異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
突然のことでびっくりさせてしまうかもしれないけど、なんか愛弟子が増えた。
特に何かをした覚えはない。
なのに気がついたらアルマちゃんという子が私の愛弟子ということになっていたのである。
これは一体どういうことなのだろう。
ルクスラちゃんが「マジですかこいつ」って顔で私に「マジですかこいつ」って言ってきたことから察するに、私が何かをした結果らしい。
まぁ、別に愛弟子は増えてもいいんだ。
年下の可愛らしい子だし、何より本人も非常にやる気満々といった感じ。
実に微笑ましく、教え甲斐がある。
そういうことなら、見に覚えはないけど一肌脱いてみようじゃないか、というわけ。
でもなぁ、なんていうかなぁ。
アルマちゃん、絶対いいとこの子だよね?
まず着ている装備と背中の大剣が、どうみたって高級品だ。
そこらの新人冒険者が持ち歩けるものじゃない。
こりゃあいいとこの子でしょう。
きっと私みたいに、実は貴族令嬢っていう過去があるに違いない。
まぁ、なぜか私は正体を疑われたことはないんだけど。
なんでだろうね?
ただ、意外にも一般常識についてはしっかりしていた。
貴族にありがちなわがままはほとんど言わないし、物事の道理ってやつもわきまえている。
なんならアルマちゃんにしたって、この装備と大剣さえなければ普通に正体を隠せたんじゃないか?
まぁそもそも、そうでなきゃどこかのいいとこの子が一人で冒険者にはならないか。
なんて思いつつ、私はいつの間にか愛弟子になったアルマちゃんと、ダンジョンへやってきていた。
「というわけで、ここがこのフェニハナの街のダンジョン、その上層だね」
「わぁ……ここが本物のダンジョンなのね……連れてきてくれて本当に嬉しいわ、
「そのお師匠様っていうのは……いやまぁ、いっか」
ゴツゴツとした岩肌の壁が突き当りまで伸びる通路。
ダンジョンとしてはごくごく一般的なその場所を、なんだかアルマちゃんは感慨深げに眺めていた。
「ダンジョンは初めて?」
「ええ、そうなの! それに、新人は一人でダンジョンにもぐれないと聞いていたから、まさか冒険者になってすぐこうしてダンジョンに来れるなんて、光栄だわ!」
「まぁ、直ぐになれちゃうと思うけどね」
基本的に、新人がダンジョンにいきなり潜るのは危険だ。
なので戦闘の発生しない依頼をこなして、少しずつなれていくのが普通。
例外として、私みたいな先輩が引率としてついてきた場合と、一定以上の実力を持つ新人達がパーティを組んだ場合は許可が降りる。
私の場合、フォッサルのメンバーとパーティを組むことができたから、最初からダンジョンに潜ることができた。
当時はまだ、フォッサルって名前はなかったけどね。
「それにしても不思議だわ……こんな広大な空間や、魔物、そして宝箱がどこからともなく湧いてくるなんて」
「ダンジョンってそういうものだからねぇ。ダンジョンは魔力が固まってできた……みたいな知識方面の講義はいる?」
「してほしいわ! お師匠様からいただける薫陶なら、たとえすでに知っていることでもいただきたいの!」
「ああ、知ってはいるんだ」
なら、一から詳しく説明する必要はないだろう。
ダンジョンは魔力のたまり場で、故に魔物や魔道具がそこに発生する。
ダンジョンの宝箱から出てくるのはすべて魔力を纏った物品で、そこに例外はない。
みたいな話をしながら、先に進んだ。
「む……」
「お師匠様、どうかしたの……いえ、これは……魔物……?」
「お、よく気づいたねぇ。そうだよ、あの通路を曲がった先に魔物がいる。多分ゴブリンかな?」
「ゴブリン! あの汚らしくていやらしい魔物のことね!」
「どういう覚え方をしてるんだ!」
別にゴブリンはやらしいことなんてしないから!
なぜかこの世界でも、創作のなかでそういう扱いを受けているだけで、現実のゴブリンは決してやらしいことなんてしません!
