異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
「どうする、男爵!」
『何、むしろ都合が良い。別件で暴れている連中のおかげで、こちらが自由に動ける」
私の問いかけに、クトゥルー男爵は冷静だった。
むしろどこか愉快そうに、パーティ会場の阿鼻叫喚へ意識を向けている。
『元々、今回の舞踏会で我々は警戒される立場にあった。こいつらがいなければ大胆な調査は難しかっただろう』
「つまり、こいつらが騒ぎになってなかったら、無駄骨の可能性が高かったわけだ!」
『そういうことだな。美味いものだけたらふく食って、多少のコネを築いて帰っていたわけだ』
「健全!」
普通に仮面舞踏会満喫してるじゃんね!
実際美味しかったものね、食事。
それだけでも来たかいがあったってものだ。
とはいえ、今はそうも言ってられなくなったけど。
『ミツキ、パーティ会場には君が向かってくれ』
「魔物を制圧しろってこと?」
『そういうことだ。ドノファン伯爵の調査は私が行う』
「りょーかい。……しかしなんだって、こんなそこまで重要でもない舞踏会で、無茶な魔物召喚なんてやらかすかね」
『さてな、制圧してから吐かせればいいだろう』
まぁ、今気にしている暇はないか。
私は拘束用に魔術を一つ起動する。
それは対象の周囲に炎の輪っかを展開するもので、対象を物理的に束縛すると同時、もし仮に暴れようものなら火が対象を燃やすという物騒な代物だ。
炎属性の拘束魔術としては、非常に便利な魔術であった。
『ああそれと、一つ』
「ん、どうしたの?」
『もしも――』
最後に、男爵から一つアドバイスを受けつつ、私は急いで拘束した野郎どもを担ぎながら会場へ向かうのだった。
■
会場はそれはもう酷い有様だった。
アレだけあった食事はあちこちに散乱し、おえらいさん方は逃げ惑っている。
皆さん色々と護衛は連れ込んでいるので、そいつらが対抗して何とか致命的な状況には至っていないが、それでもかなり状況は厄介に違いない。
魔物は小型のものが複数と、大型が一匹。
どれも悪魔タイプの魔物で、大型魔物がボスだろう。
悪魔ってこう、背中にコウモリの羽が生えてて人型でハゲてるやつね。
ボスだけはヤギっぽい雰囲気も在る。
名前なんてったっけなー、こいつら。
まぁいいや。
「”炎熱の火球”!」
熱が熱いみたいな名前の汎用炎魔術を、会場全体に叩き込む。
誤射ると首が飛びかねないお歴々が多いものの、私の操作技術なら問題はない。
各所で発生している戦闘のうち、対処が間に合ってなさそうなところを重点的に狙っておいた。
対処できそうな連中は勝手にやっておいてほしいもんね!
「なんだ!?」
「助太刀いたします……よ!」
私はそのまま火球を構えて、ボス魔物に突っ込む。
それまで、派手に会場を破壊して回っていたボス魔物の顔面に、火の玉を叩きつける――が。
『オオオオッ!』
「ぜーんぜん効いてないな」
流石に魔術の威力が弱すぎた。
魔力注ぎ込めば威力はでるんだけども、周辺被害を考えるとやりたくない。
そもそも閉所で魔術戦って、被害が出まくるからやーなんだよなぁ。
「なんだ、あいつは!」
「たしか……深淵の方の護衛ですわ!」
「あの魔物に単独で挑むつもりか? 無茶だぞ!」
魔物の推定戦力は、一級冒険者が一人……いや二人くらい必要なくらい。
一級の中でも上位のシャロネやマグナなら、全力でやれば普通に倒せるかな。
これも、周辺被害を考えなければ……の話だけど。
魔物は、一切その場を動くつもりがなさそうだった。
自分がここにいることが、私に対する一番の嫌がらせと理解してるんだろう。
術者がそう指示したのか、単に知能が高いのか。
まあどっちでもいいか。
『オオオオオオッ!』
「かかってきなさい!」
そこからは、近接戦でボス魔物に対抗する。
魔力による身体強化と、多少齧った護身術を使っての割と無茶な戦い方だ。
ボス魔物は両腕で私をガンガン殴りつけてくる、それを炎を纏った拳で弾いていく。
途中、口からビームかなにかを放ちそうだったので、そのタイミングだけ足で顎を下から蹴り上げた。
そんな感じで、なんとか攻撃を捌きながら隙を伺う。
「……全然ないな、隙!」
しかし向こうも、中々の強さだ。
理想はこのまま近接戦で、なんとか隙を見計らってゼロ距離熱線を叩き込み勝利すること。
被害が出そうな大型魔術も、ゼロ距離で他を巻き込まない位置から放てば問題ない。
それでできるなら、の話だけど。
こいつは……私の近接戦技術じゃ無理だな!
