異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
ラスルくんのお家は、サンフラの街でも結構有名なレストランだ。
芸術の街サンフラには、食という芸術文化も立派に根付いている。
上は貴族や王族が利用するような超高級料理店から、下は大衆食堂まで。
それはもう、多種多様な店が揃っていた。
中でもラスルくんのレストラン「ヒラソル」は、知る人ぞ知る超名店。
貴族すらもお忍びでやって来て、庶民でも手が届く料理を提供しているという。
そんな、真の意味での大衆を呼び込む食堂。
それがヒラソルだった。
「ようこそおいでくださいました、ミツキさん」
「いえいえ。この街に来たらやっぱりここに寄らないと、サンフラに来た気がしないからね」
暇にあかせてサンフラの街を訪れた私は、今日も今日とてヒラソルに通っていた。
サンフラで遊ぶ時の昼食は、基本ヒラソル。
これが私の鉄則である。
まぁ例外もあるけど、今日はその鉄則に従ってこの店にやってきたのだ。
そして、挨拶をしてくれた見知ったウェイトレスに注文を頼みつつ、料理がやってくるのを待つ。
店には、昼を食べに来た職人だったり、冒険者だったり、家族連れがいっぱいいる。
繁盛しているようで何よりだが、同時にあまりにも多種多様な人種が入り乱れていて、アクシデントが起きたりしないか心配になる。
たとえば――
「なにみてんらよ! 見せもんじゃねぇぞ!」
「ひっ……」
こんな具合に。
店の隅の方で飲んだくれていたチンピラが、たまたま目のあった子どもに難癖をつけている。
こりゃどうにかしたほうがいいかな、と考えつつ周囲を見渡すと驚くほど人々は落ち着いた様子だった。
とはいえ、だからといって止めないわけにはいかない。
なんて思ってたら――
「はいよ、邪魔する……ぞ」
一人のコックが、かかと落としをガンつけていたチンピラに後ろから叩き込んだ。
もっさりとしたヒゲが特徴的な筋骨隆々のおじさん。
見覚えはある、彼はラスルくんのお父さんのドラファルさん……このレストランの店長さんだ。
見ての通りのパワーの持ち主な彼が、さくっと制圧してしまうからこの店は平和なんだろう。
おそろしや。
そのままドラファルさんは、料理を手にしたままこっちに向かってきた。
慌てて、立ち上がりかけていた私は席につく。
「悪いな、ミツキの嬢ちゃん。こっちの面倒事にかかわらせちまいそうだったな」
「いや別に、大丈夫だよ。ドラファルさんこそ大丈夫?」
「俺ぁこのくらいじゃどうってこたねぇ。んで、こいつが注文の料理だぜ」
「ありがとー」
運ばれてきたのは、エビや貝をふんだんに使ったブイヤベースのような料理。
スペインのサルスエラという料理が近いだろうか。
ヒラソルはこういった、スペイン系の料理を得意としているのだ。
残念なことにこの大陸ではお米が希少だから、パエリアのような料理は存在しない。
けど、どれも非常に美味しい。
特にこのブイヤベースっぽい料理は、これまたサルスエラで使われるアーモンドやパンを使ったピカーダというペーストを使用しており、独特のコクが特徴だ。
なお、ヒラソルには普通にシチューやスパゲティなんかの定番メニューもあるぞ。
先日ラスルくんが大々的にサンフラで流行させた焼麺もだ。
メインがスペイン風ってだけで、基本はオールラウンダーなレストランってことだね。
「うーん、いい香り。それにしても、ドラファルさんが直接運んでくるなんて珍しいね」
「ああちいと、嬢ちゃんに相談したいことがあってな。食べながらでもいいから聞いてくれるか?」
「ん、いーよ」
で、実際に食べながら聞いたところによると、どうやらラスルくんの様子が最近変なのだそうだ。
なんでも、夜にこっそり家を抜け出して、何かをしているとかなんとか。
昔から夜にこっそり厨房にたって、練習をしたり皿洗いをしているのがバレて怒られつつ褒められたりしていることもあったそうだ。
だからラスルくんが夜中にこっそり……ということ自体はあまり心配はしていないらしい。
けど、どこに行っているのかわからないってのは問題だ。
追いかけようにも、ラスルくんはうまい具合にそれを躱してしまうらしいし。
「今、ラスルくんは?」
