異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
私は、半ばトランス状態だった本気モードから復帰する。
途端に疲労と痛みが襲いかかるが、すぐに不死鳥の再誕でそれを治癒。
一息つけば、もういつも通りに戻っていた。
「んで――ドノファン」
「ひ、ひいい! なぜだ、なぜ逃げられない! 動け、魔道具よ! 儂を逃がせえ!」
「――答えて」
私は、どういうわけか逃げられないことに焦るドノファンを捕まえて、問いかける。
ついでにドノファンの体から漏れる魔力を辿って、逃走用の魔道具を破壊しておいた。
「な、あ!」
「――もう一度言うよ、答えて」
「なん、だ貴様……」
「父様から奪った魔道具は、どこ」
「……貴様、あの男の娘か?」
「今更気づいたの?」
さっきも顔を見せてるのに、今更気づいたのか。
正直、その事に関する怒りはもうほとんど湧いてくることはないけれど、それにしたってあんまりじゃないか。
数年前に、ありったけ私から家の思い出を奪っていったくせに。
「や、やめろ……没落貴族風情が……儂を捕らえようなどと……!」
「残念、クトゥルー男爵はすでにお前を捕まえるための手筈をすべて整えてる。さっきの魔道具がなければもう逃げられないって、お前自身が一番わかってるはずだ」
「ぐ、ううう!」
「だから……答えろ!」
「し、知らない……儂があの男の屋敷から回収したのは沈黙のオルゴールだけだ! むしろ、お前の方こそあの男が魔道具をどこにやったのか知っているんじゃないのか!」
沈黙のオルゴール……一瞬なやんだけど、そうだ。
録音の魔道具の正式名称である。
そして――同時に、ようやく思い出した。
セイレーンが持ってきた録音の魔道具に対する既視感――
「そうだ、確かに――父様の部屋には沈黙のオルゴールがあった」
「あのオルゴールに、魔道具の居場所を隠したに違いない! あれには鍵がかけられている。あの男が死んだ以上、その鍵を知っているのは貴様だけだ……! なにか、なにか知らんのか!」
「……この期に及んで、そんなことを気にするの? もういいよ、場所だけ教えて」
それから私は、渋るドノファンを空中から放り投げたりして脅し、場所を聞き出す。
その後は地上でコービット邸の破壊を察知してやってきただろうクトゥルー男爵に、ドノファンを預けた。
ちゃんと逃げられないように捕縛もして、私は一人ドノファンが魔道具を隠した場所へと向かう。
父の部屋にあったオルゴールには、私が求めている”答え”がある。
そんな予感が、私を突き動かしていた。
■
パスワードは、ミリィ。
私の幼少期、父は私をそう呼んでいた。
本名をもじって、母がつけたのだという。
だから私の新しい名前は苗字とミリィをあわせてミツキとなった。
ドノファン伯爵の隠し倉庫から父が持っていた沈黙のオルゴールを持ち出して、外に出る。
おそらくこれだろうと予想していた「ミリィ」のパスワードは、正解。
オルゴールが、音を奏で始めた。
『……本当に、それでいいのですね、侯爵』
『ああ』
父の声だ。
もう一人、誰かがいる。
この声もまた、聞き覚えがあった。
――クトゥルー男爵の旦那さんだ。
先代のクトゥルー男爵、というべきか。
当時、あの場にもう一人人がいることは気づいていた。
でも、それを確かめる前に――
『娘に当主の座を継がせるつもりはない』
こう口にされて、私は動けなくなった。
だから、相手を確かめるすべがなかったんだ。
『女を当主に据えることは一般的ではない』
『……』
『魔術に関しても、もとより女は魔術大学の教授にはなれない。娘の願いは――叶わない』
『それでは……まるで君の娘を、家のための道具にするかのようではないか』
『――そうだな』
その言葉を聞いた時、私の頭は真っ白になっていた。
だから、その後のことはよく覚えていない。
シャロネが父様にバレないよう私を連れ出して、私は塞ぎ込むことになる。
そしてなんとか父にことの真意を問いただそうとしたところで――父が死んだ。
ああ、思い出した。
こういう話を、父はしていたんだ。
でも、だからこそ当然の疑問が生まれる。
どうして父は、これをわざわざ録音装置に残した?
『だが、
『そうだろうな、我々は踏み込みすぎた』
――――
私は、息を呑んだ。
父は、自分が近く殺されることを知っていた?
そして先代のクトゥルー男爵も――
今代のクトゥルー男爵は、私と同じように旦那さんの死の真相を探っていた。
だからこそ、私に全面的に協力してくれる。
でもまさか、こんなところで先代男爵の死につながる情報が出てくるとは思わなかっただろう。
『……だからこそ、これを娘に残す。娘なら、すぐにこのオルゴールに気付くだろう』
そして、私は――もう一度、頭が真っ白になった。
父は私に、万が一のときに備えてメッセージを残そうとしてくれたのだ。
つまり、じゃあ、なんだ?
私が父の言葉をうっかり聞いてしまったせいで、私は間違えたのか?
息が苦しい、あの時、私は父から逃げてしまった。
そのせいで、父が、父の言葉が、無駄に、なって――――
『端的に言う。これ以上、お前が頑張る必要はない。立ち止まり、地に足をついて……そしてゆっくり休め』
「え――」
『お前が頑張りすぎてしまうことは、私が一番よく知っている。……私が間違っていたのだ。お前に一言でも、
「父様……?」
父様の言っていることが、わからない。
父様は、何を言っているの?
