異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた   作:暁刀魚

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30 不死の竜姫

 ドノファン伯爵。

 プロミア王国の悪徳側の貴族の一人で、偏執的な収集癖を持つ。

 そのためならどんな卑怯な手もつかうけど、黒幕と強いつながりがあるのか、はたまた本人が狡猾すぎるのか、尻尾を出したことはない。

 私が交通事故みたいに船を引き上げていなければ、多分最後まで逃げ切ってたんだろうな。

 いや、それだけじゃ足りないか。

 

 

「き、貴様ぁあああ! 聖王国の硬貨をそんな……そんな使い方を……魔力タンクにするなああああああああ!」

 

 

 更にその上で、一計を案じたことでようやく、眼の前に引きずり出すことができたのだから。

 事の次第はこうだ。

 私――というかクトゥルー男爵はドノファン伯爵にある取引を持ちかけた。

 

『お前の不正の証拠を握っている。バラされたくなければ会談に応じろ』

 

 無論、こんな取引にドノファン伯爵が応じるはずもない。

 だから男爵は、こうも付け加える。

 

『もし会談に応じるなら、聖王国の硬貨――その本物を提供する用意がある』

 

 ――と。

 当然、証拠となる映像も付け加えて。

 そこには聖王国の硬貨特有の、圧縮された濃密な魔力によって構成されたコインが映っている。

 映像は、以前シャロネが私の写真を撮ろうとしてマグナから借りてきたものだ。

 撮った写真の中にある魔道具の魔力の残り香みたいなものも映り込むこの魔道具なら、コインの偽装が可能だ。

 映像を通してみる限りでは本物だと、ドノファン伯爵も思うだろう。

 とはいえ、これでもドノファン伯爵が話に応じるとは限らない。

 というか応じない公算が高かった。

 なにせ、別に会談に応じてそれを受け取る必要はないのだ。

 奪ってしまえばいい。

 だから、本命は更にその次。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()

 

 

 それは――それだけは絶対にドノファン伯爵も許容できないことだった。

 コレクターとして、それだけはやってはならない行為である、と。

 罠だという事はわかっている。

 それでも、それでもドノファン伯爵は乗るしかなかった、その罠に。

 とはいえ、伯爵にも勝算はあっただろう。

 もともと不正が暴かれてもコレクションを持ってどこかへ逃走する手筈は整えていたようだし。

 何より、クトゥルー男爵も言ってたけど、敵に囲まれた状態でも脱出できる類の魔道具を保有しているというのが一番厄介な点だ。

 

 そこで、私の出番である。

 隠蔽の魔術は、どうも私が使うと他人よりも強い効果を発揮してしまうようなのだ。

 それを利用して、私はドノファン伯爵がやってくるその場に潜んだ。

 んで、怒り心頭で乗り込んできたドノファン伯爵に対して――

 

「”決闘の宣告”」

 

 決闘魔術で、結界を作って閉じ込めた。

 

「クトゥルー貴様……! いや、貴様クトゥルーではないな!」

「一瞬判断が遅かったね!」

 

 言いながら、杖を抜き放って部屋の中央にいるクトゥルー男爵――に扮した私へ向けるドノファン伯爵。

 現在私たちがいるのはクトゥルー男爵の別邸で、当然ながら部屋にはドノファンを呼び出した男爵が座っている。

 ドノファン伯爵はそう考えていただろう。

 まぁ――

 

「擬態スライムによる偽乳は、効果てきめんだったわけだ」

「クソ……この国にアレほどの胸を持つ人間はクトゥルー以外にいないと思いこんでいたわ!」

 

 ――そこにいるのは、擬態スライムを使って胸に詰め物をした私なんだけど。

 このクソでかい胸は本当に目立つ、認識阻害も合わせて使えば、一瞬だけ伯爵を騙すことは容易い。

 そしてその一瞬で決闘魔術さえ起動してしまえば、ドノファン伯爵は逃げられなくなる。

 

「何のつもりだ、小娘……!」

「お前を捕まえに来たんだよ。どんな方法で逃げ出そうと思ってるのかは知らないけど、決闘魔術の結界からは逃げられないだろ!」

 

 仮に方法が転移だったとして、決闘魔術は結界を生み出す魔術。

 その結界は、外部への転移を妨害するのだ。

 ドノファン伯爵は、私を忌々しげに睨みつけた。

 

「ふざけるなよ小娘が……これでは、クトゥルーを人質に取ることもできん!」

 

 ドノファン伯爵が油断していたのは、もし仮にそこにいるのが男爵以外なら即座に逃げ出し、男爵なら交渉を行おうと考えていたからだろう。

 後者なら、仮に交渉が決裂しても男爵を人質にすれば逃げられる。

 しかしそれは、私が擬態スライムを使ったことで、失敗に終わった。

 

