異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
セイレーンがミツキと出会ったのは、今から数年ほど前のことだ。
ミツキがまだ冒険者になったばかりで、当時のミツキはまだ一級冒険者ではなかった。
当然、特級並の実力であると周囲に認識されていないし、不死の竜姫なんて呼ばれていない。
だからセイレーンは初めてミツキを目にした時、ミツキを一人の個人とは認識していなかったのである。
かつてのセイレーンは傲慢だった。
人ならざる存在であり、人より優れた力があったから仕方のないことでは在る。
何より破壊という概念は、世界を蹂躙し、足蹴にすることで成立する概念である……と、当時のセイレーンは本気で考えていたのだ。
なにせセイレーンの上位存在とも言える破滅竜は、かつて国一つを滅ぼし大陸そのものも滅ぼしかけたらしいし。
そんなセイレーンは、あることに興味津々だった。
結果、ファニハナの街にやってきたセイレーンはある宣言をしたのである。
「この町で一番強い女の子を
セイレーンは考えていた。
人に限らず、生物は番というものを作るらしい。
それは雄が雌を支配して子を産ませ、自分の血を後世に残すための契約関係のようだ。
つまり、人々を破壊による恐怖で支配する自分は雄、なら自分も雌を捕まえて破壊で支配しないといけないのではないか。
そんな思考である。
本来ならそんなことをすれば、セイレーンは討伐対象となるはずだった。
もとより無差別にあちこちの地形を破壊していく面倒な輩だったのである。
人に目立った被害が出ていなかったから、対象になっていなかっただけで。
セイレーンはそれまでずっと人のいない場所ばかり破壊していた。
というのも,景色が綺麗な場所を破壊した方が気持ちいいからだ。
結果として偶然にも今までセイレーンは面倒だが討伐に必要なコストの方が高いと判断されていたのである。
しかし、ある時ふと生命に興味を持ち、こうして人にちょっかいをかけ始めた以上。
セイレーンはどこかで邪魔な存在とみなされ倒されていただろう。
その第一歩で無様に敗北していなければ。
負けました。
自分でもよくわからないうちに一方的に蹂躙され、気がついたら床ぺろしてました。
それを為したのがミツキである。
後に不死の竜姫として知られるようになる少女の、それは最初の武勇伝だった。
セイレーン困った。
玩具を探しにきたのに、自分が負けてしまうなんて。
というか、ちょっと訳わからない勢いでボコボコにされた。
普段のミツキは相当加減しているのだ。
もし本気で戦うとなったら無詠唱の火龍の熱線を同時に十発以上発射できる上に連射もできる。
まずセイレーンは必殺技である破滅の天球を撃つことすら許してもらえなかった。
なんとか放った普通の魔術は、上位の炎魔術である火龍の熱線に叶うはずもない。
そうして一方的にボロクソにわからされたセイレーンは、ミツキの
まあミツキは断固として拒否したが。
それでも、セイレーンはミツキに付き従った。
完全に心が折れていたのである。
この人に己の尊厳を全て捧げて、忠誠を誓うのが正しいことなのだと刷り込まれた。
シャロネに。
そうしてミツキと共にいるうちに、セイレーンにも変化が訪れる。
ミツキはセイレーンに、何も求めなかったのだ。
自身を捧げることも、死を以てこの契約を終わらせることも。
もっといえば、セイレーンの行動に干渉することもなかった。
セイレーンはミツキにこそ忠誠を誓っていたし、シャロネには継続的に洗脳を施されてはいたけれど、他の人間に対する傲慢さまでは変わらない。
時折、周囲と口論になったりすることもあったが、それをミツキは叱らなかった。
無論、あまりに致命的な衝突、死を招きかねないものなら止めていただろう。
でもそうでないなら、セイレーンの自由であるとして干渉しなかったのである。
シャロネの方は定期的に躾けられていたので、いっそセイレーンはシャロネが羨ましかったくらいだ。
