異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
体調不良が直って、自宅でうんうんと唸りながら執筆作業をしているある日。
ふいに家の扉がノックされた。
うちに尋ねてくるのはシャロネくらいだけど、当のシャロネはダンジョンに籠って何かをしている。
とすると、考えられる知り合いは一人しかいない。
私は扉の方までやってきて、魔術で扉の向こうにいる人物を確認。
それは、男装をしている一人の女性だった。
服装は完全に男物なんだけど、胸があまりに大きくて女性であることを隠せていない。
見覚えのない人物なんだけど、むしろこの場合は見覚えがない方が正しいので、私は彼女を家にあげた。
「どーぞ」
「失礼する」
入ってきた女性は、私が扉を閉めるのを確認してから、指を鳴らす。
すると衣装が一瞬にして別のものに変化して――
「やぁ、仮面舞踏会以来だな、ミツキ」
「……ようこそおいでくださいました、
前回は敢えてカッコつけるために言った呼び方を、今度はちょっとした呆れを込めて口にした。
現れたのは、毎度おなじみクトゥルー男爵である。
わざわざできてない男装をしてやってきたことから分かる通り、お忍びだ。
「来るなら来ると、一言言ってくれればいいのに」
「ふと思い立ってしまってね、便に手紙を乗せるよりも、自分の足で直接来てしまったほうが早いのだからしょうがない」
この世界は、通信系の魔術があまり発展していない。
そのせいで一部の――私や男爵みたいに空を飛べる魔術師は、手紙を使うより自分で飛んで移動したほうが早いなんてことが起きるのだ。
「それに、直接話したほうが安全なこともあるだろう?」
「……まぁ、そうですね」
そして男爵がお忍びでやってくるということは、それだけ人に聞かせられない内容であるということだ。
具体的には――
「ドノファン伯爵に対する証拠集めが終わった」
――こういう話。
「まず、ドノファン伯爵ってのはとんでもない悪辣なコレクターだ。人のものを奪ってでも欲しがる面倒な輩。あくどい手で各地から珍品を集めてたらしい」
「それでわざわざ沈没した船の引き上げなんてさせたわけか。しかしそんな強引なことして、よく今までバレなかったね」
「……多分、裏で糸引いてるやつがいるんだろうな。とはいえ、そこまでは流石に辿れなかったが」
「尻尾を切られたか」
なお、船が沈没した原因については完全に不明だったらしい。
ねぇこれやっぱクトゥルフ……とは、本人に直接聞くのは怖いのでできないけど。
いつもお世話になってる人が実はいあいあな人だったら、ショックで寝込む。
「最近だと、こないだの仮面舞踏会の襲撃で、襲撃犯から変なものをぶんどってたようだ」
「あああの、確か襲撃犯はセイレーンが轢き殺したんだっけ。ご愁傷さまー」
「君が飼いならしたあの精霊だな……いや、連中も精霊もドノファンとは直接の関係はない。今は置いておけ」
「はーい」
その後、ドノファン伯爵の件について、色々と説明を受ける。
証拠は掴めて、今は各所に根回しをしている最中。
あとはドノファン伯爵を上手く捕らえられれば解決……なんだけど、どうもそれが上手く行っていないようだ。
本気でドノファン伯爵が逃げた場合、逃走を許してしまうかもしれないらしい。
そういう魔道具を、ドノファン伯爵が持っている可能性が高いとかなんとか。
なんかいい方法があればいいんだけどねぇ。
「さて、ドノファンの件はこのくらいにして、さっさと本題にはいろう」
「ですよね」
――――で、ここまでは余談。
だって、私がドノファン伯爵捕縛に関わる保証はないから。
男爵が勝手にやってくれるのが、私としては一番楽。
どうしても必要なら手を貸すけど、今はまだそこまで話はすすんでない。
なので、男爵がわざわざ私の家まで直にきた理由は別にあって――
「シェリブロ談義の時間だ!」
――これである。
はい。
男爵は私の知り合いで一番のシェリブロ好きなのだ。
シャロネがあんまりシェリブロにドはまりしてないからね。
どっちかというと、客観的な目線で冷静なアドバイスをくれるのがシャロネだ。
対する男爵は……まぁ、オタク。
「昨夜シェリブロのハイター男爵編を読み返していたのだが……やはり最高だな、男爵編は! 思わず感想を直接君に話したくて、かけつけてしまった! 特に最後の男爵とシェリーの会話が最高なんだ。それまであった二人の壁がようやく壊れて、初めてお互いにお互いを思いやって交わした会話が……くううう、泣ける! 何よりそれまで強大な存在だった男爵にシェリーが様々な要因が噛み合ったとはいえ、初めて勝利をもぎ取るのがたまらないカタルシスでなぁ!」
「うん」
思わず圧倒されて、軽い返事をしてしまったけど、読者としてはシャロネも男爵も非常にありがたい存在だ。
アメとムチといえばいいのか、二人がいい感じにバランスを取って応援してくれるから、私は頑張れるのである。
それはそれとして、流石に今はネタ切れ気味ですけどね!
