異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた   作:暁刀魚

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25 燃え尽きママASMR

 よーしよしよし、と空中でセイレーンをあやす私。

 なんだこれ……

 セイレーンは人ではない魔力の塊なので、赤ちゃんプレイを始めると縮む。

 

「きゃっきゃっきゃ! だーだー!」

「ついに人の言葉すら話せなくなってしまった……」

 

 今のセイレーンは、完全に赤ん坊の姿になっていた。

 なお、この間もフェニハナに向かって移動中である。

 とはいえ、今日はフェニハナじゃなくてサンフラで一泊しようかなあ。

 この状態でシャロネに見つかると、シャロネまで赤ん坊プレイを所望してくるのだ。

 まあ相手にはしないんだけど、我が家の床にみっともない塊が一日居座ることになる。

 それだったらサンフラでセイレーンが落ち着くのを待った方がいいのは自明の理。

 ついでにラスルくんのお店にも寄って美味しいものを食べよう。

 

『それだけはマジで、ほんっっっっっっっっとうにマジでやめてくださいお姉様!』

「念波!!!?」

 

 唐突に脳裏へ響くシャロネの声。

 いや幻聴なんだけど。

 そんなに!? そんなにダメかな!? ちょっと赤ん坊になったセイレーン連れてくだけだよ!?

 

『ダメです』

 

 ダメかぁ。

 まぁ、経験上脳内シャロネには従っておいた方が無難なので、諦めてフェニハナへ直接向かう。

 くそー、美味しいもの食べてやる!

 

 

 ◼︎

 

 

 というわけで、自宅に帰ってきた。

 帰ってきた頃には、すっかり夜である。

 美味しいものを食べるという、一仕事終えた後の贅沢がおじゃんになった腹いせに家で料理を作るのだ。

 

「はっ、破滅の精霊としての本懐を遂げ損ねた気がするー」

「え、何そんなヤバそうなことが起きかけてたの? こわー」

「絶対ママのせいー」

「そんなバカな」

 

 若干正気に戻ったセイレーンが、五歳くらいの姿で私の家のテーブルに鎮座している。

 これのおかげでシャロネはママあじとかいうものを感じ取って、家にやってくることはなかったのが僥倖だった。

 あじ派はバカだな……

 

「というわけで、なんか美味しいものを作るよう」

「しちゅー! せいれーんね、しちゅー食べたーい!」

「ほう、シチュー。いいね。私最近結構カレー食べること多かったから、仮にカレーって言ってたら無視するところだったよ」

「ママってたまに人の心ないよね」

 

 勝手に人をママ認定しておぎゃってくる相手にかける情けがないだけだよ、失礼な。

 なんにせよ、そうと決まったらシチューを作ろう。

 明日の朝はスパゲッティにでもするかなぁ。

 

「よーしやるべ」

「きゃっきゃっ」

 

 シチューのいいところは、概ね異世界でも手に入る材料で前世とそう変わらないものが作れるところだ。

 野菜、肉、ミルク、他。

 素材そのものの美味しさって点ではどうしても品種改良が進んだ未来には敵わないけど、それ以外はほぼ遜色なく作ることが出来る。

 素材を切って下ごしらえをして、煮て、小麦粉とかを投入してからミルクをどばーっ。

 これでだいたいシチューらしいシチューになるから素晴らしい。

 

「というわけでできたぞー……っと」

「きゃっきゃっ」

「さっきからきゃっきゃっ、としか言わないなこの子……」

「きゃっきゃっ」

 

 まぁいいや。

 お皿に用意したシチューを盛り付けて、パンと一緒に出す。

 ご飯があればねぇ、これをドリアに出来るんだけどねぇ。

 かといって探しに行くのは面倒くさい、気が向いたらでいいや。

 そんな燃え尽き女のそこそこ凝った夕飯がこれである。

 

「んー、うまい」

「ママ、これチーズ入ってる! とろとろ! おいしい!」

「でしょう、チーズはとりあえず入れとけば幸せになれる素敵食材だからな」

 

 自作しないと手に入らない醤油と違って、チーズは一般で売ってるからマジで万能食材だ。

 チーズ単体でつまんでも美味しい。

 というわけで、二人でパンをシチューに浸しつつ平らげる。

 手持ちの食材で一番いいやつを使ったし、下ごしらえに普段使わない胡椒とか使ったからマジで美味しかった。

 料理は素材が命だよ。

 