こうなってくると、セイレーンもミツキを勝手にそうなった番という関係ではなく、一個人としてみるようになる。
そこからは、いつものアレだ。
ミツキは年下キラーであり、セイレーンは実年齢はともかく精神年齢はお子様。
気がつけばセイレーンはミツキをママと呼ぶようになっていた。
それは飛びすぎ。
シャロネですらどうしてそうなった? と一瞬考えてしまうくらい飛びすぎである。
三割くらいはシャロネの洗脳のせいだとミツキはシャロネにアイアンクローを決めた。
人のことを言えた義理ではないが、シャロネは幸せそうなので問題はないのだろう。
そうしてセイレーンが依存し切ったところで、ようやくミツキは本腰を入れ始めた。
幼児退行したセイレーンが、ミツキの話を聞くようになったと判明したからだ。
今までのセイレーンは全く人の話を聞こうとしていなかった。
ミツキのおよめさんになるというのも、セイレーンが勝手に言い出したことだし、ミツキが止めてと言っても止めなかったのである。
なのでミツキも、致命的な何かがなければそのまま放置することにしていたのだ。
そこに交渉の余地が生まれたなら、流石のミツキも重い腰を上げざるを得ない。
これまでの付き合いで、多少なりとも情が湧いていたからだ。
そうやって鬱陶しそうにしてるのに実際には情をかけるムーブが犯罪なんですよ、と内心シャロネは思ったが黙っていた。
かくしてミツキは、幼児退行中のセイレーンに根気強く言い聞かせた。
自分と悪党以外を襲ってはいけない。
破壊していいのは、悪党だけ。
普通の人を殺さない。
人の大切なものは壊さない。
何かわからないことがあればミツキに聞くこと。
そんなことをこんこんとミツキは教え込んで行った。
誰もが思うだろう、ミツキはとても良い母親である、と。
実際これのおかげでセイレーンは最低限の倫理観を手に入れ、討伐対象から特級冒険者という隔離監視対象へと成長した。
始まりを思えば、あまりに大きな成長だ。
なおシャロネは、これお姉様の方がエグい洗脳してませんか? と内心思ったものの口をつぐんだ。
それから数年、セイレーンはミツキの手を離れて一人で活動している。
破壊するのはもっぱら悪党だけ。
無論、世界を破壊することも諦めたわけではない。
ただ世界を破壊する以前に、ミツキに勝てないことには世界を破壊できないと考えているのだ。
だからこそ悪党を破壊しながら、ミツキを破壊できるくらい強くなろうとしているのが、今のセイレーン。
なおこれは余談なのだが、今から数日ほど前、セイレーンはある悪の組織を破壊した。
それはプロミア王国の国家転覆を狙う組織で、長年地下に潜り続けて準備してきた連中だ。
セイレーンも、それを見つけたのはほんの偶然。
連中が何故か慌てていたから破壊できたにすぎない。
ではなぜ慌てていたのか?
それは、彼らが長年準備を続けてきた計画が全部ご破算になったからだ。
本来なら、それは始まりにすぎないはずだった。
無理そうならそこで諦めるし、行けそうなら計画を動かす。
そのくらいの温度感だった。
しかしそれを判断するはずの斥候が何者かに襲われて消息を断ち、混乱した現場は計画を決行。
ただそれでも、本来なら目的である貴族を複数人人質に取る作戦は成功するはずだった。
何せ事前に彼らが集めた情報に、これから召喚する魔物を倒せる人間はあの場にいないはずだった。
なんで場末の仮面舞踏会に不死の竜姫が男装で正体を隠して紛れ込んでるんですか、どうして……
せめて男装して性別を偽っていなかったら、まだ不死の竜姫がいると判断できたかもしれない。
しかもそれは後の祭り、結局計画ご破算により組織は焦り、痕跡を残してしまった。
そこをセイレーンがどっかーん!
かくして、例の仮面舞踏会で暗躍していたミツキ達とは無関係の連中は、最後まで無関係のままひっそりと壊滅した。
何か起きそうなミツキの予感が空振りに終わったことを知るものは、もうこの世には存在していない。
何か起きそう(起きなかった)
後はだいたいタイトルのとおりです。