異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
あとがきにお知らせがあります。
――――その日、私の脳裏に一つの天啓が降りた。
「はっ……おねショタ無知シチュ合同!?」
思わず声を出してしまい、周囲から怪訝な目を向けられつつ私は走る。
急いで走る。
向かう先は、愛すべき我が家。
今一瞬すごいことを叫んでしまった気がするが、まぁ多分大丈夫だろう。
この世界にはない概念の集合体だし。
ともかく、これからするべきことは決まっている。
「――原稿だぁ!」
そう、シェリブロの原稿だ。
私は勢いよく我が家に飛び込むと、早速執筆を開始しようとして。
「あ、お姉様おかえりなさひまへ」
何やらリビングでめちゃくちゃくつろいでるシャロネを見つけた。
寝間着姿で、クッキーなんて貪っておる。
こやつ、私の家を自宅みたいに……!
いや、発情してなければ追い出さないから、実質シャロネの自宅みたいなものでもあるけどさ。
「ただいま。そのクッキーちょうだい」
「はい、こちらになります。ちょっと材料を頂いたので焼いてみたのですが、いかがでしょう」
「ん、おいひー……クッキーはやっぱサクサクよりホロホロしてる感じの方が好き」
「ありがとうございます、お姉様の好みに合わせてみました」
いやーやっぱ美味しいねえ、クッキー。
シャロネはお料理も上手だ。
それからすでにシャロネが淹れてあった紅茶を私もいただく。
甘いクッキーには砂糖の入ってない紅茶が一番ですよ奥さん。
「でさー、要するにバインバインは正義ってわけよ」
「わかりますわ……ええ、とてもよくわかります」
なんて、クッキーを味わいつつ二人でダラダラ話をする。
今日のシャロネは完全にオフモードなようで、私の胸とか足とかをチラチラ見てこないのもとてもいい。
いやー、今日もいい燃え尽き日和だなあ。
「…………じゃなああああああい!」
「ど、どういたしましたの!?」
「天啓が落ちてきたんだよ! おねしょ……じゃない! シェリブロのネタがビビッと!」
「そのおね……なんとかというのが気になるのですが!」
「しゃおらー!」
「ぐえー!」
しまったシャロネを発情させてしまった!
私は襲いかかるシャロネにバックドロップを叩き込みつつ考えを巡らせる。
何か……何か素晴らしいネタを思いついたはずなのに!
思い出せないいいいいいいいい!
「ぐああああ! お姉様! もっと! もっとお願いいたします!」
「しめわざあああああ!」
シャロネの求めるがままに技をかけつつ、しかしイマイチピンとこない。
あの天啓を……もう一度!
「はっ! おねロリバブみ合同!?」
ぴしゃーん!
私の脳裏に、電流が迸る!
こ、これだ!
私は即座にシャロネから手を離すと、勢いよく起き上がった。
また何かおかしなことを口走った気がするが、今はこの素晴らしいアイデアを形にしないと!
「お姉様! 気になる単語がございましたわ! お姉様ーーーー!」
いまだ発情するシャロネを踏んづけながら、私は作業を開始するべく自室に向かうのだった。
◯
「ばぶー」
そして自室では赤ん坊になったセイレーンがベッドを陣取っていた。
「セイレーン、いつのまに!?」
「きゃっきゃっ」
赤ん坊になったセイレーンは、それはもう楽しげに私へ手を伸ばしてくる。
一体いつの間にやってきたのか、どうして最初から赤ちゃんモードなのか、わからないことが多い。
とはいえ、今はそんなことを気にしている場合ではない。
一刻も早くアイデアを形にしなきゃいけないんだ。
セイレーンはガチ赤ん坊ではないから、多少放置していてもいいだろう。
「よおしまずは……」
「おんぎゃあ! おんぎゃあ!」
さっそく筆を手に取ったところで、セイレーンが泣き始めた。
おーよしよし、ちょっと今は手が離せないけど、あらかた形にしたら面倒見てあげるからねー。
とか思っていると――
「――――おねえさまー」
外からシャロネの声が聞こえてくる。
ま、まずい……!
