異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
――――そして思いっきり寝坊して、紅の簪パーティにおいていかれました。
「やっっっっべ!」
説得とかしてる暇ないじゃん!
目が冷めたら、思いっきりベッドの上だったよ!
寝過ごしたァ!
「うおおおお! 急げ急げ!」
手短に身支度を整える。
服は魔術の類で洗浄されていたため、着替えの必要はなかった。
大事なのはどちらかというと、コテージへの対応だ。
周囲に結界を貼って、魔物が侵入しないようにする。
この辺りの魔物がどれくらいの強さかは知らないが、これとコテージそのものにかけられた結界がアレば大抵の魔物はどうにかなるだろう。
寝る前にジェナさん達が、コテージにいれば安心だって言ってたからね。
「”灼緋の天翼”!」
いつも通り翼を展開すると、すっかり晴れた空に向けて躍り出る。
コテージは山の入口あたりに設置されており、おそらく紅の簪は一日でドラゴンの元まで行って、何事もなければ日帰りでコテージまで戻ってくるスケジュールを組んでいるだろう。
ドラゴンは大抵山の頂きにいるものだから、出かけたのはかなり朝早くのはずだ。
時間的にそろそろ頂上に到達していてもおかしくない。
前世のそれと違い、身体強化がアレば山の中というのは走りながら行軍することもできる。
魔物に襲撃された方が消耗するため、素早く駆け抜けてしまうのが山にアタックする上での鉄則になっていた。
「むっ、戦闘痕!」
それでも、魔物との戦闘は避けられるものではない。
急いで山を沿うように飛んでいたら、途中にここ最近できたらしい戦闘痕を見つけた。
ここ最近というか、ついさっきと言ったほうがいいだろう。
そこはもう山の中腹を過ぎており、痕跡を見たところできたのは数時間前だ。
「こりゃ、もうすでにドラゴンのところまで到達してると見たほうがいいかな」
さっさと頂上へ向かったほうが良さそうだと判断し、再び飛翔する。
私の天翼はかなりインチキな飛行手段なので、すぐにでも目的地へたどり着くことができるだろう。
それにしても、個人的に思うのはそもそも紅の簪は何を目的にドラゴンを討伐しようとしているのかって話だ。
「悲壮な覚悟でドラゴンの元へ私がやってきた……ってあの人達は解釈してたみたいだけど、それはあの人達も同じだよな……」
まず、先に聞いていたドラゴンの強さに大して、あの人達の実力はかなりギリギリだ。
聞いていた強さ通りなら、なんとか死闘の果にドラゴンを倒せるかなってくらい。
もし仮に、ドラゴンが何か能力を一つでも隠してたら、多分彼女たちは勝てないだろう。
そういうことをする必要があるってことは、必然的に紅の簪にも事情があるはず。
あのコテージはどう考えても高級品だ。
それをもっていて、高い等級の優秀な冒険者パーティが、そこまで無茶をする必要があるとは思えない。
「というか、全員顔良かったよなぁ。悪い男から身を守るために女性冒険者がパーティを組むってのはよくあることだけど。あそこまでの美人揃いだと何かと面倒が多そうだ」
フェニハナにも、フェニハナガールズことフェニガという女性冒険者パーティがある。
魔力のお陰で男女差があまり存在しない世界だけど、その分女性は自分たちの力だけで身を守ろうとする傾向が強い。
その点から言うと、紅の簪メンバーは如何にも典型的な女性冒険者パーティだ。
何より、彼女たちから強い連帯感のようなものを感じた。
顔がいい女性冒険者の集まりで、お金を持っていそうで、そして強い連帯感を持つ。
この情報から、なんとなく想像できる出自が一つあるんだけど――
「ドラゴンを倒そうとする理由は、やっぱりわからないな」
何にしても、そろそろ山頂だ。
そこでは複数の魔力が激しくぶつかり合っているらしく、ビリビリとした感触が肌に伝わってくる。
すでに戦闘は始まっているらしい。
気合を入れ直すと、私は一気に山頂よりも高い場所に躍り出た。
「紅の簪メンバーは!?」
見下ろす――そこには、かなり不味そうな状況が広がっている。