「厨房で鍋振ってるぜ、それがどーしたよ」
「んー」
ここ最近のラスルくんを思い出す。
先月知り合ってから、ラスルくんは日に日に見違えるように成長している。
料理の腕もそうだが、身長も伸びたようで小柄な私は、いつ彼が見下ろしてくるようになるか戦々恐々だ。
後は――
「あー、もしかして。こっそり鍛錬してるのかな?」
「鍛錬?」
「そう、お父さんみたいになりたいんだと思うよ」
というのも、さっき見た通りこの店は結構客の間でトラブルが多い。
治安が異世界な街で、チンピラからお忍び貴族まで一同に介する店なんだ。
どれだけお行儀の良い店でも治安の一つや二つ、悪くなって当然である。
それをどうにかしているのが、ドラファルさんを始めとした男性陣の腕っぷしだ。
ここの男性はウェイターからコックに至るまで、武闘派が多い。
ちょっとしたチンピラなら囲んでボコにできるくらい。
ただ一人、ラスルくんを除いては。
「だから焦りがあるんじゃないかな。自分もいつかはそういう荒事をこなせるようになった方がいいだろう、って」
「あー……しかしなぁ、腕っぷしってなぁ料理の腕を磨いてりゃ自然と身につくもんだろ」
「それはドラファルさんが特別なだけだよ」
まぁ確かにコックは体力仕事だろうけど、だからといっていくらなんでもそれだけでムキムキになるのは無茶ってものだ。
他のウェイターやコックも、ドラファルさんについていくため体力づくりは欠かしていないはず。
「とはいえ、無茶しすぎっていうのはよくないね。――そうだ、ドラファルさん。ここは私に任せて貰ってもいいかな?」
「あ? いいのか?」
「そ、普段美味しいものをいただいてるお礼ってことで」
「いや、そういうわけにもいかんから、当然礼はするが……ありがとな。俺はどーもラスルとの距離感が掴めなくてよぉ」
そこは思春期だからね。
ちょっとくらい反抗期な方が、健全ってものだよ、多分。
■
――ここ最近、ラスルは毎日が充実していた。
昼は店で修業の日々。
まだまだ至らないこともあるが、できるようになってきたこともある。
特に焼麺の担当は完全にラスルであり、周囲が信頼してそれを任せてくれていることがわかって、ラスルは誇らしかった。
夜もこれまた修業の日々だ。
昼のウチに時たまやってくる冒険者から、素振りのコツや肉体づくりの秘訣をそれとなく聞き出し、実践する。
引っ込み思案だった自分が、こうやって誰かと積極的に交流するようになるとは思わなかった。
それもこれも、すべてはミツキのおかげである。
彼女が認めてくれる人間になるという目的は、今もラスルの心を熱く燃やしていた。
負けられない、負けたくない。
一体何に負けたくないのかは、正直自分でもよくわからないけれど、この衝動は本物のはず。
だから、それに突き動かされるようにラスルは努力していた。
ただまぁ、何事も限界というものは存在する。
連日の無茶がたたって、ラスルは流石に疲労困憊であった。
それでも、少しでも早く強くなりたい――父やミツキに誇れる自分になりたいという焦りから、ラスルは鍛錬を続けてしまったのだ。
結果、鍛錬の途中でラスルは倒れた。
それだけならまぁ、そのうち目を覚まして鍛錬を終え、部屋に戻っていたことだろう。
しかしこの日は、すこしばかり事情が違った。
「あ、れ……」
目を覚ますと、ラスルは布団の中にいた。
見慣れた自室に戻っていたのである。
疲れて、家に戻った記憶が飛んでしまったのだろうか、そんなことを思えて視線を彷徨わせると――
「――――あ、起きた?」
そこに、ミツキがいた。
――――は?
脳内を駆け巡る疑問符の群れ。
現実と幻覚の境目がなくなる感覚。
しかし、確かにそこにはミツキがいる。
ラスルが料理本などを読むさいに使う椅子に腰掛けて――いつもののんびりとした目つきでラスルを見ていた。
そう、この日ミツキは――大罪を犯したのである。
真夜中に、思春期の男子の部屋に潜り込むという大罪を。
なんなら、そもそも男子を部屋に連れてきたのはミツキだ。
しかも部屋の中だからかコートを脱いでノースリショーパンスタイルである。
余罪はたっぷり、三回くらいエッチすぎ刑で死刑を求刑されても、文句の言えない所業だった――
エ駄死! エ駄死!