頑張らなくてもいい? あんなに厳しくて、真面目だった父が?
『最初のうちは、お前の才能に期待していた。努力を続けるお前を誇らしくも思った。しかし気づいたのだ――お前の頑張りは、常軌を逸している』
「それ、は――」
だって、期待されたから。
期待に答えなくちゃ、と思ったから。
『たしかに、努力というのは素晴らしいものだ。才能を発揮するお前の姿は、私の誇りだ。だが、だからといって無茶をする必要はない。……倒れてしまうくらい努力しなくとも、お前は優秀な私の――』
そして、父は――
『
はっきりと、そう言った。
『口にできなくてすまなかった。不器用ですまなかった。怖かったのだ、娘に嫌われることが。愚かだったのだ、一人の父親として私は何もできなかった。ただ、努力を重ねて疲弊するお前を……見ていることしかできなかった』
「父様……」
『だから、これをお前が聞いているということは、私はもうこの世にいないのだろう。なら、
――――ああ、そっか。
『当主が亡くなり混乱する家を維持することは難しいだろう。もしお前が家を存続させるつもりならクトゥルー男爵を頼り婿を取れ、その婿に一時当主を任せ……子を次期当主とすれば家を存続することは可能だろう』
「……だから、私が当主になることはない。そうだよね、当時の私はまだ十歳にもなってないんだから」
『そうしないのなら……すまないが、使用人の都合だけは頼む。今のお前でも、それくらいなら問題なくこなせるはずだ。家が没落した後は――好きに生きるといい。お前なら、なんの問題もないと私は確信している』
結局、私は父の遺言通りに生きたのだ。
これがあっても、これがなくても。
あの言葉を聞いていても、聞いていなくても。
『火はいずれ燃え尽きる。このまま行けば、私が生きていてもいずれお前はそうなっていただろう。……だから、何も悔やむことはない。間違っているのはすべて私で……お前に何もできなかった不出来な人間は、私一人で十分だ』
涙は、流さなかった。
父が死んだ時、私はそれを悲しむべきか、わからなかったから。
そして、今は――
『愛している、私の娘よ。……すまなかった。それでも、私はお前を、愛していたのだ』
多分、もう。
流さなくてもいいくらい、私は私を生きていた。
■
「――お嬢様!」
「シャロネ!?」
不意に、遠くから声が聞こえる。
シャロネだ。
いったいいつの間に?
多分、男爵が手配してくれていたのだろう。
シャロネには私や男爵みたいに空を飛んでショートカットする方法はないから――強引に道を突っ切ってここまできたのか。
それは……大変だっただろう。
「大丈夫シャロネ、疲れてない?」
「それはこちらのセリフです。お嬢様、また無茶をしたのですね!?」
「え、あ、あー……あはは、ごめん」
「……もう。次は私も、作戦に参加させてくださいまし」
「……本気の私に、ついてこれるようになったらね」
「努力は、いたします」
私が無茶――新規魔術を高速開発するなんてこと――をするときは、シャロネが戦闘についてこれないときが圧倒的に多い。
強くなろうとはしているが、それだけ私がかつて重ねた努力が無茶過ぎたのだ。
「それで、その……」
「あー、うん。なんていうか……見つけちゃった、色々と」
「……!」
その言葉に、シャロネが言葉をつまらせる。
シャロネは……一体どこまでわかっていたんだろう。
私と一緒にその場をあとにしたはずだけど、私より冷静に話を聞けていたんだろうか。
いや、多分聞けてはいないな。
なんとなくだけど――
「シャロネも、私の努力を無茶だって思ってたんだよね」
「……そう、ですね」
「やっぱり」
まぁ、考えてみれば当たり前の話で、いつも隣りにいたシャロネがそれに気づいていないわけがないんだ。
ただそれでも、父の本音まではシャロネも確信が持てていなかっただけで。
理由は……
「……やっぱ、色々と喋らなすぎだよね。父様がこんなに喋ってるの、私初めてみた」
「お嬢様……」
「でも、なんていうかね――嬉しかったんだ」
私は、一歩、一歩、前に向かって歩き出す。
「燃え尽きる前の生活も、嫌いじゃなかった。成長してるって実感があったし、期待に答えられれば達成感はあったんだ」
「……」
「でも、私は多分燃え尽きたあとの生活の方が好き」
前世の私は、何一つ自分に価値を見いだせていなかったから、自分自身が嫌いだった。
でも生まれ変わってやり直した私は、自分に価値を見いだせてたんだ。
それはあまりにも、前世と今で、違いがありすぎる。
そして父の言葉を聞いた時、私ははっきり自覚した。
「――私は、今の私が、一番好きだ」
父がそれを認めてくれたから。
シャロネが隣にいてくれるから。
男爵やマグナが、私の友人でいてくれるから。
うん、よくわかった。
私は、今の生き方を肯定したかったんだ。
オルゴールを、そっと胸に抱きしめて、そしてこぼす。
「ありがとう、父様。私はこれからも――生きていくよ」
それは燃え尽きた生き方で、端から見ればだらしなく見えたり、危うく見えたりするかもしれない。
でも私はこの生き方を心の底から愛していて、そして歩みたいと思う。
「……帰ろう、シャロネ」
「はい」
シャロネに笑みを浮かべて、シャロネもどこか嬉しそうに返す。
ああ、そろそろ日が昇る。
「また明日も、こんな今を続けよう」
きっと、これからも――
というわけで、一旦一区切りとなります。
またお会いできれば、その時はよろしくお願いいたします。
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