「おいしかったぁ」

「はい、ありがとね」

「……えとね、あのね、ままぁ」

 

 と、食事を終えたところでセイレーンが席を立って、とてとてとこちらに寄ってくる。

 ――嫌な予感。

 なんかこう、おぎゃりの中に欲望が見える。

 

 

「あのねあのね、ママのお声を聞いてるとね、ゾクゾクってしちゃうの。だから耳元でざーこざーこって囁いてほしいんだ」

 

 

 欲望っていうか……性欲だこれ。

 ざーこざーこ、じゃないんだよ。

 なんでメスガキ煽りなんだよぉ!

 

「いやどす」

「それとねそれとね、これに声を録音してほしいの」

「人の話を聞けい……ってこれ、録音の魔道具? 珍しいものもってるじゃん」

「拾ったの!」

 

 ……なんかどっかの悪党を成敗してきたのかな。

 録音の魔道具――正式名称なんだったかな――は、オルゴールみたいな形をした魔道具で、中に音を記録しておける代物だ。

 中々ダンジョンから出てこないレア物なので、持っている人は少ない。

 私も手元にはなかったかな。

 前にどっかで見たことはあるんだけど。

 

「これでママの声を聞きながら寝たら……すっごく寝れる気がする!」

「うおお……」

 

 ASMRだ!?

 

「せいれーんね……たまに何にもできなくなっちゃうんだ……世界を壊そう壊そうって考えてると、疲れちゃうの」

「そんな限界精霊みたいな……」

 

 精霊は自分の持つ性質に引っ張られる人外だが、同時に知性を持つ存在だ。

 故に、その性質が倫理的に間違っていることだと、性質に引っ張られることをストレスに感じるらしい。

 対処法は完全に性質に引っ張られて思考を停止するか、定期的にメンタルケアをするか。

 以前のセイレーンは前者だったが、現在のセイレーンは私が色々吹き込んだことで後者である。

 とすると……セイレーンが限界精霊になってるのは、私にも責任があるだろう。

 

「……他の人にその魔道具貸したりしないよね? シャロネとかに貸したらシャロネを殺して私も死ななきゃいけないんだ」

「こわ……でもシャロネおねえちゃんだもんね……でも大丈夫だよ、鍵をかけれるから……」

 

 どうやら、パスワードを設定できるらしく、そのワードを口にしないと魔道具は使えないらしい。

 それならまぁ……安心かな。

 

「よしわかった。そういうことなら、録音してあげる。加えて念をおしておくけど、他の人に聞かせちゃだめだよ」

「うん……せいれーんも聞かせたくない……」

「りょーかい。じゃあ、ちょっと恥ずかしいから向こうで録音してくるね」

 

 というわけで、早速別室で録音することに。

 覗こうとしたらどうなるかはちゃんと理解しているらしく、覗いたりはしてこなかった。

 シャロネなら覗く、そして死ぬ。

 

「にしても、ASMRかぁ。前世だと結構聞いてたけど、流石に殆ど覚えてないなぁ」

 

 前世は生きるのに疲れた社畜をしていたものだから、ASMRには随分お世話になったものだ。

 だからなんとなーく、テンプレみたいなものはわかる。

 それをどーにかこーにか思い出して、色々と詰め込んでみた。

 だいぶ我流なところはあるし、適当なところもあるけれど、代わりに聞かせる相手はセイレーンだけ。

 セイレーンの好きそうな内容を意識して、それを形にしていく。

 やる気は基本的にないけれど、やる気になってしまえばそこそこ行動力があるのが私だ。

 最終的にがっつり時間をかけて録音し、中々のものが出来上がったと思う。 

 早速それをセイレーンに渡したんだけど――

 

 翌日。

 

「あのー、セイレーン?」

「あひぇ……」

「大丈夫ー? 返事してー?」

「んへぇ……」

 

 セイレーンは、完全に正気を失っていた。

 恍惚とした表情で、他人に見せちゃ行けない顔をしている。

 ええと、なんというか……私、ちょっとお出ししちゃ行けないレベルのオーパーツ……作っちゃいました!?




こいついつも犯罪してんな
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