異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
昔の夢を見た。
今の生における父は厳格で、私に様々な教育を施した。
それは苛烈としか言いようのないもので、端から見れば父はひどい人に見えたかもしれない。
でも、私にとって父のその厳しさが、一つの救いだったのだ。
前世は母しかいない片親で、その母は私を愛してはいなかった。
学校でも居場所がなく、なんとか社会に出ても幼い頃から醸成されてしまった「どうせ自分が頑張っても誰も認めてくれない」という意識は変わらず、私を死ぬまで蝕んだのである。
だから、たとえそれがどれだけ厳しい態度だったとしても、私を見てくれて期待してくれる父は私の救いだったのだ。
――そんな父が、いつしか私に叱責を飛ばさなくなった。
よくやった、とか。
そうか、とだけ返すようになったのだ。
嬉しかった、私が認められているようで。
だからなおのこと勉強に励んだし、少しでも自分を高めようと努力し続けた。
そのせいで倒れてシャロネに迷惑をかけてしまったこともあるけれど、私はこの努力が正しいものだと信じていたんだ。
だからこそ、私は未だに父のことがわからない。
父様、どうして貴方はあの時、あんなことを言ったのですか?
『娘に当主の座を継がせるつもりはない』
なんて。
私は、何かを間違えてしまったのだろうか。
父の感情を期待と勘違いして空回りして、今度こそ上手くやれると――やり直せると思い込んだ。
もう父はこの世にいないから、その答えを知るすべはどこにもない。
少なくとも――私が燃え尽きた今となっては、多分、知る機会は二度と訪れないのではないかと、そう思う。
■
その日はとんでもなくだるかった。
なので、今日一日は何もしないと決めたのだ。
しかしかといって、布団の中に籠っているだけでは、あまりにも退屈で仕方がない。
こういう時は本を読むか、適当に何処かで食事をするかの二択。
ただ、シェリブロの締め切りが迫ってきている現状で、インプットはしている場合じゃない。
気分転換がてら、話のネタをひり出すべく重い体に鞭打って、外をぶらつくことにした。
風邪とかではないから、移す心配はないしね。
「あ、ミツキさんだ。……なんか光ってない?」
「多分、体調が悪いから回復系の魔術を使ってるんだと思う」
なんて話が、通りすがった冒険者パーティから聞こえてくる。
これは実際そのとおりで、私は現在"不死鳥の再誕”を断続的に使用しているのだ。
不死鳥の再誕は、火属性
もともと破壊を得意とする火属性において、治癒魔術はかなり希少なんだよね。
で、その効果はダンジョンの活性期において、四肢の欠損すら治療してみせたことからも分かる通り、とんでもなく強い。
そんな魔術を惜しげもなく連続使用することで、体調不良を誤魔化しているのが今の私。
私が不死の竜姫と呼ばれているのは、戦闘中に負った些細な傷にすら不死鳥の再誕を使うところも由来している。
だって、痛いの嫌だし、私って火属性魔術に対する燃費がすこぶるいいから、他の属性の下位治癒魔術を使う意味がないし。
ともあれ、そんなわけで今日の私は常にちょっと光ながら移動しているのであった。
――ギルドについたら、普段以上に注目を集めつつ、食堂で飲み物をもらう。
あったかい紅茶が体いっぱいに染み込んで、不死鳥の再誕で強引に動かしている体を癒す。
あー、生き返るー。
「ふう、なにか面白そうなことやってないかな」
一息ついたら、今度はギルドでなんかイベントが起きていないかと見渡す。
ギルドには様々な冒険者がいて、賭け事をしていたり、酒を飲みながら管を巻いていたりする。
中には魔術の談義をやっている魔術師クラスタなんかもあったりして、そういうところに顔を出すのも一興って感じだ。
シェリブロのネタ出し? さてなんのことかわかんないですね。
「……ん、珍しいな。あの子が一人でいるなんて」
とか思っていると、新人の女の子が一人でギルドをウロウロしているのを見つけた。
以前マグナがやっていた新人講習にも参加していた子だ。
今の私はスーパーつよつよスペックボディを持っている関係で、記憶力がすこぶるいい。
あの子が、数人の友人たちといっしょに冒険者となるべく奮闘していることを知っていた。
というか、なんならこのギルドに所属している人間の顔と名前はだいたい一致する。
なので、あの子が一人でいるのをおかしいと思うこともできるわけだ。
