異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
仮面舞踏会が終了し、ドノファン伯爵関連のあれやこれやはこの後クトゥルー男爵が調査するとのこと。
まぁしばらく時間はかかるだろうから、ゆっくり腰を落ち着けて待てって話だ。
私としてもそんな連続で事件に巻き込まれたくないので、その方が助かる。
特に急ぎの案件でなければ、次の報告は一ヶ月後にするということだった。
要するにこれ、シェリブロの原稿の返事です。
果たして私は一ヶ月後にシェリブロの原稿をクトゥルー男爵に送れるのか!
……わからん。
というわけで帰路についた私。
天翼で空をのんびりと飛行していた。
朝の白んだ空と、肌寒い空の気温を温める一筋の光と背中の天翼。
吹き付ける風は天翼の効果でカット、なんだかそのまま寝落ちしてしまいそうな心地よさである。
しかしそんな長閑な空気を、あるものが切り裂いた。
殺意だ。
こんな場所で!? そんな疑問はもっともだが、こんな場所だからこそ襲いかかる殺意というものも存在する。
幸い向けられた殺意は本気ではない。
きっと、一種の挨拶代わりなんだろう。
まあぶっちゃけ、私としては本気の殺意の方がマシなんだけどね。
要するに魔物だから、倒せば終わる。
でも本気じゃないということは、この殺意には
どう考えても、後処理はこっちのが面倒である。
とはいえ目をつけられてしまった以上は仕方がない。
私は即座に詠唱を開始。
“それ”が襲い掛かる直前、私もまた“それ”に向けて殺意と魔術をお返しした!
「”火龍の熱線“!」
「“破滅の天球”ッ!!」
それは、破壊と破壊のぶつかり合いだった。
天を覆うほどの極大球体、溢れんばかりの魔力が渦巻いて、破滅的な光景を生み出す魔術。
それが隕石のように降ってくるというとんでもない代物で、火龍の熱線で対抗するなら詠唱による強化は必須。
そもそも上位魔術を無詠唱で連打してんじゃねえって一部からは言われるけど、それを言ったらこの天球だって無詠唱だ。
やがて、二つの極限とも言える魔術のぶつかり合いは、私の熱線が天球を突き破って終わった。
なんとかなった……と思いつつ空を見上げる。
そこに今回の不意打ちの下手人はいた。
「おみごとお」
パン、パンと手を叩く音がして、遠くにある一つの影が目に入る。
幼い少女のようだった。
十かそこらの体躯、身長よりも長い髪。
張り付いた笑顔は凶暴を形にしたかのようだ。
衣服は、大胆に着崩したドレスというかなんというか。
完全に肩を露出している。
だが、何よりも異質なのは、その体が光でできているということか。
うっすらと発光する青い光の少女。
当然ながら人間ではない。
「ひっさしぶりだねぇ、ミツキちゃあん」
「できれば会いたくなかったね、セイレーン」
名はセイレーン。
名は体を表すというかなんというか、精霊と呼ばれる種族である。
そして何より、この世界における“生ける厄災”とも言える連中の一人。
「相変わらずだなあ、特級冒険者は」
「ミツキちゃんだって特級冒険者のお誘い来てるくせにー!」
「私はセイレーンみたいな強制執行と違って、断れるんだよ!」
特級冒険者。
それは主に二つの方法でなることができる。
一つは功績が一定以上溜まったことでの正規に昇格。
こっちは辞退できる、私は当然ながら正規の方だ。
もう一つは強制執行。
あるいは嘆願。
頼むから特級冒険者の地位を与えますので、おとなしくしていてくださいという昇格理由。
どっちの昇格でも、特級であることには変わらない。
ただまあ、強制執行の対象になるイカれポンチどもは、なぜかそのことを自慢げに言いふらすのだ。
「でもでも、今回の魔術は良かったでしょ! ミツキちゃんの本気熱線と対等に渡り合ったんだから!」
