異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた 作:暁刀魚
翌日、私はラスルくんを伴ってフェニハナの街へやってきていた。
ドラファルさんから許可は得ていて、2日ほどラスルくんをビシバシ鍛えることになったのである。
必要なのは、前も言った「身体強化のコツを掴むこと」だ。
これができるかできないかで、この世界の人間の強さは大きく違ってくる。
戦士として一人前になれるかどうかの分水嶺。
ラスルくんはこれまでの料理人生活における基礎体力づくりと、店にやってきた冒険者から聞き出したという鍛錬法を一ヶ月ぶっ続けでやったことによる無茶で、急速にこれをものにしつつあった。
無論、しばらく鍛錬を続けていれば、自然とラスルくんはそれを身につけるだろう。
だけど一ヶ月で倒れてしまうくらい疲弊してしまうのだ。
だったら、ここは私が一気に時間を使って、ラスルくんを鍛えたほうがいい。
というわけで、冒険者ギルドの規模が大きいフェニハナにやってきたのである。
施設が充実しているここでなら、いい感じに鍛錬を行うことができるだろう。
ついでに、今回は二人ほどゲストを呼んである。
「というわけで、今日はアルマちゃんとダグラスくん、二人の協力者と一緒にラスルくんを鍛えていきまーす」
「……はぁ」
「もう、あまりため息をつくものではないわよ。幸運が逃げていってしまうってお師匠様が言ってたわ」
「その格言言ったやつ、隣にいるじゃねぇか」
なんか、アレ以来アルマちゃんとダグラスくんはパーティを組んでいるらしい。
危なっかしいけれど戦闘力は新人の域を超えているアルマちゃんと、態度以外はしっかりものなダグラスくん。
まぁ、相性はどう考えてもいいだろうなぁ。
「……ところで、そちらの殿方はどうして地面につっぷして倒れているのかしら」
「さぁ……」
「どっかの放蕩娘が、こいつをお姫様抱っこで飛行しながら連れてきたんだと。哀れなこった」
「まぁ……羨ましいですわ……」
あ、ラスルくんが倒れてるのは初めての飛行で疲れてたからなんだ。
移動する時間がもったいないということで、ラスルくんは私が空を飛んで連れてきていた。
そのせいか、さっきからうつ伏せに倒れて動かないのが現在のラスルくんである。
怖かったかな……ごめんね……あとお姫様抱っこって言葉はこの世界にも……あるよ……
「で、だ。身体強化のコツ、だったかぁ?」
「いわゆる上級強化、だったわね。身体強化はただ強化を行うだけでなく、自分の体の動きに最適化して初めて正しい使い方ができているんだわ」
「さっすがアルマちゃんは詳しいねぇ。アルマちゃんなら、上級強化もできるかな?」
「ええ! みていてお師匠様! ふん!」
そうして、アルマちゃんが自身に力を込める。
……が、変化はない。
そりゃ魔力による身体強化は、体の内部で行われてることなんだから。
私なら、それを視認することもできるけど……普段の身体強化と変わらないな。
つまりアルマちゃんは、普段から上級強化ができているということだ。
「で、ダグラスくんは新人ながらにこの上級強化のコツを掴めそうで掴めない、まぁラスルくんとほぼ同レベルの冒険者なわけだ」
「しかしこいつが料理人? とてもそうは見えねぇな」
私の言葉を聞いて、しげしげとダグラスくんがラスルくんを見る。
それはアレか、貧弱すぎて舐めてるってやつか。
折角ツンデレキャラで売り出してるのに、またチンピラに戻っちゃうのかいダグラスくん。
「この鍛え方、どうみても戦士のそれじゃねぇか。料理人」
逆だった――――いやまぁ、よくよく考えりゃそれもそうか。
倒れてるラスルくんの二の腕は明らかに引き締まっている。
「ちゃんと料理人だよ。ここ一ヶ月くらい本格的に身体強化の練習をしてるけど、それ以外の貯金は全部料理人として築いたものだからね」
「まぁ、素晴らしいわね」
それはそれとしてラスルくんをそろそろ起こさないと。
後ろから両脇に手を突っ込んで引っ張り上げようとしたら、カッと目を見開いて自力で起き上がった。
シャキン、という音が聞こえてきそうな勢いだ。
「始めていきましょう! はい! アルマさんもダグラスさんもよろしくお願いします!」
「よろしくお願いするわ!」
「大丈夫かこいつ……」
ダグラスくんは何か心配しているけれど、問題はないだろう。
ラスルくんはやる気満々だ。
先日と比べると顔色もいい、ゆっくり休んだのと私のスープが効いたかな?
