異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
「というわけでさぁ、帝国の貴族令嬢パーティが最後の思い出作りにドラゴン討伐に来てたんだよ」
「それは……まぁ……なんとも豪快なお国柄ですわ」
「あ、一応いっておくけど、このことは秘密だからね」
「心得ております、お嬢様」
紅の簪パーティとのパーティ(激ウマギャグ)を終えて私はフェニハナまで帰ってきた。
そしてシャロネに、自室で語って聞かせているのが今だ。
ドラゴン討伐をして、パーティをしたのが昨日。
そこからふらふら空を飛びながら帰ってきたのが今日、なんやかんや疲れてたらしく爆睡して、起きたらすっかり夜になっていた。
ちょうどそこにやってきたのが、シャロネ。
私の私室の前でカギを開けようとピッキングしていたところを発見した。
マジで殴り飛ばしてやりましたよ、ふん。
まぁ、そんな一幕はあったものの、現在は普通にシャロネに髪を整えてもらっていた。
風呂上がりさんである、私。
「まぁそもそも……元々他人に言えないことも多い関係だし、一つ増えたところでどうってことないか」
「擬態スライムの件など……ですわね」
「いやそれはそうなんだけどそうじゃなくて……」
「でもアレはすごかったですわ……ぐへへ」
「そこは否定しないけどさ……ぐへへ」
だってさぁ、すごいんだもん。
ただでさえデカいと思ってたけど、男爵ってアレで着痩せするタイプなんだぜ?
男装してる時にどうやってあそこまでしまい込んでるのか、私は不思議でならないよ。
おっといけない、話がそれた。
「しかしまー、冒険者引退かぁ、考えたこともないなぁ」
「お嬢様はおそらく、引退を明言することなくそのうち冒険者からフェードアウトしていくかと思いますが」
「私の未来を高精度に予測するのやめてもらえる?」
いやそうなるだろうけどさぁ、多分これからも私は燃え尽き続けるだろうけどさぁ。
そこはなんかこう……あるじゃん。
「色恋とか……するかもしれないじゃん!!」
「はっ」
「本気で鼻で笑った!?」
「二度とたわけたことをほざかないでくださいまし」
「そこまで言う!?」
ひどいぞひどいぞ、どうしてみんなして私がそういう話をするとこっちを辛辣な目でみてくるんだ。
いいじゃないか、私だってちょっとくらいそういう想像をしても。
え? 実際に告白されたら? 丁重にお断りしますけど……想像はしても実際にそういう状況になったらノットセンキューである。
だって男だぜ?
「ふん! ふん!」
「うわっ! すごい勢いで髪に櫛が入っていく! 怖い怖い! 別に痛いとかそういうことはないけど怖いって!」
シャロネがお怒りだ!
基本私の言う事はだいたい聞いてくれるシャロネですら、色恋に関してはこうなんだ。
私のアオハルに、恋の一文字はきっと一生刻まれないんだね……
別にどうでもいいけど。
「シャ、シャロネはこれからどうするの? 流石にいつまでも冒険者を続けられるわけじゃないでしょう」
「私は……そうですね」
私に関しては、正直今のままでも別にそこまで困ることはないだろう。
困らないだけの実力と、お金がある。
ただ、シャロネの場合はどうだろうか。
一級冒険者というのは、一般的に超一流と呼ばれるにふさわしい実力者だ。
でも、この世界には特級という強さの壁があって、多分一生何者にも自己を揺るがされることなく生きていくには、それくらいの実力が必要だ。
そうでない人間は、成長や衰え、人間関係の変化によってどうしても考えを変えていかざるを得ない。
「……まず、マグナさんの結婚までもう二年もございません」
「ああ……一番大きい変化はそこだろうねぇ」
シャロネ個人がどうこうというわけではないが、シャロネが所属するフォッサルはリーダーのマグナが二十になったら結婚することになっている。
今のマグナ――とシャロネ――はもう十八だから、猶予はほとんど残っていない。
数年前まで、フォッサルは新人の集まりだったと思うのだけど、時が経つのは早いものだ。
「前々から、マグナはフォッサルの運営を別の形に移行するつもりらしいけど、いつ頃からそうするの?」
「もうすでに準備は始まっていますわ」
「ああやっぱり、内部では色々動きがあるんだ」
マグナは結婚したら、冒険者としての活動を抑えていくことになっている。
それでも冒険者をやめるわけではないし、家族を養っていくためのお金は必要だ。