とはいえ、やりようはある。
「まーずは時間稼ぎ……っと」
クトゥルー男爵のアドバイスに従って、ここは一旦時間稼ぎに徹する。
狙いは二つあって、一つは雑魚魔物の掃討。
私が危うい場所に救援を行ったことで、全体的に他の護衛たちが立て直しつつあるのだ。
後数分も戦えば、雑魚はさっくり討伐されることだろう。
「深淵の方の護衛……あの魔物相手に食らいついている……何者だ?」
「正体までは察せられませんが……相当な使い手かと」
なんて、余裕のある戦場からこちらを観察する声が聞こえてくる。
余裕あるならさっさと雑魚は始末して、他をなんとかしてほしいなぁ!
とはいえ、こっちもこのまま行けば問題なく時間を稼げるんだけど。
『オオオオオッ! オオオオオオオオオオオオッ!』
「いや、無理そうだなこれは!」
焦れたのか、ボス魔物の動きに変化があった。
両手両足、背中、各所から光があふれる。
魔力の奔流だ。
すなわち、全力を出すためのモーションってところ。
慌てて私は、ボス魔物に突っ込んで火球を叩きつける。
「止まれ!」
『オオオオオッ!』
火球が爆発。
周囲に被害を出さない程度に燃え上がって、私と魔物を包んだ。
それを見ていた連中が「やったか」とかフラグを立てている最中、炎を振り払って魔物が中から現れる。
――無傷だ。
「そんな! アレだけの攻撃を受けて!?」
いや、アレ全然威力なかったですけどね。
魔物にぶつけて、驚いて止まってくれないかなーという手品みたいな魔術。
ちなみに、それで驚いたのは雑魚魔物。
ボスの方を見て動きが止まり、そこを冷静に対処した護衛たちによって処理されていた。
これで残るは、ボス一匹。
『オオオオッ!』
火はまだ燃え盛っている。
ボスは再び暴れだしそうだ。
そんな中、火柱の中からあるものがこぼれ落ちた。
――私のマスクである。
直後、灼緋の天翼を展開し、私が炎の中から飛び出した!
「なっ、あれは――」
「”灼緋の天翼”!?」
「まさか――!」
貴族の人たちは合いの手がお上手だ。
頭を地上に向けて体を反転させた状態で、暴れだしそうな魔物を睨む私の名前を、高らかに叫ぶ。
「不死の竜姫!」
『オオオオオッ!』
直後、動き出す魔物。
私もまた先程とは比べ物にならない速度で接近、地面に拳を叩きつけようとした魔物の拳を、一方的に弾き飛ばす。
『ッ!?』
驚愕。
先程まで、そんなパワーでていなかっただろう、といいたげな顔。
私はニィっと笑ってから、続けざまにケリを叩き込む。
灼緋の天翼は空を飛ぶだけでなく、本気を出せばこのようにただの身体強化では到底及ばないような出力強化も望める。
更には身体操作の精密性すら向上し、ちょっと武術を齧っただけの私ですら、正面から前衛のマグナと打ち合えるほどになるのだ。
この程度の魔物では、到底私には及ばない。
そのまま一気に魔物を追い詰めると、ゼロ距離で――
「”火竜の熱線”!」
もう一つの十八番である熱線を叩きつけ――魔物は、一瞬のうちに消し飛んだ。
■
さて、盛大に正体バレをかましたわけだけど、果たして本当にやってよかったのか、って話。
これに関しては全く問題ない。
どころか、機を見て正体をさらせ、というのが男爵のアドバイス。
私が魔物を討伐した後、貴族たちは私に拍手を送った。
でもその後、どうして私が男爵の護衛をしているのかと、疑問に思うものも出てくる。
ちょうどそのタイミングで、男爵が会場に戻ってきた。
「――ご苦労だった、ミツキ。下手人の捕縛はこちらで済ませておいたぞ」
――と。
男爵はドノファン伯爵の不正に関する資料を集めた後、今回の下手人を捕まえたのである。
あの三人組だ。
術者である黒幕は、この魔物を召喚する媒介となっていたので、魔物が倒された今、私の目の前で倒れている。
んで、そいつを捕縛した後は自分たちが一時的に会場から離れていた理由を「こいつらを捕まえるため」と嘯き、間に合わなかったことを謝罪してみせた。
幸いにもおえらいさんに致命的な被害はでていなかったようで、男爵は喝采を集める。
これじゃあ、いくらドノファン派閥が男爵を警戒していても、それを確かめることなんて場の空気が許さない。
かくして男爵は、うまい具合に発生した襲撃を利用して、情報を手にするのだった。
しかし、あまりにも偶然の襲撃である。
これから男爵が捕まえた連中を尋問して、裏で糸引く連中をあぶり出すそうだけど。
なーんか、変なことが起きそうな予感……!
やったーかっこいい!
みたいなお話。
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