「ああうん、そうだねすごいね」
「私ねえ、はやく世界を壊せるくらいすっごい魔術を使えるようになるんだあ! きっとどっかーんってすっごく綺麗だよ!」
「全くわかんないな」
アホの方の特級は、とにかく人とずれていることが多い。
セイレーンの場合は、まだこれでもいい方だ。
「だって私は破壊の精霊なんだもの! うふふ、見ててね主様! きっとそのお役目、ちゃんと果たして見せるから!」
精霊ってのは、この世界を作った神が、一つの現象に自我を与えた存在と言われている。
火の精霊とか水の精霊とか、精霊一体一体に司るものがあって、その司るものによって性質も性格も大きく影響を受けるのだ。
だから破壊の精霊であるセイレーンにとって、これはあくまで本人の生態。
そういうものだからそうしているにすぎない。
人間なのにこれよりイカれてる連中と比べると、危険度は下がる。
話を聞く姿勢は見せるし、上手く説得すればいうことも聞いてくれるから。
まあ、さっきみたいに私へ高位の魔術を突然ブッパしてくる時もあるけど。
「言っておくけど、それを私以外にやっちゃダメだよ!」
「わかってるってー! でも他の特級の人はミツキちゃんみたいに嫌がらないし、むしろ喜んでくれるよ?」
「その方が問題だよ! あいつらが喜ぶようなことをしてみなよ、世界を破壊するどころじゃなくなっちゃうかもしれない! いつも言ってるでしょ。あいつらのことだから、世界そのものに自動再生の魔術をかけちゃうかも」
「うっ、それはやだあ。私の存在意義がなくなるう」
なお、セイレーンが魔術をブッパするのは私だけだ。
というか、色々あって私だけにブッパするようになった。
なんでかっていうと、非常に単純。
「ところで、あのね?」
「なにかなー」
聞き返しはするけれど、ほぼ答えのわかっている言葉の続きを待つ。
「よしよししてぇ、
まぁ、はい。
私のことをママと呼ぶくらい、セイレーンがなついてるからだ。
「ままぁ、ままぁ」
「はー、まったくもー、困った子だなあ」
なんか知らないけど、セイレーンは私を自身を作った創造主と同一視しているらしい。
結果がこれだ。
年下に好かれる体質もここまで来たか、と思わなくもないけど、セイレーンは見た目は子供でも年齢は私の十倍以上である。
精神が発達してないなら年下扱いしてもいいだろって意見もあるかもしれないが、ママ扱いはむず痒い。
「えとね、えとね、せいれーん、すっごくがんばったの! ぎゅーってして欲しいの!」
「しょうがないな……」
そして私に甘えると、さらに精神年齢が幼くなるセイレーン。
一人称も「せいれーん」になってますます手がつけられなくなる。
そんな面倒な状況、私ならさっさと逃げ出すかと思えば、実はそうではない。
だって甘えん坊モードに入ってる時の方が圧倒的にセイレーンはいい子だから。
むやみやたらと破壊しようとしないし、私がダメっていえばちゃんと聞いてくれる。
甘えん坊モードの時に言い聞かせたことは、ちゃんと通常時もある程度は守ってくれるので、甘えさせ得ってわけ。
「そういえば、シャロネおねえちゃんは?」
「あの子は……遠くに行ったよ」
なお、近くにシャロネがいない場合に限る。
だってシャロネが近くにいるとシャロネも幼児退行を起こすから!
しかも露骨に乳尻太ももを狙ってくる。
すけべ犯罪者め! 私以外にやったらお縄だって理解しなよ!
「はー、その点セイレーンは甘えてくるだけだからなあ。いい子に育っててえらいぞー」
「まま、まま、きゃっきゃ」
それはそれとして、一体どうしてこうなったやら。
元はと言えば、討伐対象だったセイレーンを、偶然通りかかった私がなんとか宥めて特級冒険者になってもらったのが始まりだっけ。
いやほんと、当時は大変だったなあ。
きゃっきゃっ(お気に入り6000件ありがとうございますの意)