異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた   作:暁刀魚

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29 はしたない忠臣

「只今戻りました、お姉様ーーーー!」

「うわっ」

 

 ここしばらくダンジョンに籠っていたシャロネが戻ってきた。

 そしていの一番に私へ抱きつこうとしてくる。

 思わずげっ、と思ってしまった私は悪くないと思う。

 せめて抱きつこうとしないでくださいまし!

 

「いやそれにしても、ずいぶんダンジョンダンジョンしてたけど、何してたの?」

「ダンジョンで珍しい魔物が湧いたと聞きつけましたの、それでずっと泊まり込みをしておりました」

「ダンジョンで泊まり込みて、せめて夜は宿に帰りなよ……」

「絶対に逃すわけにはいかない魔物だったのです!」

 

 ふぅん、そこまで言われるとどういう魔物か気になってくるじゃないか。

 

「どういう魔物を探していたの?」

「それは――い、言えません」

「言えない」

 

 んで、聞いてみたらさっきまでそれはもう嬉しそうにしていたシャロネが固まった。

 多分、討伐に成功して目的のアイテムもドロップしたんだろう。

 そしてそのアイテムは――人様には話しにくいアイテムだった。

 

「シャロネ?」

「し、失礼しますお姉様!」

「まちなさーい」

 

 ええい、逃げるんじゃないよ!

 シャロネが性欲に走ると、マジでやばいことになりかねない。

 元主人として、シャロネが性欲で牢屋にぶちこまれるのだけは、絶対に阻止しないと行けないんだ!

 それから、しばらく追いかけっこをする。

 町中で始まった追いかけっこは、私の家にシャロネが逃げ込むまで続いた。

 

「追い詰めたぞ!」

「くう、無念です……!」

 

 シャロネがここに逃げ込んだのは、逃げ切るのが無理だと判断したためだ。

 せめて人目につかないところで話をしよう、といったところか。

 

「それで、一体何を手に入れたんだ、シャロネは」

「く……こ、これですわ」

 

 そういってシャロネがアイテムボックスから取り出したのは――ゼリーのようななにかだった。

 ううーん、ゼリー……? 食べるものじゃないよな。

 なんというか、魔物的な意味ではなく、前世におけるスライム的なものに見える。

 私は記憶の中から該当しそうな魔道具を検索し――

 

「……擬態スライム?」

「………………はい」

「なんてものをゲットしてるんだこいつ――!」

 

 擬態スライム、だいたい名前通りの効果。

 ようするに――私に擬態できる。

 

「お姉様への欲を! この子で発散する! 純愛ですの!!」

「浮気だよッ! いや浮気じゃないけど、流石に引くよ!!」

「ひん!」

 

 そう行っているシャロネの手の中で、擬態スライムはうねうねと動き出す。

 そして巨大化すると、等身大シャロネがその場に出現した。

 スライムとしての透明感を維持したまま、全裸のシャロネがそこにいる。

 ここから更に魔力を加えると、見た目もほぼ人と同じものにまですることが可能。

 

「でも……でも! こんなにもお姉様に強い思いを向けているのに、それに答えてくれないお姉様もいけずでございます! 私はただ、お姉様に昂ぶる思いをぶつけて至りたいだけですのに!」

「それをやめろちゅってるんだ!」

「だからこそ、こうしてお姉様ではないお姉様に発散することで、それを抑えたいのです!」

「む、むうううう……いやでも発散したところで私への態度が変わるわけじゃないでしょ」

「…………」

「没収!」

「ああ!」

 

 そこは変わりますって答えてよ!

 発散することで、表に出す分は抑えますって言えば私だって許したのに!

 台無しじゃん! 表に出す分そのままじゃ意味ないんだよ!

 

「まったくもう……こういうのを否定するのはどうかと思うけどさ、発散って人前で醜態をさらさないためにするものじゃないの?」

「人の本能というものは、ときに抗いがたいものです。私にとっては特に……」

「セイレーンだって、もう少し破滅衝動を抑えるじゃないか」

「……そういえば、セイレーン様の匂いがしますね。私がいない間にセイレーン様が?」

「おいこら」

 

 くんくんと嗅ぐんじゃありません。

 君は女体ならなんでもいいのか、あの子見た目はただの子供だぞ!