シャロネよりずっと健全だ!
まぁ、汚いし臭いのは事実だけど。
「んー、そうだね。アルマちゃんの装備なら、ぶっちゃけどれだけゴブリンに叩かれても痛くないでしょ」
「ええまぁ……そうね。なんだか身も蓋もない言い方だけど……」
「じゃあ、折角だしゴブリンと戦ってみよう。アルマちゃんなら問題なく勝てるはずだ」
「いいの!?」
「本当はダメなんだけど――内緒だよ?」
人差し指を口元に当てて、シー、とジェスチャーをする。
この世界でも通じる秘密のジェスチャーだ。
するとアルマちゃんはなんだか顔を赤くして、それからぺちぺちと頬を叩いて気合を入れ直した。
「そういうことなら……お師匠様の期待に応えるわ!」
そしてアルマちゃんは、背中の大剣に手を伸ばす。
大剣は魔道具かなにかで鎧に装着されているような感じらしく、アルマちゃんが掴むとかちゃっという音がして鎧から剣が分離する。
なんかかっこいい。
そして両手でぐるんと大剣を振り回しながら――私には当たらないよう注意してくれる、かわいい――アルマちゃんはそれを構えた。
こう、サンライズなポーズで。
かっこいい!
『グギャア!』
とかやっていると、通路の向こうからゴブリンがやってきた。
数は一体、ちょうどいい。
もし複数いたら、先に私が露払いをしていただろう。
何にしても、必要ないなら燃え尽き女子としては楽で助かる。
そして連中は単純なので、私たちをみたらそのままためらうこと無く突っ込んできた。
「推して参る!」
掛け声とともに、アルマちゃんが飛び出す。
すると驚くことに
あまりのアルマちゃんのパワーに、耐えられなかったのだろう。
剣を持つ所作といい、この踏み込みといい、アルマちゃんはとにかくパワフルだ。
年若いこともあって小柄な私より更に小柄なのに、自身の身長並の剣をゆうゆうと構えている。
そして、全身を回転させるように使って――剣を振り抜く!
結果、地面に大きなクレーターが誕生した。
「おわー」
思わず声が出てしまうくらい、圧倒的な光景だった。
砂煙が巻き上がり、ゴブリンの姿は見えない。
アルマちゃんは剣を振り下ろした状態のまま、込めた力を呼吸とともに吐き出す。
食いしばった歯の隙間からこぼれる吐息、完全にパワータイプのそれだ。
ようするに――
「
いやちょっと興奮して叫んでしまった。
なにそれ、浪漫!
クソデカ武器を振り回す少女!
これを浪漫と呼ばずになんと呼ぶ!?
いやぁ、ええもん見ましたわ!
「すごい! かっこいいよアルマちゃん! いやぁ、いい剣の振り抜きだった!」
「え、あ……か、かっこいい……?」
「そうそう! いやぁすごかった! いいもの見せてもらったよ!」
「そ、そう……かっこいいなんて、初めて言われたわ」
少しだけ気恥ずかしそうなアルマちゃん。
まぁ、貴族令嬢にとってかっこいいなんて一番呼ばれることの少ない賛辞だろうしなぁ。
とはいえ、喜んでくれたなら何よりだ。
「ああいえ、初めてではなかったかも……?」
「そうなの?」
「どうかしら。よく覚えてないわ。……そんなことよりお師匠様! どうだったかしら、私は見ての通り立派にゴブリンを退治できたのよ!」
「もちろんすごいよ! 何と言っても動きにぜんぜんためらいがなかった! 慣れてるんだね!」
「ええ、鍛錬の成果だわ!」
そうして、キャイキャイと二人で盛り上がる。
いやぁ微笑ましいですなぁ、アオハルですなぁ。
なんてちょっと我が事ながらに嬉しくなっていると――
「――――ん?」
私はふと、あることに気づいた。
なんか、気配がするのだ。
それは――そいつらから感じる”魔力”は、先程感じたそれとよく似ている。
ちょっと違うものもあるけれど、要するに――
「……ゴブリンが、群れをなしてる?」
ただし、数は多分……
多くない!?