異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
空中で繰り広げられる不死の竜姫とドラゴンの戦いは、思わず息を呑んでしまうほどだった。
美しい、とこぼすものまでいたくらい。
きっと、紅の簪は一生その光景を忘れないだろう。
自分たちがドラゴンを退治したという事実とともに――
楽しげに、竜のごとく空を駆ける少女の笑みを、忘れることはないだろう。
そうして、しばらくの後。
ミツキはドラゴンを討伐した。
■
――この世界では、貴族だって時には冒険者となることがある。
私みたいな没落令嬢じゃなくて、今も家が残っている貴族が。
というのも、昔からこの世界は強い者が偉いっていう認識がそこそこ根強い。
だから、貴族も正体を隠して冒険者をして武勇を磨くなんて伝統が、時にあるのだ。
とはいえプロミア王国だとあまり見られない伝統で、少なくとも貴族令嬢が冒険者になるなんてことは普通ありえない。
隣国のサイフォス帝国なら、割とあるそうだけど。
「ジェナさんは、サイフォス帝国の貴族令嬢さんなんだね。で、他のメンバーはジェナさんの従者……と」
「……お恥ずかしながら、そうなるね。見ての通り、じゃじゃ馬のお転婆貴族なんだけど」
「そうかな? 見た目は十分気品があると思うけど」
あの後、倒した二体のドラゴンを、コテージへと持ち帰った。
ドラゴンの巣には色々と金銀財宝があるらしいけど、そっちは持ち主が他にいるから、ギルドに預けることとなる。
まぁ多少ネコババしても文句は言われないんだけど、貴族令嬢のパーティがやることではない。
私もお金には興味ないしね。
で、その後はジェナさんたちに「アンタあの不死の竜姫だったのかい」と心底驚かれた。
いやぁ、あそこで寝落ちしてなければ誤解はとけたと思うんだけど、まぁそこは言うまい。
「そういうミツキだって、十分どこかのお貴族様に見えるけどね」
「まぁー、そうだねぇ」
はい、お貴族様です。
まぁでも見ての通り、中身は燃え尽き
ジェナさんも多分、そうだと思うけど。
「にしても良かったのかい、ドラゴンの牙とか全部もらっちまって」
「いいのいいの。むしろ私としてはお肉をこんなりたんまり貰えちゃってラッキーって感じだよ」
んで、ドラゴンの素材に関しては交渉の結果お肉をすべて私が、それ以外を紅の簪が持ち帰ることとなった。
金額的にはどっこいである。
「それじゃあ、折角倒したんだしパパっと祝勝会とかしようよ。美味しいものとかお酒とかさぁ」
「お、いいねぇ。うちの子たちにも色々作ってもらおうか」
ジェナさんのパーティは、ジェナさん以外がジェナさんのお世話係というメイドさん過多なパーティ。
当然、料理に関してもその実力はプロメイドレベル。
こりゃあ期待できるぞ。
「……そうだ! ジェナさん達に料理を全部任せちゃうのもなんか悪いし、食べちゃおうよ――アレ」
「アレ……ってドラゴン肉かい。……いいのかい? ありゃお前さんが持って帰るもんだろう」
「いーのいーの、2匹分もストックがあれば、ここで一人一食分振る舞ったところで使う量なんてたかが知れてるし――」
知れてるし? とジェナさんが首を傾げる。
「私さぁ、いいステーキソースもってるんすよ」
そう言って、アイテムボックスからあるものを取り出す。
それは――
ジェナさんの喉が、ゴクリとなった。
■
さて、ドラゴンステーキ以外の料理に関しては、ジェナさんちのメイドさんチームがなんとかしてくれることになった。
私はお肉をいい感じにやいて、それを提供するだけでいい。
お料理上手令嬢としては、もう少し色々凝ったものを作りたくもあるんだけど、燃え尽き放蕩娘としては楽ができるなら楽をしたい所存。
ステーキはサクッと焼いた後、焼き石を用意して各自で焼き加減を調整してもらうことにした。
「本題はー、当然ー、ステーキソースー」
ウキウキで取り出したるは、大根と長ネギ、そして生姜。
これらを使って何をするかといえば、言うまでもないだろう。
「
大根おろしのたれを作るのだ!