「というわけで、悪いけどお前は詰んでる。さっさと降参しなよ。そうすれば意識を刈り取るだけでこの場では済ませてあげるから」

「ふざけるなよ……! 言っておくが、まだ方法はある。貴様を殺して、この場から逃げおおせてしまえばいい……!」

「できるものなら……やってみな!」

 

 私は即座に、火球を生み出す。

 しかしそれよりも伯爵は手早く、杖を両手に持つと――

 

「儂はすこぶる運がいい。なにせこんな玩具を――直前に拾うことができたのだからな!」

 

 ――それを、へし折った。

 

「そういえば男爵が言ってたっけなぁ。セイレーンが滅ぼした仮面舞踏会を襲った連中のアジトから、アンタが何かをかっぱらったって」

()()()()()()()魔道具だ。それも、あの木っ端な場所で使われたものとはわけが違う。特級冒険者すら敵わぬ怪物だ!」

 

 そうして、伯爵は魔物に取り込まれていく。

 仮面舞踏会のときと同じだ。

 本来なら術者を取り込むのは、悲壮な決意のもと行われることなのだろうけど、伯爵は違う。

 どれだけ周囲を破壊しようと、倒されれば元には戻れる。

 そのタイミングで逃走用の魔道具が残っていればいいわけだし、なにより巨大すぎる魔物に変身すれば――その魔力で決闘結界が崩壊するのだ。

 

「暴れろよ()()()。その小娘を蹂躙してやれ……!」

「イカれてるよお前……!」

 

 破滅竜って、以前セイレーンが言っていたセイレーンの上位存在みたいな魔物じゃないか。

 まったく、とんでもないものを呼び出してくれるなぁ。

 まぁ、やるしかないんだけど!

 

 かくして、破滅の精霊たるセイレーンすら恐れるとんでも級の魔物が、私の前に降臨した。

 

 

 ■

 

 

 結局、出現した魔物によって男爵の別邸――通称コービット邸は破壊された。

 ちょっと待てよ!?

 まぁ破壊されるべくして破壊された屋敷のことはともかく、その後の対応が問題だ。

 一応、屋敷は山奥にあったので被害はないが……やっぱりこれ悪霊が家にいるだろ!

 ともかく、やべー魔物との対決を、私は強いられているわけだ。

 こりゃちょっと本気出さないとやばいかなぁ、というわけで天翼を広げて飛び上がる。

 火球でちまちま嫌がらせをして、なんとか戦場を上空へと移すことに成功。

 とりあえずここが一番周辺被害的にやばいので、上手く行って良かった。

 

『アオオオオオオッ!』

「さーて、なんとかなるといいなぁ、私一人で」

 

 最悪、居場所がわかっている特級のところまでトレインして協力を仰ぐことになるが、それは避けたい。

 頼むから私だけで討伐できてくれよー、と思いつつ――

 

「”火竜の熱線”」

 

 

 私は百発の熱線を同時展開した。

 

 

 熱線は、威力を上げようと思うと詠唱が必要になるけど、連射するだけなら詠唱はいらない。

 一発無詠唱で出せるなら何発でも連射できるし、必要なのは魔力だけだからだ。

 というわけで無数の熱線が破滅竜にぶつかる。

 

『アオオオオッッ!』

「これ効いてるの? 効いてないの?」

 

 わかんねー。

 とか思っていると――

 

『オオオオオッ!!』

「うおっ!」

 

 竜の口から、それをまとめて飲み込むデカさの熱線が発射された。

 地面を背にしていなくてよかった、こちらの熱線をまとめてぶち抜き、空を一閃。

 私は天翼の機動力でなんとかそれを回避する。

 しかし――

 

「追随してきたぁ!」

 

 破滅竜の口が動く。

 慌てて私は横に飛びながら、迫ってくる熱線から逃げる。

 同時に詠唱を行って、今度は高威力の熱線で破滅竜の熱線に対抗することにした。

 

「”火竜の熱線”!」

『オオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!』

 

 ただし、狙うのは破滅竜の口だ。

 その口を、私の熱線で閉じろってんだよ!

 

『グ、オオッ!』

「よし効いてる! 行けそうだなこりゃ!」

 

 んで、直撃したら破滅竜が明らかにのけぞった。

 詠唱付き熱線なら効く、だったら状況を見ながら詠唱熱線を叩き込むだけだ。

 そう勢いづいた私だけど――

 

「……再生しとるね」

『……グゥルル』

 

 熱線が直撃した場所が、一気に再生した。

 んで直後。

 

 

 私の脚に熱線がかすめたことで、脚が消し飛ぶ。

 

 

 半ば反射的に天翼で動いたことで、致命傷だけは免れたものの、脚が持っていかれた。

 

「いったあああああ!」

 

 思わず叫びながら、無詠唱で不死鳥の再誕を行使。

 脚はすぐに復元するものの、今のはマジで痛かったぞ!