そこで考えているのが――
「新人を受け入れるんだっけ」
「はい、正確に言うと新人の養成をパーティのメイン業務にしようという動きがございまして」
今までのフォッサルは、ただ純粋に冒険へ出かけるだけのパーティだった。
ダンジョンや秘境を探索して、宝物やらなんやらを持ち帰るごくごく一般的なパーティ。
これが大規模なものになってくると、後輩の教育といった側面が加わってくる。
これの何がいいって、ギルドから報酬が出るのだ。
もともとギルドには新人を講習するという上位者向けの依頼があって、その報酬は結構いい。
これを一つのパーティが新人を囲って集中的に鍛えるのが、冒険者パーティにおける後輩教育だ。
ギルドの業務を代行しているわけだから、報酬だって当然でる。
「私たち現行メンバーをパーティ内でいくつかのパーティに分け、それぞれで指導と冒険を同時に行うとかなんとか」
「……ジョセフとアンヌにできるの? それ」
「そこが問題なのですよねぇ……」
あの二人はなんというかこう、致命的に人へものを教えるのが向いていない。
地頭はいいんだけどねぇ、それを相手に伝える手段を持たないっていうか。
「二人の冒険者としての実力は本物ですし、あの感性は素直に見直すべきところがあります。特にアンヌは胸が大きくてたまんねぇですから」
「おい待て」
「ですから、二人の言葉をいい感じに伝えられる第三者がいれば、色々と成り立つと思うのですが」
「待てって言ってんだろコラ」
何途中で欲望をさらけ出してから、軌道修正を図ろうとしてるんだ。
「そ、そういえばお姉様はここ最近、弟子を取ったのでしたよね?」
「え? ああうん、アルマちゃん。……話を反らしたな?」
「またその……珍しいですね、お姉様が他者と積極的に関わろうとするのは」
「んー、そもそも弟子を取ることになった経緯について、ちょっと覚えがないんだけど」
「は?」
おっと、これは藪蛇だった。
シャロネが欲望をさらけ出したことと相殺してチャラってことにしようじゃないか。
「……なんかこう、眩しかったんだよねぇ。ここ最近はそういうことを思う機会ってあんまりなかったんだけど……ラスルくんの時くらいかな?」
「はあ……」
「……思い出しちゃったのかもね」
髪を梳かしていたシャロネの手が止まる。
これは、シャロネも無関係ではないことだ。
だから少しだけ、考えてからシャロネは口を開いた。
「――お嬢様は、フォッサルに入らなかったことを後悔しておりませんか?」
それは、私が冒険者になってから、おそらく一番大きな決断をした時の話。
私とシャロネ、それからジョセフにアンヌとマグナ。
最初のうち、私たちは五人で冒険をしていた。
誘われたからだ。
でもいつしか私はパーティに参加しなくなり、残った四人が冒険者パーティとなったのである。
理由はとても単純で――私が燃え尽きてたから。
「ううん、別に。もともと私は積極的な冒険者活動をするつもりもなかったから。それに別に正式なメンバーってわけじゃないけど、フォッサルとはたまに冒険するし」
「……そうですわね」
「今の距離感が一番いいなぁ、と私は思っています」
そのうえで、一つだけ。
「たださぁ、思うこともある。冒険者ってさ――青春なんだよね」
「青春……ですか」
「そう、アオハルとも言う。まぁとにかく――冒険者はどうしたって時間制限のある職業だ。若いうちしか、本気で取り組めない」
家庭をもったり、衰えが来たり。
いろいろな理由で、人々は冒険者を続けられなくなる。
冒険者を引退すると、青春が終わるのだと私は思っていた。
「――じゃあ、燃え尽きてる私の冒険者活動ってなんだろなぁ、って」
「お嬢様……」
「燃え尽き少女のアオハルは、一体どこにあるんでしょ、ってな話ですねぇ」
その言葉に、答えはない。
そもそも青春なんて、人に語って聞かせるものでも、人から御高説を賜るものでもないのだ。
勝手に生えて、勝手に過ぎていく。
そんなものに意識を向けても仕方がないし、意味もない。
でも――もうすぐ私たちのアオハルは、終わる。
フォッサルが形を変えれば自然とそうなっていくだろう。
その時私は――一体どんな人生を選ぶのだろうか。
正直、答えなんてとてもじゃないけど、でそうにはなかった。
今回がアオハル編の1つ目の区切りとなります。
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