 

「……にしても、擬態スライムか。魔道具としては面白い効果をしてるよね」

「リーダーが好きそうですねぇ。変なデザインのゴーレムに擬態させて飾りそうです」

「シャロネにはわからないかなぁ、あのデザインのかっこよさ」

「むしろわかるお姉様が謎です」

 

 だってかっこいいんだぞ、リアル系の渋い量産機って感じのデザインなんだ。

 そういうのが好きって、やっぱりマグナは通だねぇ。

 なんて考えつつ、じゃあ他に擬態させて面白そうなものってなにかあったかな……と私たちは考える。

 

「…………クトゥルー男爵の肢体」

「え?」

「あの人の……服の上からでもわかる豊満すぎる胸……」

「お、お姉様……?」

「リアルにどうなってるのか……気にならない?」

「……ごくり」

 

 クトゥルー男爵は、めちゃくちゃ胸が大きい。

 それはもうありえんくらい大きい。

 それをドレスに押し込めているから、存在感がやばいのだ。

 ただ、その裸を私は見たことがない。

 一緒に温泉とか入れば見れるのかもしれないが、なかなか機会がなくって。

 それを……確かめる?

 

「だ、だめですよお姉様……いくらなんでもモラルが……ぐへへ」

「で、でもさぁ……やっぱり気になるじゃん? 学術的な興味だよこれは……ぐへへ」

「そうですわね……ぐへへ」

「……ぐへへ」

 

 こういう時に限って、主従は悪い方向に結託するものだ。

 互いに邪悪な笑みを浮かべて、やるしかねぇと笑い合う。

 これだ……これしかねぇ……!

 そんな思いで擬態スライムに手を伸ばした瞬間。

 

 コンコン、と扉がノックされた。

 

「お届け物でーす」

「は、はーい!」

 

 ――届いたものは、クトゥルー男爵からの手紙だった。

 ひいい!

 

「……やっぱりやめとこうか」

「……ですね」

 

 というわけで、お互いに頷き合って擬態を取りやめる。

 なんかこう、正気を失いそうな結果になる気がしてきた。

 素っ裸を所望した結果、なかからタコの邪神がでてきたら私は死ぬ。

 

「手紙の内容は……あ、暗号だこれ」

「……暗号、ですか」

「直接男爵がうちまで来てない分、急ぎの内容じゃないね」

 

 重要な内容は手紙だと他の人間に漏れてしまう可能性がある。

 そういう時は、こうして暗号化を施すか、直接やってきて話すかの二択。

 後者の方が手っ取り早いし、何より安全なのがちょっと変。

 まぁ今回は手紙だけど……

 

「シェリブロの時は暗号化が一部だけだから、全部暗号化ってなると大事な用事だね」

「大事な……といいますと」

「ああそっか、ずっとダンジョンに行ってたからシャロネには共有してなかったね。――ドノファン伯爵のこと」

「……!」

 

 私が仮面舞踏会に出席していたところから、シャロネは知らない。

 ここまでの経緯を簡単に話すと、難しい顔でシャロネは頷いた。

 

「……ドノファン伯爵の元から、ご当主様に関わる情報が出てくるのでしょうか」

「可能性はある。たとえばだけど、――うちの家宝とか、あいつが持ってるかもしれない」

「…………家宝というと、やはりあのオルゴール」

「オルゴール? ん、あー……あった気がするなぁ」

 

 家のことは、もうだいぶ曖昧だ。

 あった気もするし、なかった気もする。

 そんな私の様子をみながら、シャロネはなにかを思案し――

 

「…………()()()はそれを回収するおつもりですか?」

「……そうだね」

 

 従者として、私に問いかけてくる。

 

「――回収するつもり。多分、今がその時だと思うから」

「…………そう、ですか。であれば……私からはこれ以上の言葉はございません」

「ありがとね」

「……いえ」

 

 ただまぁ、問題はある……と手紙には書いてある。

 ドノファン伯爵をおびき寄せる作戦。

 そのためのピースが、埋まらないのだという。

 

「……それに、思いついちゃったしね」

「思いついてしまった?」

「――ドノファン伯爵をおびき寄せる作戦。完璧に思いついちゃった」

 

 そう言って私は、擬態スライムに視線を向けるのだった。




今回含めてあと三回で一区切りになります。
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