「そういえば、ずっと聞きたかったのだがシェリーは誰かモチーフがいるのか?」
「モチーフ? いないよ。ひたむきで素朴な正統派って感じをイメージしてるかな?」
「そうか……」
シェリーは、完全にテンプレだけで設定を構成してるキャラだ。
田舎の純朴な主人公が貴族社会に放り込まれて奮闘するって作品なら、まぁだいたいこういう主人公になりますよねっていう、集合知みたいなキャラをしている。
強いて言うならモチーフは……シンデレラになるのか?
「そう考えると不思議だな。シェリブロの登場人物は、比較的ミツキの周囲にモチーフが集まっているのに、主人公のシェリーだけはそうではないのか」
「それは……まぁそうなんだけどさ。いやでも知り合いを参考にしてないキャラだっているよ? 主要人物にもいるじゃん。アルフォンスとかさ」
「まぁそうなのだが……」
言いながら、男爵は腕組みをして何かを考え出す。
そしてぽつりと――
「なら、最後にシェリーがハイター男爵へ語った言葉に、ミツキの意思は一つもないのか?」
「……それは」
「”もっと早く、こうして言葉を交わしておけばよかった”」
私はその問いに――答えを持っていない。
だって――
「ハイター男爵のモチーフは、君の父君だろう」
……私は父に、未だにどういう言葉をかけたかったのか、かけてほしかったのか、理解していないから。
しばらく、私と男爵は向かい合った。
男爵は言葉を求めてはいない。
むしろ、どこか申し訳なさそうにしている。
無理に踏み込んだ話をしてしまったから。
「……答えは、多分いつか出ると思うよ」
「そうか、すまない」
「いいの。私はどれだけ燃え尽きても答えだけは求めてる。だから、心配しないで」
シンプルで、誠実な謝罪。
それを受けいれて、この話はおしまいだ。
「まぁでも……正直ハイター男爵を父様モチーフにしたのは失敗だったと思ってる」
「む、それは初耳だぞ」
「だって、さぁ」
それはそれとして、話は変わるんだけど。
やっぱりハイター男爵に父様を重ねるのはよくなかった。
なにせ――
「シェリーの相手役として、あんなに人気出るとはおもわないじゃん!」
「ああ、うむ……うん」
はい。
いやね、シェリーの恋の相手は別に用意してたんですよ。
モチーフがない主要人物のアルフォンスくんを! でもね、なんかハイター男爵との関係性が人気になりすぎちゃった!
なんとか相手役のアルフォンスくんに読者の意識を向けさせたいんだけど……完全に失敗しましたね!
どうしよう、読者は完全にシェリー✕ハイター男爵を前提にしてるけど、私が私の心情的にその展開は無理だよ!
シェリーと私はイコールじゃないけど……でもやっぱり無理だよ!
だけど読者はシェリーとハイター男爵のラブロマンスを望んでる。
私は一体、どうすればいいんだー!
自分の身内をモチーフに入れ込むのは……やめようね! 回