異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
時折、無性にドラゴン肉が食べたくなることがある。
正確にいうと死ぬほど高級なお肉を食べたくなるのだ。
お金ならある、シェリブロの原稿料をはじめとした各種報酬という多分一生かかっても使いきれなさそうな金が。
でも、ファンタジー世界の場合、そもそも肉を入手できるのかっていうのがいちばんの問題だ。
アイテムボックスのおかげで物流に関しては現代以上の水準を誇るこの世界でも、物がないんじゃ運びようがない。
そこで私はギルドでドラゴン肉を買い取るという常設の依頼を出したり、サンフラのオークションでドラゴン肉を落札したりしてストックを作るようにしていた。
しかし、残念ながらここ最近、そのストックが切れてしまっていたのだ。
まあそのうち入荷するだろうとタカをくくっていたが、私のお肉欲求が先に来てしまった。
こうなると、どっかしらでドラゴンが出現したという情報を聞き出して、その討伐に向かう必要がある。
めっちゃくちゃ面倒臭いけど、それでも食べたいという欲求は止められない。
正確にいうと、普段から燃え尽き気質な私は、やる気がでた時に行動しないと一生行動しないので、やる気が出た場合は積極的にそれを行動に移すことにしているのだ。
というわけで、ドラゴン討伐に出かけた私だが、思わぬトラブルに遭遇してしまった。
◼︎
「うぎゃー! 最悪だー!」
具体的なトラブルは、一言で言うと嵐である。
めちゃくちゃに降り注ぐ雨の中をかけながら、こんなことなら着の身着のままで出かけず雨対策をしておくべきたったと私は今更ながら後悔していた。
いやね、空を飛んでたらそれはもうすごい土砂降りに見舞われてしまったのだ。
そこで雲を突き破って雨を抜けるか、雨宿りをするか迷った結果、雨宿りを選択。
ドラゴンが目撃されたという山の麓にある森に逃げ込んだんだけど、そこでうっかり足を滑らせる私。
結果、私のいつもの一張羅はものの見事に泥だらけ、参ったねこりゃ。
「急げ急げ! あっちに灯りが見えたぞー!」
で、なんで森の中に入ってもなお走ってるのかといえば、灯りが見えたから。
こんなところで何してるんだか知らないけど、魔術でともしたであろう灯りが、土砂降りの視界ではっきり目に入ったのだ。
もうすっかり夜も更けていて、それ以外に明かりと呼べる明かりもない。
こうなりゃそこで雨宿りしてもらおうという魂胆。
もし悪い奴らだったら、
「あった!」
そうしてたどり着いたのは、木でできたコテージだった。
森の少し開けた場所に建てられたコテージである。
はっきりいうと、場違い。
鬱蒼と木々の生い茂る森に建てるようなもんじゃないぞ。
だからこういうのは大抵、アイテムボックスに収納していたものを取り出して設置してるんだ。
ほんと便利だね!
「すいませーん」
何にしても、私はコテージの戸を叩く。
開けてくれるかな、善良な人たちだといいな。
と思いつつ待つことしばし。
多分向こうも警戒しているだろうことは窺える。
しかしこういうコテージにはインターフォンみたいな物が付いていることが多い。
泥だらけで駆け込んできた私を見れば、少しは警戒も解いてくれるんじゃないか、と打算していたら、
「アンタ、大丈夫かい!?」
なんだか、豪快という言葉を形にしたかのような長身ナイスバディのお姉さんが慌てた様子で扉を開けてくれた。
それから、私はお姉さんに連れられてコテージの中に入る。
そこでタオルを渡されて、数人の女性に囲まれた。
全員、私を心底心配している様子だ。
「アンタ……こんなところでどうしたんだい? ツレはいないのかい?」
「ありがと、ツレはいないかな。一人で来たんだ」
「一人で……!」
……なんか違和感あるな?