 

『グオオオオオッ!』

 

 そこからは打ち合いだ。

 お互いに熱線を打ち合いながら、空中を飛び回る。

 竜の全長は十メートルくらいで魔物としてはそこそこの大きさなんだけど、機動力がヤバい。

 私の天翼についてこれるってだけでも相当なのに、この大きさでついてこれるの異常だよ。

 しかも、ただ倒すだけじゃなくて一発で倒さないと再生するとか。

 ……私も似たようなもんか? 似たようなもんだな。

 

「――逆に考えれば、似た者同士なんだ、私とこいつは」

 

 破滅を呼び込む竜なんて存在と似た者同士とか、もしかして私にも破滅願望なんてあるのか?

 いやないな、毎日をそこそこに過ごせればそれでいい。

 父のことには少しだけ真面目になるけど。

 多分それも……今回で一段落する――気がする。

 

「だったら……発想の転換だ。私が私を正面から倒すとすれば、どんな手段を取る?」

 

 こいつを倒すのが面倒なら、こいつに近い私を倒す方法を考えたほうが得策だ。

 ちょっとダメージ与えるだけじゃ即座に再生する治癒能力。

 最速で動けばほぼ追いつけるものはいないだろう機動力。

 そして、熱線という破壊力。

 私がやられて一番嫌なことは――

 

「よし、決めた」

 

 直後、私は動きを変える。

 それまでは破滅竜の熱線を避けつつ、こちらの詠唱熱線を叩き込む戦い方だったのを、無詠唱の熱線を連打する形にしたのだ。

 これが効いているかはなんとも言えないところだが、牽制くらいにはなるだろう。

 なっててほしい。

 まぁそもそも、片手間でできるから熱線連打に切り替えたので、効果がなくてもそれはそれである。

 というわけで、早速私はあることに着手した。

 

「必要なのは、威力。魔術において威力はただ魔力を込めればいいってものではない。魔術そのものが一つの型を作り上げる行為だから。魔力を込めてできるのは、数を用意することだけ」

 

 ぶつぶつと、言葉がこぼれる。

 早口で、自分の中の思考を言語化していく。

 転生した私のスペックは非常に優秀で、もはやただ反射的に”思考する”だけで理論が構築されていくのだ。

 

「威力に必要なのは、緻密さ。詠唱、魔術の型、呪文の習得難易度。威力を上げようと思うとそれだけ多くの繊細な作業が必要になる。大事なのは集中。ただ詠唱するだけじゃだめだ。もっと精密に魔術を組み上げないと」

 

 意識がそちらに持っていかれて、ダメージが増える。

 腕が、脇腹が、脚が、下半身が、吹き飛んでは再生する。

 脳と心臓、人が生命を維持するために必要な部位さえ守ればいい。

 顔の半分がえぐれても、腹から下が消し飛んでも、私なら再生できる。

 そういうふうに、私を作った。

 

「描け、描け、描け、描け、紡げ、紡げ、紡げ、紡げ、現出せよ、現出せよ、現出せよ、現出せよ」

 

 むしろ大変なのは、半ば暴走するかのように加速する思考だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()ことで、私の思考はもはや熱を伴っていく。

 使いすぎればそのまま脳が焼け切れる状態を、不死鳥の再誕で常に再生させ続け、維持。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、私は思考に没頭する。

 

「――できた」

 

 そして、私は――

 

「新しい、魔術」

 

 戦闘中に、新たな魔術を組み上げた。

 手をかざす。

 口は高速で詠唱を開始、発動までに一分を要する長大な詠唱を、思考の加速で無理やり短縮。

 それでも、その間は無防備になる。

 迫りくる熱線は――天翼で身を守ることで耐えた。

 痛みが伝わる。

 天翼は魔力という形で私とつながっているのだ。

 大抵の痛みはフィードバックしないけれど、翼を破壊するほどの威力となると、その範囲から外れる。

 結果、身体と脳から発せられる激痛に耐えながら魔術を展開。

 

 まず、大事なのはこいつを退治したあと。

 ドノファンを逃さないようにしなきゃ。

 方法は決闘魔術の結界を再現するだけでいい。

 あれならドノファンが逃げられないことは証明されている。

 次に、その結界の強度を上げること。

 破滅竜を倒せる威力の魔術とか、結界が持たないに決まってる。

 そして最後に――単純な威力。

 イメージは、セイレーンが扱う魔術。

 魔術の名前もそこから取って――

 

 

「”破滅の熱線”」

 

 

 一瞬だった。

 空を光が覆う。

 私の熱線は、迫りくる破滅竜の熱線を()()し、本体すらも撃ち抜いた。

 回復なんてさせる暇もなく、一撃。

 破滅竜は――破滅した。




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