所在なさげで不安げな顔をみていると、なんとなーくちょっかいをかけたくなって来てしまう。
暇だからね……
「おーい、どしたのリノちゃん」
「ひゃうっ!」
んで、呼びかけると新人のリノちゃんはそれはもう驚いた様子で肩を震わせた。
「あーあ、可哀想に」
「あの子も放蕩娘の毒牙にかかっちまったか」
周りが失礼なことを言っているが、気にしてはいけない。
毒牙って何さ。
「なんか不安そうだし、一人でいるけどどしたん? 話きこか?」
「え、えと……」
「まぁまぁ、私もちょっとだるくてこうして一人でだらけてたところだからさぁ」
ともあれ、私は色々と新人のリノちゃんを言いくるめて、私が座る席まで引き寄せる。
それから紅茶を奢ったりして緊張をほぐしつつ、リノちゃんに問いかける。
「じゃあ……お話聞かせてもらおっかな。リノちゃんはこういうの初めて?」
「あ、え、えっと……はい」
……なんかえっちなビデオのインタビューみたいな言い回しになったな。
そういうつもりはないんですよ、ほんとほんと。
――それから、リノちゃんから話を聞き出すと、どうやらこういうことらしい。
「リノちゃんは本気で冒険者になりたいんだ。でも、他のみんなはそうじゃない……と」
「は、はい。冒険者は子どものうちのお小遣い稼ぎのつもり……って、言ってました」
冒険者は誰でもなれる職業だ。
それこそ、十歳くらいの子供でもなれる。
無論、そういう子供ができる仕事は本当にちょっとした雑用くらいのもの。
そもそもギルドには、成人前の子どもたちに雑用という形で色んな仕事を割り振る側面もあるのだ。
そこから本格的に商人や職人の弟子になったり、女の子だったら家庭に入ったりする。
だから本格的に冒険者を目指す子供っていうのは、案外少ない。
「私……斥候の才能があるらしいんです。他のことをしてもあんまり上手くいかないし、だったら冒険者になるしかないかなって……でもそうなると、今度はお父さんもお母さんも冒険者はあぶないからって……」
「剣士や魔術師の才能があれば、軍に入ったり魔術の先生になる選択肢もあるんだろうけどねぇ」
剣や魔術の才能が乏しく、斥候や狩人の才能しかないとなると、働き先は田舎の猟師か冒険者だ。
前者は都会育ちには辛い職場だし、後者は粗野な連中も多いから親御さんもいい気はしない、と。
私は寂しそうにするリノちゃんの頭を、ポンポンと撫でた。
「あう……」
「リノちゃんにとって、斥候の才能はやっと見つけた、自分だけの宝物なんだね」
「……えと」
「それ以外に、自信を持って自分はすごいんだって言える分野、ないんだよね」
「…………はい」
ラスルくんと同じだ。
リノちゃんは自己評価が低い、周囲に自慢できるものがなかったから。
転生したことで魔術の才能に芽生えた私もそうだけど、自己評価の低い子が手に入れた才能っていうのは、他の人が持っている才能よりも輝いて見えるものだ。
私は泣きそうなリノちゃんを抱きしめながら、諭すようにいう。
「お父さんとお母さんに、もっと相談してみよう? 二人とも、リノちゃんのことを大切に思ってるんでしょ? だったら他に自慢できるものがないって言えば、二人も本気で考えてくれると思うんだ」
「……うん」
「もし二人が”そんなことはない、リノにはこんな才能がある”って教えてくれたら、それを本気で考えてみればいい。もしそうじゃなかったら、それこそ本気で自分の才能を自慢しよう」
リノちゃんがご両親のことを大切に思っているなら、きっと両親もそう思ってくれているはずだ。
だったら、もっと正面から両親と相談するべきだろう。
両親はリノちゃん自身の次に、リノちゃんのことをよくわかっているんだから。
なんてことを考えながら、ぎゅーっと抱きしめて、よしよししてあげる。
「あう、あうあうあうあうあう」
「だから、とにかくまずは親御さんに相談。相談できるうちに相談するのが一番いいよ? ほんと、そこがいっちばん大事だから。ほんと、ほんとねー」
「あうあうあうあうあうあう」
「あーリノちゃん柔らかいねぇ、親御さんに愛されてる証拠だよ。私もリノちゃんの頑張り本当に応援してるからさー、がんばれ、がんばれー」
「あうあうあうあうあうあうあうあうーーーーーっ!」
ぼんっ。
あっ、リノちゃんが真っ赤になっちゃった。
でも、私の言うことにウンウンうなずいて、幸せそうに帰っていったから多分大丈夫だろう。
なぜか周囲からの視線は痛いけど、わるいことはしてないはずなのに、あんまりじゃないかー!?
悪さしかしてない回