女性たちは、私を見てから互いに深刻そうな雰囲気で顔を見合わせている。
「じゃあ、何しにこんなところまで来たのさ」
「ドラゴンだよ、この森の奥にある山で、ドラゴンが出るんでしょ」
「ドラゴン……!」
……なんか空気が一気に緊張へ傾いたぞ。
女性たちは、私の相手をしているお姉さんを残して、少し奥に引っ込むとひそひそ話を初めた。
なんだなんだ、一体何の話をしているんだ、と少しだけ耳を澄ますと――
「きっと、ドラゴンに身を捧げに来たんだ」
女性の一人が、そういった。
えっ。
「ここのドラゴンといやぁ、女好きで女を攫って喰うって話だ。それが高級な宝石を持っていればなおよしと来た」
「見なよあの子の相貌を、あんまりにもキレイすぎる。きっとどこかのご令嬢だ。ドラゴンが女を捧げろっていい出して、それで自分から名乗りを上げたに違いない……なんて不憫なんだ!」
えっえっ。
なんか、凄まじい誤解をしているんじゃないかこの人たち!?
いや、微妙に誤解じゃない部分も微妙に混じってるけどさ。
確かに元貴族令嬢だけどさ!
「だが、それにしたって一人ってのが変だ。普通、近くまでは護衛兼監視が着くもんじゃないの?
「――裏切られたんだ。みてみなよ、あの泥だらけの服。いくら土砂降りの雨の中だからって、普通にしてたらあんなふうにはならない。裏切られた護衛達に……まさか……」
おおいそれは普通に失礼だな!
こちとら清い身だわい!
あと普通にしててもすっ転んで汚してわるかったね!
ああいや、これは普通なら聞こえていないはずの会話なんだから、失礼なのは聞いている私の方か。
それからも、なにやら女性たちはあーでもないこーでもないと、ろくでもない想像を広げまくった。
せめて泥くらいはなんとかしたほうが、まだ彼女たちの想像を掻き立てなかったんだろうけど、後の祭りだ。
そうこうしていると、私の体を拭いていたお姉さんが感極まった様子で私を抱きしめてきた。
「大変だったねぇえええええ、もう安心していいからねぇええええ!」
「うわっ」
思わず声を上げる。
そりゃ、かなり大柄なお姉さんが声を上げてないてるんだから、そりゃ驚く。
他の女性陣が驚いてないところを見るに、かなり涙もろいタイプなのだろう。
情に厚いというか、情に脆いというか。
まぁ、なんとなく見た目通りの豪快な性格であることは容易に想像がつく。
「アンタが犠牲になる必要はない、ないんだ! なにせ、そのドラゴンはこれからアタシ達、”紅の簪”が討伐して見せるからね!」
――聞くところによると、お姉さん達はドラゴン討伐を目的とした冒険者パーティらしい。
お姉さんの名前はジェナ、二級冒険者で近接戦闘を得意とするそうな。
他にも二級冒険者から三級冒険者で構成された、優秀なパーティである。
とはいえ、流石にフォッサルからは一段落ちてしまう。
今回討伐する予定のドラゴンと戦うなら、本当にギリギリの死闘が予想されるパーティだ。
であるなら、私も協力して戦ったほうがどう考えても楽なんだけど――
「あの……」
「大丈夫! 大丈夫だからね!」
「えっと……」
「このコテージは安全よ! あたし達がドラゴンを討伐する間、このコテージで待っていて!」
「そうじゃなくて……」
「任せておくれ! 何の心配もいらないからね! アンタはもうアタシ達の仲間みたいなもんさ!」
ぜ、ぜんぜん話を聞いてくれない……!
くそう、女三人寄ればなんとやらとはよく言ったもので、マジで話に割ってはいる隙がない!
彼女たちが善人であることはよく分かる。
私が紛らわしい姿で、こんな夜分に押しかけた私も悪かったけど!
それはそれとして……話を聞いてくれー!
――結局。
もう夜も遅かったことも在り、話を聞いて貰う前に私の眠気が限界を迎えた。
なんか、それをここまでずっと緊張していた糸が切れたとか誤解されそうだけど。
燃え尽き少女は、こういうまどろみには耐えられねぇんだ。
まぁ、明日状況を説明すればいいだろう。
というわけでおやすみなさい――すやぁ。