、制圧しても文句は言われない。
こっちに気付かないのは……こっちの隠密が完璧すぎたんだろう。
「んじゃ――お邪魔します……っと」
私は通路の曲がり角で魔力を一気に足先へ集中させる。
直後、一歩の助走を持って角から飛び出すと、片手に火の玉を浮かべたまま高速で連中の一人に突っ込んだ。
「なっ――」
「え、あ――ぎゃあ!」
向こうはこちらの不意打ちに反応できず、一人が頭を丸焦げにされる。
一応殺しては居ないけど、覆面は完全に燃やして顔をさらけ出させた。
そのまま土手っ腹を蹴っ飛ばして行動不能に。
続けて、ようやく私に反応して懐に手を突っ込んだノロマに向けて一発。
「“炎熱の火球”!」
こちらも頭を燃やす。
「あ、あづ、あづ、ああああっ!」
「てめぇ!」
ようやくナイフを抜き放った三人目。
けど、私は視線だけを一瞥くれて三つ目の魔術を使用。
「”熱波の溶断”」
それは武器を急激に熱して溶かす魔術。
途端に抜き放ったナイフが融けて、その手のひらに真っ赤な鉄が降り注ぐ。
「ぎゃああああ!」
「ほい、最後……!」
「がっ――」
んで、融けたナイフに絶叫する男へ、顔を燃やした男の顔を掴んでぶつける。
両者の顔がすごい勢いで激突し、二人は動かなくなった。
死んでたらゴメン。
でも死んでても別に何も感じないよ、――今更だからね。
「こんなものかな」
『うむ』
一人生きていれば話を聞き出すには十分なので、最初に殺さないよう加減して制圧した男に意識を向ける。
どうやら意識はまだあるようで、腹を抱えてうずくまっていた。
骨は何本か逝ってそうだな。
「おーい、話せるかー」
「てめぇ……なにもっ!」
「はいストップ、叫ばない叫ばない。命が惜しかったら情報だけ吐き出してね」
まぁ、この世界は倫理観がファンタジーなので、ここで生き残っても別の場所で処刑される可能性は高いけど。
命は軽いものだ。
それからいい感じに暴力をちらつかせつつ男から情報を集めることしばし。
私は本題に切り込む。
「で、君たちの目的は? 私と一緒かな? 金品かな?」
「――俺達の……目的は」
男は痛みに悶えながら、ぽつりとこぼす。
「……この場所を、地獄に変えることだ。魔物を召喚して……な!」
直後、パーティ会場の方で地響きと悲鳴が轟いた。
ええっと、それってつまり……テロだ!?
うわああああ、学校にテロリストが襲撃してくるタイプのイベントだあああ!
……まあ、ファンタジー世界なら……結構起こるか、こういうの(スン)。
かっこよく足技使ったり、かっこよく賊を制圧する男装女子を書きたかっただけの話
異世界転生して相当時間立ってるので、殺人に忌避感とかはない感じがちょっとおっかなくて好きです。