「さて、身体強化の上級強化は、これまで何度も説明した通り個々人が自分にあった形を掴まないと行けない。これは画一的な指導ができないってことだね」
自転車に一人で乗れるようになるのと、理屈としては同じだ。
でも、難易度はもっと上がるし、やらなきゃいけないことも非常に複雑。
一朝一夕で身につくものではない。
けど、ちゃんと基礎ができていれば、ある日するっとできてしまうものでもある。
ラスルくんもダグラスくんも、この基礎はすでに出来上がっていた。
なら後は、それを形にするだけ。
ぶっちゃけ今回で完全に習得する必要はない。
必要なのは、基本的な方向性。
なんというか、スキルツリーを眺めながらビルドの方向性を固める……みたいな。
二人とも真面目が服を着て歩いているタイプだから、最初の方向性さえ固めてしまえば後は勝手に何とかしてしまうだろう。
「というわけで一人ずつ、実際に魔力を制御した感覚を掴んでみようか」
「ど、どうやってやるんですか?」
「こうやるの」
「うわあああああ!?」
私はラスルくんの手を、そっと握り込んだ。
するとめちゃくちゃびっくりするラスルくん。
「お姉さんに手を握られるとびっくりしちゃうタイプかあ」
「そ、それは誰だってしますよ!」
「そっかあ」
アルマちゃんがぶんぶんと首を縦に振っていた。
いやでもね、これは必要なことなんだよ。
アルマちゃんだってわかってるでしょ?
「これが何かっていうとー……あ、ラスルくん手に豆ができてる!」
「そこで話逸らさないでください! ほんっとうにお願いします!」
「仕方ないな……まあ簡単にいうと、私が魔力を流し込むんだよ。……こんな風に!」
私の魔力が、ラスルくんの中へと入っていく。
これは私が上級強化を行う際に制御する魔力の流れをラスルくんの体内で再現したものだ。
「どうかなー」
「……何だか、普段より周囲の音がよく聞こえる気がします」
「聴覚まで強化されてるからね。この状態で自分でも身体強化をしてみて」
「は、はいっ」
私はラスルくんの体内に流れる魔力を、いい感じに観察する。
するとこれまでやっていた身体強化とは明らかに“何か”が違った。
具体的に言葉で表現するのは難しいけど、成功していることは間違いない。
「とまあこんな感じでね、上級強化ができる先輩から実際に魔力を流してもらって感覚を掴むのが上達の近道なんだ」
「でも、それをして上級強化を身につけるにはちゃんとした基礎ができてないといけない……って習ったわ! だからその基礎ができるようになるまで、この練習方法は秘密なのよ!」
私の言葉をアルマちゃんが引き継ぐ。
偉いので頭を撫でておくと、アルマちゃんが「きゅわわー!」と猫みたいな声で鳴いていた。
うーん可愛い。
ラスルくんはアルマちゃんに同情の視線を送っていた。
解せぬ。
「んで、これをダグラスくんにもやったら、ダグラスくんとラスルくんの二人で組み手してみよっか! こういうのは同じくらいの練度の相手とやるのが一番いいんだよ」
「ぼ、僕は喧嘩の経験がありませんが……」
「そこは俺が合わせる。つうか俺もおめーも、上級強化を意識しすぎてろくに動けんだろ」
まあ実際その通りで、組み手といってもそこまで本格的なことをするつもりはない。
ただ、最初のうちは一人で練習するよりも、顔を突き合わせてやった方がいいだろうという考えだ。
さて、あとはダグラスくんの方なんだけど、こっちはアルマちゃんに魔力を通してもらうことにした。
……んだけど。
「…………なんか犯罪臭がするなぁ」
「はわっ!?」
「お前がやらせたんだろうがよ! ってかおめーらも似たようなもんだろうが!」
なんとも事案な感じになってしまうのだった。
…………え、私たちも!?
――結局その後、上級強化は習得できなかったけれど。
なんとなく、アルマちゃんとダグラスくん、それからラスルくんの間に友情が芽生えたきがする。
三人で寄り集まってラスルくんに二人が、何やら同情気味に話しかけてたけど。
何なんだろうね、アレは。
わちゃわちゃ。
ラスル回は一旦ここまでで、次から別の話になります。
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