前世でも散々お世話になった焼肉のタレを、この場で再現しようというわけ。
調味料に関しては一部代用品もあるけど、醤油という最強の調味料が顕現してしまえば、後のことはまぁ勢いでなんとかなる。
「まずは大根たちをみじん切りにして、それから調味料を混ぜましょう」
スタタタタ、と大根たちをみじん切りにする。
これ自体は慣れたもんで、あっという間に細かくできた。
次に醤油を初めとした各種調味料を混ぜていると――ジェナさんが後ろから覗き込んできた。
「へぇ、醤油かい。いいもん持ってるね」
「お、詳しいね。結構珍しい調味料だと思うんだけど」
「そうかい? シェリブロであんだけ使われてりゃ、今この大陸で知らないヤツはそういないと思うけど」
あ、シェリブロの読者さんでしたか……
いやまぁね、醤油を大陸に広める一環としてシェリブロでマーケティングしまくりましたからね。
一時期とんでもないブームになったそうだけど、ご家庭に根付かせるにはまだ足りない。
私が生きてるうちに、料理屋のテーブルに醤油が常備される未来が来てくれー!
「とか言ってる間にできた」
「おお、うまそうだ」
まぁ、後は調味料を加熱してからみじん切りにした大根と合わせるだけですからね。
そう手間のかかるものでもない。
――それから、メイドさん達が作ったサラダやスープ、パンといっしょにステーキを美味しくいただく。
「うっっまあい!」
「こりゃいいね。大根おろしのたれがステーキによく絡んで……ほほっ」
大根おろしの独特な食感と、甘じょっぱい味がステーキを引き立てている。
今回倒したドラゴンは、以前倒したレッサードラゴンよりは上位のドラゴンだ。
肉質も非常に柔らかく、輸入の牛ステーキと国産の牛ステーキくらい噛み応えが違う。
しばらくはこいつで、肉欲を満たせるってわけだ。
「おかわり、いかがかしら?」
「あ、いただきまーす。うーん、ワインもいいもの使ってるじゃないですか」
「そりゃ、戦勝記念だからね。……アタシ達にとっては、最後の」
おかわりのワインをメイドさんに注いでもらって、いい気分になりながらジェナさんの話を聞く。
こっちも少し酔いが回ってきたのか、どこか赤らんだ顔で寂しそうに笑った。
「じゃあ、やっぱり嫁入りするんだ」
「十八になったら、戻ってこいって言われててね」
「年下!?」
「え?」
「あ、うんごめん、続けて続けて」
ジェナさん年下だったんだ……いや私もそう違わないけどさ。
シャロネやマグナと同い年かぁ……マグナも大概年齢詐欺だな、そんなもんか。
「アタシとしちゃあ、このままずっと冒険者を続けてたいんだけどねえ。そうも言っていられない。そもそも冒険者って職業自体があんま長く続けるモンでもないしね」
「だねえ、一般人でも二十超えたら引退したりする人も出てくる」
それこそマグナなんかがそうだけど、冒険者っていうのは歳をとってくると結婚やら何やらで続けるのが難しくなってくるものだ。
そうでなくとも、危険なその日暮らしより安定した職場の方がいいってことで、兵士に就職する人もいる。
何より、魔力があるから前世ほどではないけど、人というのはいつか衰えるものだ。
冒険者は長く続けても三十歳まで。
そんな人は結構多い。
無論、冒険の途中で命を落とす人もいる。
「だからまぁ……いちばん寂しいのは、あいつらと一緒のテーブルに座れなくなることかな」
言いながら、ジェナさんは仲間たちの方を見た。
メイドさんたちは給仕こそしてくれるものの、食事に関しては一緒に食べている。
これが家に戻ったら、そうもいかなくなるんだろう。
「たとえそうだとしても、このパーティの絆は永遠だと思うけどね」
「ありがとね、ミツキ」
「いえいえ。……ほら、私のことはいいからさ。向こうに行ってあげなよ」
「うわわ」
私がジェナさんの背中を優しく押す。
するとジェナさんは慌てて立ち上がり、メイドさんの視線を集めた。
「……そうだ、これだけは聞いときたかったんだけど。ミツキはこれからも冒険者を続けるのかい?」
「もちろん、続けられるだけ続けるつもりだよ。まぁ、気が向いてる時だけね」
「はは、聞いてた通りの放蕩娘だ」
するとジェナさんは私の方を向いて、ニカっと楽しげに笑った。
「じゃあアンタは、アタシ達の分まで頑張っておくれよ」
なんとなく、目を丸くする。
見ればメイドさんたちも楽しげに笑っていて、これだと私が背中を押したはずなのに、彼女たちがこっちの背中を押されたみたいだ。
でも、悪い気分じゃない。
「もちろん」
そうやって私も微笑みながら返事をすると、ジェナさんはさらに破顔してから仲間たちの輪に入っていく。
私はその様子をほっこりした気分で眺めながら、美味しい料理に舌鼓を打つのだった。
っぱおろしのタレっしょ