シャロネは赤ん坊のセイレーンにすら発情する危険人物だ。
この状況でセイレーンが見つかったらどうなるか、考えたくない。
というか以前にシャロネがセイレーンをよしよししようとして大変なことになったのを、私はまだ覚えているんだぞ。
「くっ……しょうがないな……! セイレーン、ほーら、いい子だから静かにねー」
「おんぎゃー、おんぎゃー」
慌てて私はセイレーンを抱きかかえると、いい感じに揺さぶってあやしはじめた。
子どもを育てた経験なんてないくせに、微妙にあやすスキルが身についてしまった私である。
以前、近所の赤ん坊をあやしていたらそれを知り合いの冒険者が見つけて、私が子持ち人妻になったなんて話が広がったことがあった。
その時は、数日ほどどういうわけかギルドで閑古鳥がないたこともあったな。
いや私が人妻子持ちでないことは少し考えればわかると思うんだけど、何やってんだろうね彼ら。
まぁそれはいいとして。
「おーよしよしよし」
「……すぅ、すぅ」
セイレーンはゆっくりと泣き止み始め、最終的に眠りについてくれた。
穏やかな寝息のセイレーンを再びベッドに戻すと、一息つく。
流石につかれたから、ちょっと飲み物でも取ってこようか。
シャロネの入れた紅茶がまだ残っていた気がする。
外に出ると、シャロネが何やら頭を床に突き刺しながら倒れていた。
キレイに床が抜けてそこに顔が埋まっているのだ。
誰が一体こんなことを……というか人の家の床をぶち抜くんじゃありません。
魔術で直せるとしても手間なんだからね!
「えーと飲み物飲み物」
「おねえさまー……もう反省いたしましたので……よろしければ顔を引っこ抜いていただけますと……」
「ああ、さっき私のことを呼んでたのはそれが理由だったんだ……」
頭を踏んづけて床にめり込ませたのは私なわけだし、流石に可哀想なのですぽっと引き抜く。
シャロネはなぜか嬉しそうにしていた。
また穴に顔をダンクシュートした方が良いだろうか……
んで、それから改めて紅茶をいれなおして自室に持っていこうとする。
……んだけど、そもそも私はどうして紅茶を自室に持っていこうとしたんだっけ?
「ああ!?」
「ど、どういたしましたかお姉様!?」
「またアイデアがどっかいった!」
やばい、またもや思い出せない!
あああああめちゃくちゃ面白そうなアイデアだったのにいいいいい!
「くそお、なんで今日はやたらと気が散ることが多いんだ!」
「お姉様が移り気なのはいつものことでは……?」
「それは! …………そう、なんだけど。いやそうじゃなくて、アイデアを思いついたのに形にする前に抜けていっちゃうのは困るんだよー!」
一瞬否定しようと思ったけど、まったく出来なかったので諦めて話を進める。
基本的に私への遠慮が皆無なせいで、こういう時のシャロネはだいぶ突き刺さることを言ってくるのだ。
まぁ私としてもその方が気楽でいいけどね。
「ぬああああ、なんか降ってこーい! 降ってこーい!」
「お姉様がなにやら不可思議な踊りを!」
これは雨乞いだよ!
こう、左右の手のひらを合わせてそれを上に突き出したり左右にくねくねさせたりするのだ。
アイデアという雨が、どうか私の元まで降り注ぎますように――
そんな祈りが通じたのか、私はふいにピンと来た。
「ドキドキ秘密の夏休み、僕とお姉ちゃんの内緒編!?」
こ、これだ……!
あ、いや口に出した単語はシェリブロの内容とは一切関係ないです。
というか私は何を言っているんだ?
まぁいい、そんなことに気を取られていたら、またアイデアがどこかに行ってしまう!
急いで私は紅茶を入れたカップを手に自室へ向かおうとして――
「……あら、雨が降ってきましたわ」
雨が降ってきたことを察知する。
そして、はっ、と気づいてしまった。
洗濯物、取り込まなきゃ――――
まずいまずい、珍しく洗濯物を魔術で乾かさず天日干しにしていたせいで、雨が降ってきたら濡れてしまう!
ああでもここで洗濯物を取り込んだら、またアイデアがどっか行く。
ああああでも洗濯物がああああああ。
「あの、お姉様……」
「何!? 今私忙しいよ!?」
「それは存じ上げておりますが……洗濯物ならわたくしがたたみますけれど……」
「…………シャロネ愛してる!!」
「!!!?!?!?!?!?!?!?!?!??!?」
私はバッとシャロネに抱きつくと、頭をぽんぽんしてから自室にすっ飛んでいく。
そうしてなんとか、思いついたアイデアを形にすることに成功するのだった。
――なお、シャロネは洗濯物を取り込んだ後、力尽きて尊死していた。
どうして――――
【お知らせ】
本作
「異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた」
の書籍化とコミカライズが決定いたしました!
また、合わせましてWeb版も続きを投稿する予定です。
題して「燃え尽き少女のアオハル」。
書籍を出版するレーベル様などの情報に関してはもうしばらくお待ちください。
Web版の連載再会は近日中の予定です。
合わせて、よろしくお願いいたします。