戦っているのは、ジェナさんだけだ。
それ以外のメンバーは、壁に激突して倒れ込んだり、地面に倒れ伏したりしている。
ただ、幸いなことに息はありそうだ。
というかもし仮に、死にそうだったらジェナさんは撤退を選択しているだろう。
仲間たちが倒れ伏してもなおジェナさんが撤退を選択しないのは、ここでドラゴンを倒し切るつもりだからだ。
無論、失敗した場合の保険もあるだろうけど。
私は、ここで一旦状況の推移を見守ることにした。
ジェナさんの瞳は、今もなお戦意に輝いている。
彼女たちの矜持は揺らいでいないのだ。
「このままぶっ倒れちまいな……ドラゴン! アタシ達は……アンタを倒して竜殺しの称号を得る……!」
竜を殺すことは、冒険者にとって最上位の栄誉の一つ。
ドラゴンを倒せるかどうかで、一級冒険者に昇格できるかどうかが決まるというくらい、わかりやすい”壁”なのだ。
このパーティの目的は、そんな竜殺しを達成すること。
であれば、どうしてここまで必死なのだろう。
「アタシ達の
――ああ、なるほど。
ようやく全部納得がいった。
確かにそれなら、彼女たちが必死にドラゴンを倒そうとする理由も説明がつく。
であれば、やはり私が手を出すわけには行かない。
ドラゴンはすでに満身創痍だ。
おそらく、この一撃で決着がつく。
「オラァアアアアア!」
『グオオオオオッ!!』
ジェナさんとドラゴンが同時に吠えた。
そして、突撃するジェナさん。
対するドラゴンは、ブレスを選択したようだ。
口から、勢いよく炎が吐き出される。
ジェナさんはそれに対し、正面から突っ込むことを選択した。
ドラゴンも少しそれには意表を突かれたような反応を見せるが、すぐに気を取り直してブレスに力を込める。
そんなブレスを、ジェナさんは
ドラゴンを相手にするのだから、炎対策は当然しているということか。
そして――
「だあああぁっ!」
そんなドラゴンに、ジェナさんは得物の斧を勢いよく叩きつける。
――決着だ。
空を飛んでいたドラゴンが落下し、ジェナさんもその上に立ったまま地面へと着地する。
そして、倒れ込んでいる仲間たちに視線を向けて、
「勝ったぞ――――!」
雄叫びを上げた。
なんとも豪快だな。
そして、仲間たちもそんなジェナさんに倒れながらも笑みを浮かべている。
誰もが竜殺しの栄誉をその身に噛み締め――故に、油断していた。
「……っ! 危ない!」
唯一、それを客観的に観察していた私だけが、空から急速に接近する”何か”へ警告を発する。
するとジェナさんは、半ば反射的であろう速度でその場から横っ飛びする。
直後、ジェナさんのいた場所にもう一匹のドラゴンが舞い降りた。
「な、ぁっ……つ、番!?」
なんとか地面を転がって難を逃れたジェナさんが、降りてきたドラゴンを見てこぼす。
この山にドラゴンは二体いたのだ。
そしておそらく、今降ってきたドラゴンの方が雄。
先ほどジェナさんたちが戦っていたドラゴンよりも、一回り体が大きい。
雌の方はともかく――この雄のドラゴンは、おそらくジェナさん達では討伐できないだろう。
ましてや、すでに一戦終えた後の総力を使い果たしたこの状況では――
「クソ……ここまでかっ!」
いいながら、ジェナさんは地面に拳を叩きつける。
ドラゴンは、番を殺されたことで怒り心頭だ。
そもそも自分が周囲に迷惑をかけた結果、討伐の冒険者が現れたのが原因だろうに。
まぁ、そんなこと魔物に言っても仕方がない。
それに何より――
「――――”火竜の熱線”」
そろそろ私も、混ぜてもらおう。
放たれた一撃は、勢いよくドラゴンの土手っ腹に突き刺さる。
これ一撃ではまだ死なないだろうが、かなりのダメージになったはず。
「な、なんだい!?」
「ジェナさん。――ジェナさん達は負けてないよ。それは私が保証する」
「なっ、あ――」
空に浮かぶ私を見て、ジェナさんたちは心底驚いた様子だ。
だから私は、彼女たちを安心させるように宣言した。
「この、不死の竜姫ミツキが、君たちの健闘を称えよう!」
いいながら、私はドラゴンへ向けて、勢いよく飛び出した!